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第28話 久遠家父の誕生日(2)
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16時きっかりに要は帰ってきた。帰ってきた途端、要は幻術の中にいることを見破って、上を向く。円華はそれを確認したら努めて明るい声で幻術の中に言葉を落とした。
「久遠要さんは今日の誕生日でいくつになりましたかー?」
幻術の中で円華の楽しそうな声を聞いて、要は頬を紅潮させ浮かれた声で答える。
「27歳です!」
「いいお返事ですね! じゃあ円華からとっておきのプレゼントです!」
要はワクワクしている。きっと父親として毎年この日を楽しみにしていたのだろう。円華は少し躊躇ったが、もうここまで来たら後には引けない。
要の前に円華が立つ。
「え……? 円華幻術の中で自分をだせるようになったの?」
真下が言っていた一流の魔女の条件、幻術に自分の魂を入れること。円華はこれを遥か昔に習得していた。意味がないからやらないだけで特にたいしたことでもなかった。だから今までこのサプライズを思いつかなかった。
「お父さん、凄くない? これで私も一流の魔女よ!」
円華はスカートを膨らませクルっと一回りする。
「すごいよ! 円華!」
「でもちゃんとできてる? ちょっとよく見てくれない?」
円華は要に近づきながらセーラー服のスカーフを抜いた。要はスカーフを受け取り質感を確かめる。
「本物と遜色ないよ!」
そう言って顔を上げた要の顔が曇る。円華はセーラー服を脱いだ。
「円華……服の質感も完璧だから大丈夫だよ?」
円華は無視してスカートのファスナーを下ろして床に落とした。下着だけになった円華から要は目を逸らす。
「円華、わかったからもうやめよう」
「幻術の中だから大丈夫よ、本体は玄関にいるわよ」
「そういう問題じゃない」
「おっぱいとか大きくできるんだよ、全然私じゃないみたい」
目を背けている要の手を取って、円華は自分の胸に要の手を当てがった。要は円華の手を振り解いて後ずさりする。
「なにが不満だか言ってくれないとわからない!」
「やめろ」
「もっと色っぽい女の人がいいの?」
「円華! やめろって言ってんだろ!」
要の叱責に怯んで円華は幻術を破る。幻術を破った先に要はそのまま睨みつけた格好で円華と対峙していた。
「円華……魔法を履行できるってことは、もうこどもじゃないんだぞ! こんなことに魔法を使っちゃいけないことくらいわかるだろ!」
円華は要の顔を見られずにいた。片腕で肘を掴み顔を背け、要の言葉に答えない、そんな円華の不遜な態度に要は円華ににじり寄った。いつまで経っても一向に要が近づいてこない、円華はそんな態度に一層イライラして言い放つ。
「言ってる意味がわからない……」
要は円華のすぐ前まで来た。そこで円華が顔を上げて、要を睨んだ。要が頬を打ちやすいように円華は左の髪を後ろに払った。その気迫に今度は要が目を背けてしまう。どんなことをしても、どんなに道を外そうとも、決して自分に触れないのだ、そう円華は落胆した。
「都合の良い時にはこども扱いして、都合の悪い時にはこどもじゃないんだからですって……? 人を馬鹿にするのもいい加減にしてよ!」
「な……なにを……」
「裸の女が部屋から出てきて、なにもないとでも思ってるの!? こどもじゃあるまいし!」
「真下のことか……?」
「私のしたことと、お父さんがしてることはなにが違うっていうのよ! 女なんか部屋に連れ込んで……私への当て付けのつもりなの!?」
「違う……円華……聞いて……」
「言われなくてもわかってるわよ! お父さんの人生を奪ってることくらい……わかってるわよ……! お父さんの優しさに漬け込んで、お父さんをこの家に縛りつけてることくらい……! だからって女を連れ込むなんておかしいでしょう……? もうお父さん辞めたいならそう言ってくれればいいでしょ……!」
円華は嗚咽混じりに怒鳴って号泣してしまい、この後の言葉を続けられなかった。
しばらく顔を押さえて泣いていた円華だったが、要は決して円華に触れなかった。そのことがかえって円華を冷静にさせ、自分の生臭い本性を曝け出したことで後戻りができなくなったことを悟った。
円華は少し落ち着いたら決心し、声を詰まらせながら言った。
「私が……いけないの……よくわかってる……。本当に今までごめんなさい……」
「円華!」
「おとうさん……もうやめて……?」
円華はそのまま自室に戻り、鍵を閉め、ベッドの中で声を殺して号泣した。
「久遠要さんは今日の誕生日でいくつになりましたかー?」
幻術の中で円華の楽しそうな声を聞いて、要は頬を紅潮させ浮かれた声で答える。
「27歳です!」
「いいお返事ですね! じゃあ円華からとっておきのプレゼントです!」
要はワクワクしている。きっと父親として毎年この日を楽しみにしていたのだろう。円華は少し躊躇ったが、もうここまで来たら後には引けない。
要の前に円華が立つ。
「え……? 円華幻術の中で自分をだせるようになったの?」
真下が言っていた一流の魔女の条件、幻術に自分の魂を入れること。円華はこれを遥か昔に習得していた。意味がないからやらないだけで特にたいしたことでもなかった。だから今までこのサプライズを思いつかなかった。
「お父さん、凄くない? これで私も一流の魔女よ!」
円華はスカートを膨らませクルっと一回りする。
「すごいよ! 円華!」
「でもちゃんとできてる? ちょっとよく見てくれない?」
円華は要に近づきながらセーラー服のスカーフを抜いた。要はスカーフを受け取り質感を確かめる。
「本物と遜色ないよ!」
そう言って顔を上げた要の顔が曇る。円華はセーラー服を脱いだ。
「円華……服の質感も完璧だから大丈夫だよ?」
円華は無視してスカートのファスナーを下ろして床に落とした。下着だけになった円華から要は目を逸らす。
「円華、わかったからもうやめよう」
「幻術の中だから大丈夫よ、本体は玄関にいるわよ」
「そういう問題じゃない」
「おっぱいとか大きくできるんだよ、全然私じゃないみたい」
目を背けている要の手を取って、円華は自分の胸に要の手を当てがった。要は円華の手を振り解いて後ずさりする。
「なにが不満だか言ってくれないとわからない!」
「やめろ」
「もっと色っぽい女の人がいいの?」
「円華! やめろって言ってんだろ!」
要の叱責に怯んで円華は幻術を破る。幻術を破った先に要はそのまま睨みつけた格好で円華と対峙していた。
「円華……魔法を履行できるってことは、もうこどもじゃないんだぞ! こんなことに魔法を使っちゃいけないことくらいわかるだろ!」
円華は要の顔を見られずにいた。片腕で肘を掴み顔を背け、要の言葉に答えない、そんな円華の不遜な態度に要は円華ににじり寄った。いつまで経っても一向に要が近づいてこない、円華はそんな態度に一層イライラして言い放つ。
「言ってる意味がわからない……」
要は円華のすぐ前まで来た。そこで円華が顔を上げて、要を睨んだ。要が頬を打ちやすいように円華は左の髪を後ろに払った。その気迫に今度は要が目を背けてしまう。どんなことをしても、どんなに道を外そうとも、決して自分に触れないのだ、そう円華は落胆した。
「都合の良い時にはこども扱いして、都合の悪い時にはこどもじゃないんだからですって……? 人を馬鹿にするのもいい加減にしてよ!」
「な……なにを……」
「裸の女が部屋から出てきて、なにもないとでも思ってるの!? こどもじゃあるまいし!」
「真下のことか……?」
「私のしたことと、お父さんがしてることはなにが違うっていうのよ! 女なんか部屋に連れ込んで……私への当て付けのつもりなの!?」
「違う……円華……聞いて……」
「言われなくてもわかってるわよ! お父さんの人生を奪ってることくらい……わかってるわよ……! お父さんの優しさに漬け込んで、お父さんをこの家に縛りつけてることくらい……! だからって女を連れ込むなんておかしいでしょう……? もうお父さん辞めたいならそう言ってくれればいいでしょ……!」
円華は嗚咽混じりに怒鳴って号泣してしまい、この後の言葉を続けられなかった。
しばらく顔を押さえて泣いていた円華だったが、要は決して円華に触れなかった。そのことがかえって円華を冷静にさせ、自分の生臭い本性を曝け出したことで後戻りができなくなったことを悟った。
円華は少し落ち着いたら決心し、声を詰まらせながら言った。
「私が……いけないの……よくわかってる……。本当に今までごめんなさい……」
「円華!」
「おとうさん……もうやめて……?」
円華はそのまま自室に戻り、鍵を閉め、ベッドの中で声を殺して号泣した。
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