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ワンライ・SS・その他
久遠家のバレンタインデー
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日本には父親にプレゼントを贈るイベントが数多くある。誕生日、父の日、クリスマス、そしてバレンタイン。後者2つは恋人がいない娘の父親としては期待して然るべきだと考えていた。考えていたのに!
「ま、円華……お父さんのは……?」
何事もないかのように足早に学校へ向かおうとする円華を引きとめて狼狽する。
「お弁当は台所にあるわよ」
「ち……ちが……」
昨日円華は夕食の後、確かにチョコレートを溶かしていたし、かわいいラッピングも広げていたはずだ。百歩譲ってそれが俺へのチョコじゃないとしてもだ! 一体誰に渡すつもりなのかを確かめずにはいられないんだ!
「円華……お弁当忘れてない?」
「なにを言ってるのよ……」
「授業参観の出席確認プリントちゃんと持った!?」
円華は学生カバンを開けて中を確かめる。円華が下を向いた隙に近づいて中を覗き見た。その中に昨日作ったと思しきチョコレートのラッピングが! 2つ! 見えた!
「あ、そっか! 今日バレンタインだったねーー……。そ……それ、冬馬君と玲音君の? そうでしょ!? そうだよね!?」
円華の冷酷な目に思わず小さな悲鳴を上げて仰反る。
「女性のカバンの中見るなんてサイテー」
髪を払って円華はそのまま学校に行ってしまった。
俺はしばらくそこから動けない。チョコレートを貰えないばかりか、また円華の機嫌を損ねてしまった。確かに汚い手を使ったかもしれない。しかしその制裁にしては重すぎないだろうか。これは娘を心配する親心なのに……。昔は無条件にお父さんを愛してくれた娘も、思春期で様変わりしてしまった。
でも女の子は神様からの預かり物。それが今日じゃないだけでいつかは親元を離れ嫁ぐのだ……。
このままだと泣き出しそうだったので朝食の片付けをしようと食器を持って台所に向かう。向かった先で、いつもお弁当が置いてある場所に目が奪われる。気がついたら持っていた皿を落としてしまった。皿の割れる音がまるで自分の心の音のようだった。お弁当の横に明かなるプレゼントが燦然と置かれている。
風の魔法を履行して、割れた皿を適当にどかす。弁当の横に置いてあるそれの大きさをまじまじと見る。
これは……円華のカバンに入っていたものよりも明かに大きいし、豪華だ……!
目から一気に涙が溢れ出す。円華はまだまだこどもで、お父さんが一番好きなんだ、そう思うと涙どころか嗚咽で息が詰まり、その拍子に少し吐いた。立っていられなくなり膝をついて床に突っ伏して泣いた。
ひとしきり泣いたあと、顔を上げた時に気がつく。皿も割ってしまい、さっき適当に風の魔法を履行したので床がめちゃくちゃだった。ついでに自分の吐瀉物もあった。流石にこれはもとに戻さないと円華に焼き殺される。
俺は無言で立ち上がり、掃除道具がある戸棚に向かう。後ろ髪を引かれ振り返ったら、円華の愛の象徴が目に入りまた涙を流しそうになる。
俺はなるべくそれを見ないようにしながら床をピカピカに磨き上げた。しばらく包みもあけずにスマホで撮影したり、匂いを嗅いだりして堪能した。円華のくれたチョコレートの成分は100%涙だった。
「ま、円華……お父さんのは……?」
何事もないかのように足早に学校へ向かおうとする円華を引きとめて狼狽する。
「お弁当は台所にあるわよ」
「ち……ちが……」
昨日円華は夕食の後、確かにチョコレートを溶かしていたし、かわいいラッピングも広げていたはずだ。百歩譲ってそれが俺へのチョコじゃないとしてもだ! 一体誰に渡すつもりなのかを確かめずにはいられないんだ!
「円華……お弁当忘れてない?」
「なにを言ってるのよ……」
「授業参観の出席確認プリントちゃんと持った!?」
円華は学生カバンを開けて中を確かめる。円華が下を向いた隙に近づいて中を覗き見た。その中に昨日作ったと思しきチョコレートのラッピングが! 2つ! 見えた!
「あ、そっか! 今日バレンタインだったねーー……。そ……それ、冬馬君と玲音君の? そうでしょ!? そうだよね!?」
円華の冷酷な目に思わず小さな悲鳴を上げて仰反る。
「女性のカバンの中見るなんてサイテー」
髪を払って円華はそのまま学校に行ってしまった。
俺はしばらくそこから動けない。チョコレートを貰えないばかりか、また円華の機嫌を損ねてしまった。確かに汚い手を使ったかもしれない。しかしその制裁にしては重すぎないだろうか。これは娘を心配する親心なのに……。昔は無条件にお父さんを愛してくれた娘も、思春期で様変わりしてしまった。
でも女の子は神様からの預かり物。それが今日じゃないだけでいつかは親元を離れ嫁ぐのだ……。
このままだと泣き出しそうだったので朝食の片付けをしようと食器を持って台所に向かう。向かった先で、いつもお弁当が置いてある場所に目が奪われる。気がついたら持っていた皿を落としてしまった。皿の割れる音がまるで自分の心の音のようだった。お弁当の横に明かなるプレゼントが燦然と置かれている。
風の魔法を履行して、割れた皿を適当にどかす。弁当の横に置いてあるそれの大きさをまじまじと見る。
これは……円華のカバンに入っていたものよりも明かに大きいし、豪華だ……!
目から一気に涙が溢れ出す。円華はまだまだこどもで、お父さんが一番好きなんだ、そう思うと涙どころか嗚咽で息が詰まり、その拍子に少し吐いた。立っていられなくなり膝をついて床に突っ伏して泣いた。
ひとしきり泣いたあと、顔を上げた時に気がつく。皿も割ってしまい、さっき適当に風の魔法を履行したので床がめちゃくちゃだった。ついでに自分の吐瀉物もあった。流石にこれはもとに戻さないと円華に焼き殺される。
俺は無言で立ち上がり、掃除道具がある戸棚に向かう。後ろ髪を引かれ振り返ったら、円華の愛の象徴が目に入りまた涙を流しそうになる。
俺はなるべくそれを見ないようにしながら床をピカピカに磨き上げた。しばらく包みもあけずにスマホで撮影したり、匂いを嗅いだりして堪能した。円華のくれたチョコレートの成分は100%涙だった。
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