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1部 ヤギと奇跡の器
第36話 不明な怒り(アシュレイ視点)
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階段を降りる時、なぜ自分がこんなにも怒りを感じているかわからなかった。
腕を掴んだ時、見上げられたノアの真っ赤な目を直視していられなかった。そして、ノアが男に欲情するという事実がわかった時にも、わざわざ顔を見て確かめることはできなかった。
ふつふつと湧き上がる怒りの原因がわからず、階段を下る足音が大きくなる。しかしルイスには暇を出さなければならないし、俺はこの塔に通わなければならない。それが腹立たしいのだと自分を納得させ、1階の扉を開け放った。
「アシュレイ? スープ足りなかった?」
「ルイス、明日からしばらく俺がこの塔に常駐する」
「え? 本当? じゃあ明日から3人分食事を用意するね」
「ルイスはしばらく休みを取ってくれ」
「え……? ああ、ノアと2人っきりがいいの? でも僕もこれが仕事だし、聞き耳とか立てないから……」
「そういうことを言っているのではない」
「なんで……?」
「なんでもだ」
「そんなんじゃ納得できないよ。ちゃんと説明してよ」
ここにきてルイスは強情だった。しかし包み隠さず全てを打ち明けることも憚られる。静寂が2人の間に横たわった時、階段を下る音が響いてきた。開け放ったままだった扉に、ノアが息を切らしもたれかかる。
「ノア……どうしたの!?」
駆け寄ろうとするルイスを片腕で制すると、不満そうに俺を睨みつけた。
「アシュレイ様……僕は……卑しい人間です……でもルイスは……大切な……友達なんです……。友達でいられることが……僕の唯一の誇りなのです……」
「ノア!? ……アシュレイ離して!」
ルイスが思いもよらない力で俺の腕から逃げ出そうとする。腕に力を込めルイスを動かないように固定した。
「責務が……どういう行為なのか……理解してから……ルイスに頼んだことは……ありません……そう願っても……頼んだことはありません……だから……」
「アシュレイ! ノアになにを言わせたいんだ!」
「お前の兄に申し訳が立たない」
「なにを言って……」
言葉の途中でルイスは黙り込み、状況を理解したようだった。ルイスは渾身の力で俺の腕を振り払った。
「ノア、大丈夫だから部屋に戻ってて」
ノアの真っ赤な目がみるみる潤み、それを隠すようにうなずいた時、滴が2滴地面に落ちた。その様子で俺の胸によくわからない痛みが走る。
ルイスが戸口に立ち、ノアが階段を登るのを見送って扉を閉める。振り返りざま、なにかを言おうとして、また黙った。
「とりあえず座ろう」
そう言い、ルイスは心を整理するためか、台所に立ち紅茶を淹れはじめた。
腕を掴んだ時、見上げられたノアの真っ赤な目を直視していられなかった。そして、ノアが男に欲情するという事実がわかった時にも、わざわざ顔を見て確かめることはできなかった。
ふつふつと湧き上がる怒りの原因がわからず、階段を下る足音が大きくなる。しかしルイスには暇を出さなければならないし、俺はこの塔に通わなければならない。それが腹立たしいのだと自分を納得させ、1階の扉を開け放った。
「アシュレイ? スープ足りなかった?」
「ルイス、明日からしばらく俺がこの塔に常駐する」
「え? 本当? じゃあ明日から3人分食事を用意するね」
「ルイスはしばらく休みを取ってくれ」
「え……? ああ、ノアと2人っきりがいいの? でも僕もこれが仕事だし、聞き耳とか立てないから……」
「そういうことを言っているのではない」
「なんで……?」
「なんでもだ」
「そんなんじゃ納得できないよ。ちゃんと説明してよ」
ここにきてルイスは強情だった。しかし包み隠さず全てを打ち明けることも憚られる。静寂が2人の間に横たわった時、階段を下る音が響いてきた。開け放ったままだった扉に、ノアが息を切らしもたれかかる。
「ノア……どうしたの!?」
駆け寄ろうとするルイスを片腕で制すると、不満そうに俺を睨みつけた。
「アシュレイ様……僕は……卑しい人間です……でもルイスは……大切な……友達なんです……。友達でいられることが……僕の唯一の誇りなのです……」
「ノア!? ……アシュレイ離して!」
ルイスが思いもよらない力で俺の腕から逃げ出そうとする。腕に力を込めルイスを動かないように固定した。
「責務が……どういう行為なのか……理解してから……ルイスに頼んだことは……ありません……そう願っても……頼んだことはありません……だから……」
「アシュレイ! ノアになにを言わせたいんだ!」
「お前の兄に申し訳が立たない」
「なにを言って……」
言葉の途中でルイスは黙り込み、状況を理解したようだった。ルイスは渾身の力で俺の腕を振り払った。
「ノア、大丈夫だから部屋に戻ってて」
ノアの真っ赤な目がみるみる潤み、それを隠すようにうなずいた時、滴が2滴地面に落ちた。その様子で俺の胸によくわからない痛みが走る。
ルイスが戸口に立ち、ノアが階段を登るのを見送って扉を閉める。振り返りざま、なにかを言おうとして、また黙った。
「とりあえず座ろう」
そう言い、ルイスは心を整理するためか、台所に立ち紅茶を淹れはじめた。
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