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1部 ヤギと奇跡の器
第11話 怒号と静寂の宴
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夕方になってルイスが階下に僕を呼んだ。兄様達が帰ったのだろうと予想をしていたが、食卓にはルークもジルも座っていた。
「ノア、突然ごめんね。僕の兄様たちを紹介したくて……」
「なんだ、まだこどもじゃないか!」
「ジル、失礼だよ。塔は成人した男子しか選ばない。ノア、気を悪くしないで。私はルーカス。ルークって呼んでくれ」
「すまん、思ったことがすぐに口に出てしまう性分でな。俺はジルベスタだ。長いからジルって呼んでくれ」
家柄を出さないというのはこういう時に便利なのかも知れない。敬称では家の名を使うことが多く、ここでは僕以外全員兄弟だ。
僕がぼんやりしていたら、兄弟3人が僕をじっと見つめていた。
「生贄のノアです」
端的な自己紹介だと思ったが、返事は兄弟3人の爆笑だった。どうしたらいいかわからず俯いていたら、ルイスが助け舟を出してくれた。
「笑ったりしてごめん、生贄のっていうのは今度からいらないよ。今度からは……ルイスの友達っていうのはどうだい? ささ、座って。今日は兄様たちと一緒に食事でもいい?」
「光栄です……」
「そんな緊張するな、ノア」
ガハハと豪快に笑うジルを諫めて、ルークが心配そうに見る。
「アシュレイより一回り大きいからびっくりしただろう。魔人の中でも大きいのが軍に入る傾向があるから……怖がらないで。ジルはこう見えて人一倍優しい子なんだ」
ルークはルイスを愛するようにジルをも愛している。慈愛に満ちた声色からそれを窺い知ることができた。
「ノア……そういえばお務めなんだけど、今日は1人でできるようになったの?」
隠したいと思っていたことを突きつけられ、僕は黙ってしまう。そこにジルが横槍を入れた。
「ルイス、1人ってなんだ。元来1人で行うものではないのか?」
「うん。でも事情があって、2人で練習をしたんだ」
「練習?」
ルークの声で一気に空気が凍りついた。それを察してかルイスが慌てて取り繕うと口を開いた時、僕は僕自身の責任から口を開いた。
「僕が未熟者だったからです。ルイスに体の構造を教わり、模型を使って教わってもすることができませんでした。なのでルイスの厚意に甘えてしまいました……申し訳ございま……」
「周りくどいことを言うな! ルイスになにをしたんだ!」
ジルの大声が空気を震わせ、その迫力に肩を竦める。遅かれ早かれ謝罪をしなければならなかったのだ。震える声で続ける。
「僕の……肛門に……その……」
「ノアごめん、ちゃんと兄様たちに説明しとくべきだった。ノアと僕はやましい事なんてありません。ノアは精通もしていなかった。だから兄様が僕にしてくれるように、指を入れて吐精を促しただけです」
「な……精通もしてない……?」
ルークもジルも絶句してしばらく部屋に静寂が訪れた。
「僕は……先程……ルイスが……その……」
「あわわわ……ノア、下に降りてきてたの!?」
ルイスが慌てふためいて顔がみるみる赤くなる。ルークもジルも次になにを言い出すのかと険しい顔で僕を睨んでいた。
「覗いたりして……申し訳ございません……でも……今日お見かけするまで……この行為が何のために行われるかも存じ上げませんでした……」
2人の険しい表情を見ていられなくて、申し訳ございません、と再度謝罪をしてこうべを垂れた。
「ノア……謝らないで……! 謝らなければならないのは兄様たちだ! こんな幼気な少年をそんな浅ましい目で見て!」
今まで聞いたこともない怒号に肩を震わせたら、ルイスは僕に駆け寄り肩を抱いてくれた。
「急に怒鳴ったりして……ごめんなさい……ルイス……兄様たちが悪かった」
「兄様たちを許してくれ……ルイスのことになると……いや、そんな言い訳をしてはならない……ノア、本当に申し訳ない……」
ジルに続きルークもルイスに怯えきった様子で弱々しく謝罪をする。今言わなければとルイスの方を見た。
「僕はルイスに謝罪しなければならないと今日思いました。アシュレイが僕を叱責した理由もわかっていなかったんです」
「ああ、ノア……そんなことを言わないで……アシュレイは気が立っていただけでそこまで深く考えてなんかいないよ……」
「アシュレイ……?」
ルークがまた横槍を入れようとした時、ルイスの怒号が部屋中の空気を揺らした。
「兄様! 人にはそれぞれ事情というものがあるのです! さっきの謝罪はなんだったのですか! それとも兄様は僕を信頼できませんか?」
「ひっ……ルイス……ごめんなさい……ルイスを信頼している……兄様を嫌いにならないで……」
「じゃあ僕の友達に仲直りのハグを!」
ルイスの大声にルークとジルはガタッと立ち上がって、僕めがけて走ってきた。ジルが身をかがめ、僕を抱きしめて、そのまま持ち上げる。
「ノア、兄様を許してくれ」
あまりの大きさにびっくりしていると、ジルからルークに空中で引き渡される。
「ノア、申し訳なかった。ルイスといつまでも良き友でいてくれ」
良き友、その言葉がこそばゆくて身を縮めた。
「ノア……?」
「ルイスの友達でいられるのが嬉しいです」
ルークの目がみるみる潤んで、また僕をきつく抱いた。
「ああ、こんないい子になんてことを……ジル、もう一度ハグを……」
僕は何度かジルとルーク間を行き来して、ルイスの配膳が終わる頃に椅子に戻された。こんなに逞しく愛情深い兄2人に愛されるルイスを、僕は心の底から尊敬した。
「ノア、突然ごめんね。僕の兄様たちを紹介したくて……」
「なんだ、まだこどもじゃないか!」
「ジル、失礼だよ。塔は成人した男子しか選ばない。ノア、気を悪くしないで。私はルーカス。ルークって呼んでくれ」
「すまん、思ったことがすぐに口に出てしまう性分でな。俺はジルベスタだ。長いからジルって呼んでくれ」
家柄を出さないというのはこういう時に便利なのかも知れない。敬称では家の名を使うことが多く、ここでは僕以外全員兄弟だ。
僕がぼんやりしていたら、兄弟3人が僕をじっと見つめていた。
「生贄のノアです」
端的な自己紹介だと思ったが、返事は兄弟3人の爆笑だった。どうしたらいいかわからず俯いていたら、ルイスが助け舟を出してくれた。
「笑ったりしてごめん、生贄のっていうのは今度からいらないよ。今度からは……ルイスの友達っていうのはどうだい? ささ、座って。今日は兄様たちと一緒に食事でもいい?」
「光栄です……」
「そんな緊張するな、ノア」
ガハハと豪快に笑うジルを諫めて、ルークが心配そうに見る。
「アシュレイより一回り大きいからびっくりしただろう。魔人の中でも大きいのが軍に入る傾向があるから……怖がらないで。ジルはこう見えて人一倍優しい子なんだ」
ルークはルイスを愛するようにジルをも愛している。慈愛に満ちた声色からそれを窺い知ることができた。
「ノア……そういえばお務めなんだけど、今日は1人でできるようになったの?」
隠したいと思っていたことを突きつけられ、僕は黙ってしまう。そこにジルが横槍を入れた。
「ルイス、1人ってなんだ。元来1人で行うものではないのか?」
「うん。でも事情があって、2人で練習をしたんだ」
「練習?」
ルークの声で一気に空気が凍りついた。それを察してかルイスが慌てて取り繕うと口を開いた時、僕は僕自身の責任から口を開いた。
「僕が未熟者だったからです。ルイスに体の構造を教わり、模型を使って教わってもすることができませんでした。なのでルイスの厚意に甘えてしまいました……申し訳ございま……」
「周りくどいことを言うな! ルイスになにをしたんだ!」
ジルの大声が空気を震わせ、その迫力に肩を竦める。遅かれ早かれ謝罪をしなければならなかったのだ。震える声で続ける。
「僕の……肛門に……その……」
「ノアごめん、ちゃんと兄様たちに説明しとくべきだった。ノアと僕はやましい事なんてありません。ノアは精通もしていなかった。だから兄様が僕にしてくれるように、指を入れて吐精を促しただけです」
「な……精通もしてない……?」
ルークもジルも絶句してしばらく部屋に静寂が訪れた。
「僕は……先程……ルイスが……その……」
「あわわわ……ノア、下に降りてきてたの!?」
ルイスが慌てふためいて顔がみるみる赤くなる。ルークもジルも次になにを言い出すのかと険しい顔で僕を睨んでいた。
「覗いたりして……申し訳ございません……でも……今日お見かけするまで……この行為が何のために行われるかも存じ上げませんでした……」
2人の険しい表情を見ていられなくて、申し訳ございません、と再度謝罪をしてこうべを垂れた。
「ノア……謝らないで……! 謝らなければならないのは兄様たちだ! こんな幼気な少年をそんな浅ましい目で見て!」
今まで聞いたこともない怒号に肩を震わせたら、ルイスは僕に駆け寄り肩を抱いてくれた。
「急に怒鳴ったりして……ごめんなさい……ルイス……兄様たちが悪かった」
「兄様たちを許してくれ……ルイスのことになると……いや、そんな言い訳をしてはならない……ノア、本当に申し訳ない……」
ジルに続きルークもルイスに怯えきった様子で弱々しく謝罪をする。今言わなければとルイスの方を見た。
「僕はルイスに謝罪しなければならないと今日思いました。アシュレイが僕を叱責した理由もわかっていなかったんです」
「ああ、ノア……そんなことを言わないで……アシュレイは気が立っていただけでそこまで深く考えてなんかいないよ……」
「アシュレイ……?」
ルークがまた横槍を入れようとした時、ルイスの怒号が部屋中の空気を揺らした。
「兄様! 人にはそれぞれ事情というものがあるのです! さっきの謝罪はなんだったのですか! それとも兄様は僕を信頼できませんか?」
「ひっ……ルイス……ごめんなさい……ルイスを信頼している……兄様を嫌いにならないで……」
「じゃあ僕の友達に仲直りのハグを!」
ルイスの大声にルークとジルはガタッと立ち上がって、僕めがけて走ってきた。ジルが身をかがめ、僕を抱きしめて、そのまま持ち上げる。
「ノア、兄様を許してくれ」
あまりの大きさにびっくりしていると、ジルからルークに空中で引き渡される。
「ノア、申し訳なかった。ルイスといつまでも良き友でいてくれ」
良き友、その言葉がこそばゆくて身を縮めた。
「ノア……?」
「ルイスの友達でいられるのが嬉しいです」
ルークの目がみるみる潤んで、また僕をきつく抱いた。
「ああ、こんないい子になんてことを……ジル、もう一度ハグを……」
僕は何度かジルとルーク間を行き来して、ルイスの配膳が終わる頃に椅子に戻された。こんなに逞しく愛情深い兄2人に愛されるルイスを、僕は心の底から尊敬した。
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