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第33話 幸福な朝
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美佳子は休日だったが息子たちが学校だったので朝ごはんの支度をする。今日も息子たちは起きてこない。正確にいうと起きているのに部屋から出てこない。
「朝ごはんできたわよー」
美佳子は叫ぶ。この後部屋に乱入しなければ大抵の場合出てこない。しかし今日は違った。
幸せそうな笑みを浮かべて玲音だけフラフラ出てきたのである。それに続いて冬馬が気まずそうな顔で出てきた。美佳子は気にしないそぶりで明るく言う。
「あら、あんたたち今日は気合入ってるわねー!」
食事を始めても玲音はおかしかった。幸せそうな顔でぼんやりしており、よく箸からご飯がこぼれ、茶碗に戻っていた。そして冬馬がその玲音の様子を心配そうに眺め、美佳子をチラチラ観察しているのである。美佳子は少しイライラしたが、知らぬ存ぜぬを貫いた。しかし玲音の挙動で一気に状況が変わる。
「ご……ごめん、お腹痛い……」
そう言い玲音がトイレに駆け出したところで、美佳子は冬馬を睨みつける。
「あんた……お母さんちゃんと渡したわよね……?」
冬馬はひっと小さい悲鳴を上げて肩をすぼめる。
「ちゃんと……玲音にも説明した……事後だけど……」
はぁ? 思わず美佳子は挑発的な声を出す。
「玲音を安心させる方法はこれしかなかったんだ……ちゃんとこれからは約束守るし、玲音とも約束したから……」
この後重苦しい沈黙が流れた。美佳子は冬馬の言う約束というのが本当に自分との約束なのかがわからなかった。しかし、今日の玲音の顔を見たらそれは杞憂であり、お互いがちゃんと決めたことなんだろうと信じることができた。コンドームは使わなかったらしいが、冬馬が怯えているのはこれを守らなかったからだろうと、美佳子は思う。
そこに玲音がやはり幸せそうな顔で帰ってきた。沈黙が続くことに耐えられなくなった美佳子は玲音に言った。
「冬馬が彼氏でよかったわね」
この言葉に、玲音のみならず冬馬も驚愕の目で佳子を見た。美佳子は内心自分は悪役か何かなのか? と毒づきながら続ける。
「でも、魔力は送れると便利だから、陣の練習は続けなさいね。魔法使いの特権なんだから」
玲音は思い詰めたような顔で美佳子に走って抱きついてきた。頭をゴリゴリ押し当てられて正直鬱陶しい。美佳子はこの時、冬馬が言っていたことを思い返した。
「俺に魔力を送ることにすごく執着してるみたいだった……」
これまで玲音が抱えていた不安を美佳子は思う。この家は全員が他人で、玲音に至っては戸籍も別だった。血のつながりも、体のつながりもない。玲音が魔力の交換でもいいから冬馬と繋がりたいともがいていた時間を考えずにはいられなかった。久遠の言う通りだった、美佳子はそう思った。
「かーちゃんがかーちゃんでよかった」
玲音の頭を撫でて美佳子は言う。
「これからもちゃんと2人で話し合って……」
美佳子が途中で言葉を止めたので、玲音はなすりつけてた頭の動きを止めた。
「冬馬を信じなさい」
玲音が顔をあげた。しかし玲音から顔を背け美佳子は冬馬の方を向いた。
「お母さんを信じなさい」
2人は、はい、と返事をして仲良く登校していった。不意に仏壇の中の遺影と目があった。
「お父さんを信じる」
美佳子は1人呟くと、久遠にコンドームを渡された時のことを思い返した。
「朝ごはんできたわよー」
美佳子は叫ぶ。この後部屋に乱入しなければ大抵の場合出てこない。しかし今日は違った。
幸せそうな笑みを浮かべて玲音だけフラフラ出てきたのである。それに続いて冬馬が気まずそうな顔で出てきた。美佳子は気にしないそぶりで明るく言う。
「あら、あんたたち今日は気合入ってるわねー!」
食事を始めても玲音はおかしかった。幸せそうな顔でぼんやりしており、よく箸からご飯がこぼれ、茶碗に戻っていた。そして冬馬がその玲音の様子を心配そうに眺め、美佳子をチラチラ観察しているのである。美佳子は少しイライラしたが、知らぬ存ぜぬを貫いた。しかし玲音の挙動で一気に状況が変わる。
「ご……ごめん、お腹痛い……」
そう言い玲音がトイレに駆け出したところで、美佳子は冬馬を睨みつける。
「あんた……お母さんちゃんと渡したわよね……?」
冬馬はひっと小さい悲鳴を上げて肩をすぼめる。
「ちゃんと……玲音にも説明した……事後だけど……」
はぁ? 思わず美佳子は挑発的な声を出す。
「玲音を安心させる方法はこれしかなかったんだ……ちゃんとこれからは約束守るし、玲音とも約束したから……」
この後重苦しい沈黙が流れた。美佳子は冬馬の言う約束というのが本当に自分との約束なのかがわからなかった。しかし、今日の玲音の顔を見たらそれは杞憂であり、お互いがちゃんと決めたことなんだろうと信じることができた。コンドームは使わなかったらしいが、冬馬が怯えているのはこれを守らなかったからだろうと、美佳子は思う。
そこに玲音がやはり幸せそうな顔で帰ってきた。沈黙が続くことに耐えられなくなった美佳子は玲音に言った。
「冬馬が彼氏でよかったわね」
この言葉に、玲音のみならず冬馬も驚愕の目で佳子を見た。美佳子は内心自分は悪役か何かなのか? と毒づきながら続ける。
「でも、魔力は送れると便利だから、陣の練習は続けなさいね。魔法使いの特権なんだから」
玲音は思い詰めたような顔で美佳子に走って抱きついてきた。頭をゴリゴリ押し当てられて正直鬱陶しい。美佳子はこの時、冬馬が言っていたことを思い返した。
「俺に魔力を送ることにすごく執着してるみたいだった……」
これまで玲音が抱えていた不安を美佳子は思う。この家は全員が他人で、玲音に至っては戸籍も別だった。血のつながりも、体のつながりもない。玲音が魔力の交換でもいいから冬馬と繋がりたいともがいていた時間を考えずにはいられなかった。久遠の言う通りだった、美佳子はそう思った。
「かーちゃんがかーちゃんでよかった」
玲音の頭を撫でて美佳子は言う。
「これからもちゃんと2人で話し合って……」
美佳子が途中で言葉を止めたので、玲音はなすりつけてた頭の動きを止めた。
「冬馬を信じなさい」
玲音が顔をあげた。しかし玲音から顔を背け美佳子は冬馬の方を向いた。
「お母さんを信じなさい」
2人は、はい、と返事をして仲良く登校していった。不意に仏壇の中の遺影と目があった。
「お父さんを信じる」
美佳子は1人呟くと、久遠にコンドームを渡された時のことを思い返した。
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