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1部 ヤギと奇跡の器
第34話 葛藤
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いつもは昼前に始まるのに、今日は朝からおかしい。理由はなんとなくわかっていた。悪魔に体を触られ、堪えが効かなくなったのだ。
今日は目覚めに吐精をしていなかった。だからアシュレイとルイスが来る前に、久しぶりに自分で慰めた。
でも今日は昂りが治ることはなかった。
むしろ呼水のように欲望が溢れ出し、塔の外から人の声が聞こえる頃には、息苦しささえ感じるほど昂ってしまっていた。
下半身がひきつれて痛い。
僕は外から見えないようにそっと窓の横にはりつく。今日はアシュレイにルイス、それに兄様2人も来ていた。4人談笑しながら塔の一本道を歩いている。
「あぁっ……ううぅ……なん……で……」
なんでこんな日に限って、僕はこんなことになってしまうのか。アシュレイに兄様たちが交互に抱きついて笑っている。それをルイスがニコニコと眺めていた。
「アシュ……あ……ぁ……あぁ……」
一度でも気を抜けばすぐに淫らな想像をしてしまう。こんなに明るい陽気のなか、4人は笑って楽しそうにしているのに。
その時、アシュレイが僕の方を見た気がした。僕は慌ててしゃがんで、身を縮こめる。その拍子に無意識に手が下半身に伸びてしまう。
僕は手を石壁に打ち付ける。何度も何度も打ち付けて、痛みでこの高ぶりから意識を逸らした。その瞬間思ってしまうのだ。
今見た4人の風景に僕が入ることはないのだと。
下ろした手から血が流れている。それで我に返り慌てて布を巻いた。
石壁にも血がついていたのでゴシゴシと布で拭った。別になんでもないことなのに、喉の奥から感情が込み上げる。僕はこの感情の名前を知らない。羨ましい、寂しい、悲しい、情けない、どの言葉も当てはまらなかった。
「ノア、おはよう! 今日もアシュレイが午前中いてくれるって!」
「ルイス、おはよう」
僕は今起きたかのようにベッドから起き上がる。このまま具合が悪いとやり過ごそうと思ったが、それではアシュレイが心配してまた家に帰れないかもしれない。僕が午前だけでも我慢ができるのかと迷っているうちに、ルイスは矢継ぎ早に質問をする。
「朝ごはん食べよう?」
「あ、さっき1人で食べた……」
「え……?」
今起きたかのように見せかけておいて、咄嗟に出た言葉で矛盾が生じてしまった。僕が考えあぐねていたら、ルイスは優しく笑ってベッドに歩いてきた。
そして窓辺に落ちていた布を拾った。その布に心臓が飛び出しそうなほどドキッとする。
思わず自分の手を見るが、ちゃんと布は巻かれていた。ルイスが手にした布は僕の血がついたものではなく、悪魔へのパンを包んでいた布だった。
「じゃあ、お友達の分だけ持ってくるね。ノアも昨日のパンだけじゃ足りないでしょ? スープだけ持ってくるから待ってて」
ルイスは僕が待ちきれずに昨日のパンをかじったのだと勘違いしたようだった。罪悪感よりも安堵が広がる汚い心に感情がぐちゃぐちゃになる。血の出ていない方で目を覆う。
「ルイス……ごめんね……」
「なにを謝ることがあるの? 食欲旺盛なことはいいことだよ! ちょっと待っててね、アシュレイに運んでもらうから、2人はそのまま研究して!」
ルイスは明るく僕の言い逃れできる場所を奪って階段を降りていく。僕は考えられる最良の方法を考える。
考えなしにその場その場で対処をするからこんなことになるのに、でも目の前のことしか考えられなかった。昂りが酷すぎて平静を取り繕う手立てのことなど目の前のことしかできないのだ。
アシュレイが来る前にと机の方へ移動する。なにかいい方法はないかと思い、ベッドサイドにあったクッションを持ってフラフラと移動する。椅子に座って前を隠すためクッションを膝に乗せた。これで隠せていると安堵した時に、アシュレイがスープと本を持って部屋に入ってきた。
今日は目覚めに吐精をしていなかった。だからアシュレイとルイスが来る前に、久しぶりに自分で慰めた。
でも今日は昂りが治ることはなかった。
むしろ呼水のように欲望が溢れ出し、塔の外から人の声が聞こえる頃には、息苦しささえ感じるほど昂ってしまっていた。
下半身がひきつれて痛い。
僕は外から見えないようにそっと窓の横にはりつく。今日はアシュレイにルイス、それに兄様2人も来ていた。4人談笑しながら塔の一本道を歩いている。
「あぁっ……ううぅ……なん……で……」
なんでこんな日に限って、僕はこんなことになってしまうのか。アシュレイに兄様たちが交互に抱きついて笑っている。それをルイスがニコニコと眺めていた。
「アシュ……あ……ぁ……あぁ……」
一度でも気を抜けばすぐに淫らな想像をしてしまう。こんなに明るい陽気のなか、4人は笑って楽しそうにしているのに。
その時、アシュレイが僕の方を見た気がした。僕は慌ててしゃがんで、身を縮こめる。その拍子に無意識に手が下半身に伸びてしまう。
僕は手を石壁に打ち付ける。何度も何度も打ち付けて、痛みでこの高ぶりから意識を逸らした。その瞬間思ってしまうのだ。
今見た4人の風景に僕が入ることはないのだと。
下ろした手から血が流れている。それで我に返り慌てて布を巻いた。
石壁にも血がついていたのでゴシゴシと布で拭った。別になんでもないことなのに、喉の奥から感情が込み上げる。僕はこの感情の名前を知らない。羨ましい、寂しい、悲しい、情けない、どの言葉も当てはまらなかった。
「ノア、おはよう! 今日もアシュレイが午前中いてくれるって!」
「ルイス、おはよう」
僕は今起きたかのようにベッドから起き上がる。このまま具合が悪いとやり過ごそうと思ったが、それではアシュレイが心配してまた家に帰れないかもしれない。僕が午前だけでも我慢ができるのかと迷っているうちに、ルイスは矢継ぎ早に質問をする。
「朝ごはん食べよう?」
「あ、さっき1人で食べた……」
「え……?」
今起きたかのように見せかけておいて、咄嗟に出た言葉で矛盾が生じてしまった。僕が考えあぐねていたら、ルイスは優しく笑ってベッドに歩いてきた。
そして窓辺に落ちていた布を拾った。その布に心臓が飛び出しそうなほどドキッとする。
思わず自分の手を見るが、ちゃんと布は巻かれていた。ルイスが手にした布は僕の血がついたものではなく、悪魔へのパンを包んでいた布だった。
「じゃあ、お友達の分だけ持ってくるね。ノアも昨日のパンだけじゃ足りないでしょ? スープだけ持ってくるから待ってて」
ルイスは僕が待ちきれずに昨日のパンをかじったのだと勘違いしたようだった。罪悪感よりも安堵が広がる汚い心に感情がぐちゃぐちゃになる。血の出ていない方で目を覆う。
「ルイス……ごめんね……」
「なにを謝ることがあるの? 食欲旺盛なことはいいことだよ! ちょっと待っててね、アシュレイに運んでもらうから、2人はそのまま研究して!」
ルイスは明るく僕の言い逃れできる場所を奪って階段を降りていく。僕は考えられる最良の方法を考える。
考えなしにその場その場で対処をするからこんなことになるのに、でも目の前のことしか考えられなかった。昂りが酷すぎて平静を取り繕う手立てのことなど目の前のことしかできないのだ。
アシュレイが来る前にと机の方へ移動する。なにかいい方法はないかと思い、ベッドサイドにあったクッションを持ってフラフラと移動する。椅子に座って前を隠すためクッションを膝に乗せた。これで隠せていると安堵した時に、アシュレイがスープと本を持って部屋に入ってきた。
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