魔法使いの大曲線

大田ネクロマンサー

文字の大きさ
上 下
36 / 37
ワンライ・SS・その他

久遠家のバレンタインデー

しおりを挟む
日本には父親にプレゼントを贈るイベントが数多くある。誕生日、父の日、クリスマス、そしてバレンタイン。後者2つは恋人がいない娘の父親としては期待して然るべきだと考えていた。考えていたのに!

「ま、円華……お父さんのは……?」

何事もないかのように足早に学校へ向かおうとする円華を引きとめて狼狽する。

「お弁当は台所にあるわよ」

「ち……ちが……」

昨日円華は夕食の後、確かにチョコレートを溶かしていたし、かわいいラッピングも広げていたはずだ。百歩譲ってそれが俺へのチョコじゃないとしてもだ! 一体誰に渡すつもりなのかを確かめずにはいられないんだ!

「円華……お弁当忘れてない?」

「なにを言ってるのよ……」

「授業参観の出席確認プリントちゃんと持った!?」

円華は学生カバンを開けて中を確かめる。円華が下を向いた隙に近づいて中を覗き見た。その中に昨日作ったと思しきチョコレートのラッピングが! 2つ! 見えた!

「あ、そっか! 今日バレンタインだったねーー……。そ……それ、冬馬君と玲音君の? そうでしょ!? そうだよね!?」

円華の冷酷な目に思わず小さな悲鳴を上げて仰反る。

「女性のカバンの中見るなんてサイテー」

髪を払って円華はそのまま学校に行ってしまった。

俺はしばらくそこから動けない。チョコレートを貰えないばかりか、また円華の機嫌を損ねてしまった。確かに汚い手を使ったかもしれない。しかしその制裁にしては重すぎないだろうか。これは娘を心配する親心なのに……。昔は無条件にお父さんを愛してくれた娘も、思春期で様変わりしてしまった。

でも女の子は神様からの預かり物。それが今日じゃないだけでいつかは親元を離れ嫁ぐのだ……。

このままだと泣き出しそうだったので朝食の片付けをしようと食器を持って台所に向かう。向かった先で、いつもお弁当が置いてある場所に目が奪われる。気がついたら持っていた皿を落としてしまった。皿の割れる音がまるで自分の心の音のようだった。お弁当の横に明かなるプレゼントが燦然と置かれている。

風の魔法を履行して、割れた皿を適当にどかす。弁当の横に置いてあるそれの大きさをまじまじと見る。

これは……円華のカバンに入っていたものよりも明かに大きいし、豪華だ……!

目から一気に涙が溢れ出す。円華はまだまだこどもで、お父さんが一番好きなんだ、そう思うと涙どころか嗚咽で息が詰まり、その拍子に少し吐いた。立っていられなくなり膝をついて床に突っ伏して泣いた。

ひとしきり泣いたあと、顔を上げた時に気がつく。皿も割ってしまい、さっき適当に風の魔法を履行したので床がめちゃくちゃだった。ついでに自分の吐瀉物もあった。流石にこれはもとに戻さないと円華に焼き殺される。

俺は無言で立ち上がり、掃除道具がある戸棚に向かう。後ろ髪を引かれ振り返ったら、円華の愛の象徴が目に入りまた涙を流しそうになる。

俺はなるべくそれを見ないようにしながら床をピカピカに磨き上げた。しばらく包みもあけずにスマホで撮影したり、匂いを嗅いだりして堪能した。円華のくれたチョコレートの成分は100%涙だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょろぽよくんはお友達が欲しい

日月ゆの
BL
ふわふわ栗毛色の髪にどんぐりお目々に小さいお鼻と小さいお口。 おまけに性格は皆が心配になるほどぽよぽよしている。 詩音くん。 「えっ?僕とお友達になってくれるのぉ?」 「えへっ!うれしいっ!」 『黒もじゃアフロに瓶底メガネ』と明らかなアンチ系転入生と隣の席になったちょろぽよくんのお友達いっぱいつくりたい高校生活はどうなる?! 「いや……、俺はちょろくねぇよ?ケツの穴なんか掘らせる訳ないだろ。こんなくそガキ共によ!」 表紙はPicrewの「こあくまめーかー😈2nd」で作成しました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...