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1部 ヤギと奇跡の器
第21話 兄様たち(ルイス視点)
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石造りの塔は遮音性が高く、中の音は漏れないし、外の音も聞こえない。しかし中の階段を通して階下の音は筒抜けだった。
さっきから兄様たちの談笑している声が、木戸の前にも響いている。
「ルイス、ノアはどうしたんだ?」
「今日は具合が悪いようで……後で消化の良いものを持っていきます」
僕の顔を見て、兄様たちは顔を見合わす。
「どうした、ルイス。ノアは大丈夫なのか?」
「兄様、夕食にしましょう」
「なにかあったのか? 顔色が悪いぞ」
ルークもジルも交互に質問する。兄様たちは食材を買い込んでくるほど夕食を楽しみにしていたのだ。だからせめて夕食の後に話したいのに、罪悪感が胸を焦がして言葉を止めることができなかった。
「兄様……僕は取り返しのつかないことをしてしまいました……」
そばにいたルークにしがみつく。
「どうしたんだ、ルイス……」
ルークが息を飲みながら僕を抱き上げ、近づいてきたジルと共に僕を撫でながら椅子に座る。僕を膝に乗せてルークとジルが肩と背中を撫でてた。
「この塔で何人かの生贄が自ら命を絶っていると聞いていました」
兄様たちの周りの空気が緊張で張り詰めるのを感じる。
「そうして命を断つ者が口を揃えて悪魔を見たと言う、とも聞いていました。孤独がそういった幻覚を見せるのだと。でもそんなことを言い出す生贄はいなかったし、少なくとも僕がいる間に自ら命を絶った者はいません」
「ルイス、ゆっくりでいいんだよ?」
「ノアがここに来たときには、ノアは孤独など感じていませんでした。責務と性愛は結びついていなかったんです。でも……」
「兄様たちのせいだな……」
「兄様たちだけのせいではありません」
ルークは察しがよかった。ノアは僕たちの行為を見るまでは、責務にどんな意味があるのかわからなかったと言っていた。そうやって行為の意味を認識させておきながら、ノアには1人で行うことを強要し続けねばならない。あまりに残酷な仕打ちだった。それなのに僕は兄様との行為をこれみよがしに……。
「でもノアも男だ。遅かれ早かれそういった欲望も出てきたのではないのか?」
僕たちが愛し合っている様を見なくたってゆくゆくはそうなる、というルークの慰めの言葉も思いやりも心に染みる。でも兄様たちも知らない、僕だけが知っている事実があるのだ。
「ノアがここに来て間もない頃僕に質問したんです。魔人は空に浮けるのかって……」
ルークは黙る。魔人は宙に浮けたとしても、せいぜい跳躍時の滞空時間が庸人より長い程度だ。ノアがいう魔人は、魔人でも庸人でもない。
奥で黙り込むジルはルークほど理解していないだろうけど、ノアがとても危険な状況というのはわかってくれているようだった。だから意を決しお願いをした。
「兄様、明日アシュレイを呼んで交代で番をするようにします。夜もなるべく帰るようにします。だから兄様たちは……」
「わかっている。しかしアシュレイの父君のこともある。もしルイスがなかなか帰ってこれなくても、兄様たちはこの塔に足を踏み入れない」
「兄様……」
「なに、塔には入らないが、ルイスには会いにくるぞ。塔の外でもいい。顔が見られるだけでいいんだ。兄様に話してくれてありがとう。ルイスに信頼をされているとわかって兄様は本当に嬉しい」
ルークは僕をまっすぐ見る。それは僕を弟としてではなく、1人の男として見つめてくれているような気がした。
「今日はノアにおやすみのキスをしてもいいか?」
奥でずっと黙っていたジルが口を開いた。
「はい。先にノアの食事を用意してきます」
「少しでもおかしなことがあったら兄様たちはこのまま帰る。遠慮せずに言ってくれ」
「ジル……僕にもキスをしてください」
ジルは大きな手で僕の頭を包み込み、頬にキスをしてくれる。ルークは反対側の頬に、そして代わる代わる唇にキスをしてくれた。
ルークは僕を床に下ろして、ノアの元へ急ぐように背中を押してくれる。僕は用意した食事の中から胃に負担にならなそうなものを選び、そしてパンを1切れ布に包んだ。
さっきから兄様たちの談笑している声が、木戸の前にも響いている。
「ルイス、ノアはどうしたんだ?」
「今日は具合が悪いようで……後で消化の良いものを持っていきます」
僕の顔を見て、兄様たちは顔を見合わす。
「どうした、ルイス。ノアは大丈夫なのか?」
「兄様、夕食にしましょう」
「なにかあったのか? 顔色が悪いぞ」
ルークもジルも交互に質問する。兄様たちは食材を買い込んでくるほど夕食を楽しみにしていたのだ。だからせめて夕食の後に話したいのに、罪悪感が胸を焦がして言葉を止めることができなかった。
「兄様……僕は取り返しのつかないことをしてしまいました……」
そばにいたルークにしがみつく。
「どうしたんだ、ルイス……」
ルークが息を飲みながら僕を抱き上げ、近づいてきたジルと共に僕を撫でながら椅子に座る。僕を膝に乗せてルークとジルが肩と背中を撫でてた。
「この塔で何人かの生贄が自ら命を絶っていると聞いていました」
兄様たちの周りの空気が緊張で張り詰めるのを感じる。
「そうして命を断つ者が口を揃えて悪魔を見たと言う、とも聞いていました。孤独がそういった幻覚を見せるのだと。でもそんなことを言い出す生贄はいなかったし、少なくとも僕がいる間に自ら命を絶った者はいません」
「ルイス、ゆっくりでいいんだよ?」
「ノアがここに来たときには、ノアは孤独など感じていませんでした。責務と性愛は結びついていなかったんです。でも……」
「兄様たちのせいだな……」
「兄様たちだけのせいではありません」
ルークは察しがよかった。ノアは僕たちの行為を見るまでは、責務にどんな意味があるのかわからなかったと言っていた。そうやって行為の意味を認識させておきながら、ノアには1人で行うことを強要し続けねばならない。あまりに残酷な仕打ちだった。それなのに僕は兄様との行為をこれみよがしに……。
「でもノアも男だ。遅かれ早かれそういった欲望も出てきたのではないのか?」
僕たちが愛し合っている様を見なくたってゆくゆくはそうなる、というルークの慰めの言葉も思いやりも心に染みる。でも兄様たちも知らない、僕だけが知っている事実があるのだ。
「ノアがここに来て間もない頃僕に質問したんです。魔人は空に浮けるのかって……」
ルークは黙る。魔人は宙に浮けたとしても、せいぜい跳躍時の滞空時間が庸人より長い程度だ。ノアがいう魔人は、魔人でも庸人でもない。
奥で黙り込むジルはルークほど理解していないだろうけど、ノアがとても危険な状況というのはわかってくれているようだった。だから意を決しお願いをした。
「兄様、明日アシュレイを呼んで交代で番をするようにします。夜もなるべく帰るようにします。だから兄様たちは……」
「わかっている。しかしアシュレイの父君のこともある。もしルイスがなかなか帰ってこれなくても、兄様たちはこの塔に足を踏み入れない」
「兄様……」
「なに、塔には入らないが、ルイスには会いにくるぞ。塔の外でもいい。顔が見られるだけでいいんだ。兄様に話してくれてありがとう。ルイスに信頼をされているとわかって兄様は本当に嬉しい」
ルークは僕をまっすぐ見る。それは僕を弟としてではなく、1人の男として見つめてくれているような気がした。
「今日はノアにおやすみのキスをしてもいいか?」
奥でずっと黙っていたジルが口を開いた。
「はい。先にノアの食事を用意してきます」
「少しでもおかしなことがあったら兄様たちはこのまま帰る。遠慮せずに言ってくれ」
「ジル……僕にもキスをしてください」
ジルは大きな手で僕の頭を包み込み、頬にキスをしてくれる。ルークは反対側の頬に、そして代わる代わる唇にキスをしてくれた。
ルークは僕を床に下ろして、ノアの元へ急ぐように背中を押してくれる。僕は用意した食事の中から胃に負担にならなそうなものを選び、そしてパンを1切れ布に包んだ。
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