魔法使いの大曲線

大田ネクロマンサー

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第24話 魔法使い総火力演習(1)

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着いたよ、と久遠さんがサイドブレーキを引いたところは、死体でも埋めそうな山奥だった。

「ちょっと待っててね」

そう言って久遠さんは車を降りてトランクを開けた。本気で死体とか出すんじゃないですよね……?
そんな不安をよそに、トランクを閉めて久遠さんが底抜けに明るい声で俺たちを呼ぶ。

「よし、みんないこー!」

車を出たら久遠さんが正装をしていた……。今時厨二でも着ねーよっていう司祭風のローブ……。

「久遠さん……それ……」

「前に藤堂さんに燃やされちゃったけど、円華がお直ししてくれたんだよ! どう?」

どう……!? どう、とは!?
色々となんの罰ゲームなんだよ!

「これは円華が前の誕生日にくれたんだよ!」

久遠さんは嫌々着ているのかと思っておりました。久遠さん、ノリノリである……。
そして狂犬たちは久遠さんの話を全く聞かずに、森を散策し始めている。みんな自由でいいね!

久遠さんの号令で一度集まる。久遠さんは真下さんからの連絡を受けて、GPSを頼りに歩き出した。

しばらく歩いたら前を歩く久遠さんが手を挙げる。ここが幻術の入り口らしい。

「じゃあ、みんな安全第一でね。お父さんが撤退を指示したら速かに退場してください」

3人ではーい、と返事をする。

「よくできました。それじゃあ行こうか」

3人は大魔導師風の久遠さんに続き、幻術に入った。森の奥の方に人が立ってる。森が暗すぎて人影としか認識できなかったが、確かにそこに人は立っていた。そこに向かって円華ちゃんが少し走り出す。

「我が名は久遠円華! 地獄の業火で貴様の走馬灯を灯してやる!」

のっけから全開の円華ちゃんの名乗りの口上に、俺と玲音は思わず、おーー!と歓声を上げる。俺たちの歓声に円華ちゃんは恥ずかしそうに振り返る。

「あ、都合の悪い事は真下さんが声消してくれるので、冬馬さんも玲音も自由にやってくださいね」

えへへ、と照れて笑う円華ちゃんになんだか癒されたが、久遠さんが俺を見て頷いて合図を送ったので、演習を開始した。

「玲音、いくよ!」

「はい!」

俺は玲音に、円華ちゃんは後ろからジャンプしてきた久遠さんに風の魔法を履行する。次の瞬間、円華ちゃんは火や氷や水の混合というとんでもない手数の魔法を履行し、久遠さんと玲音が到達する前に先制攻撃を始めた。

魔法の炎で向こうの人影がどんな人なのか見えた。中年、というにはやや歳をとりすぎなおじさんだった。
次の瞬間円華ちゃんはとてつもない暴風を起こして久遠さんと玲音を手前に押し戻した。

「お父さん、玲音! 戻って!」

久遠さんと玲音は風に飛ばされて俺の前に膝から着地した。

「お父さん、あいつ魔法が使える!」

俺と玲音はえ? と円華ちゃんを見た。

演習だから相手も魔法使えるんじゃないの?

久遠さんは慌てた様子で上を仰いで叫ぶ。

「真下! どういうことだ!」

俺たちは全く状況が理解できなかった。ただ久遠さんの口調が素なので、相当慌ててるんだろうなというのがわかる。上から真下さんの声が降り注ぐ。

「要、こっちも想定外だ、外にうじゃうじゃ武装した奴がいる。物理よりは幻術の方が安全だ、少し時間をくれるか?」

「おい! お前は大丈夫なのかよ!?」

「すまない円華、そいつは実体だ。円華の幻術でも魂だけをラップできない。私が戻るまでこの場を凌いでくれ」

久遠さんの言葉を無視して円華ちゃんに話しかける様子を目の当たりにし、真下さんも慌てる事態だということを認識する。

「真下さん、真下さんは大丈夫なの!?」

円華ちゃんは叫ぶ。その心配にだけは真下さんは応えてくれた。

「魔女は死なない。円華頼んだよ」

「はい!」

その返事とともに円華ちゃんの顔つきが変わる。

「お父さん、冬馬さんと玲音だけは絶対に無事に返す。お父さんも私もそれに従うと誓って?」

「わかった、円華を犠牲にしてもそれだけは絶対に守る」

突然の久遠さんに誓いに俺も玲音もびっくりして久遠さんを見てしまった。

円華ちゃんは頷くと、とんでもない火力の炎を履行する。前に見た母の野焼きを凌駕する質量だった。その間に久遠さんは俺たちに振り返って手短に言う。

「予定変更だ」

俺たちは黙って見ていろ、久遠さんはそう言っていると理解した。玲音が何か言おうと前に少し出たが、俺は玲音の腰に手を回して引き寄せた。

「ダメだ」

玲音は振り返らない。ささやかな反抗なのだろう。もう法縄はない。玲音が暴れ出したら俺にはどうにもできない。
さっきの久遠さんと円華ちゃんのやりとりと比べてしまう。俺と玲音にあんな信頼関係はない。

久遠さんはローブを脱いだ。中は簡素な服で、そのぴっちりとしたスポーツウェアから、筋肉が浮かび上がっている。久遠さんも魔法代謝系であるので当然なのだが、普段の言動からそういったことをすっかり忘れてしまっていた。久遠さんが無言で動き出した瞬間、その速さにとてつもない恐怖を感じた。

久遠さんの戦い方は、今までの演習は一体なんだったんだ、そう感嘆するほどだった。人影に到達したときに落とした拳で、なんだかよくわからない水蒸気のようなものが出てた。

人影が久遠さんの攻撃を受け流し、円華ちゃんの炎を完全に不履行にして叫んだ。

「久遠要、円華! 貴様らが嗅ぎ回ってたことはわかってるんだぞ!」

その叫びに円華ちゃんが一瞬狼狽えた。

「お父さん!」

「くそっ! 好き勝手喋るんじゃねぇ!」

久遠さんが人影をゴスゴス殴っている。さっきの焦りとは明らかに違っていた。拳の重さが全然違う、そう気がついたのか円華ちゃんがすごい手数の魔法を履行して、久遠さんを呼び戻した。円華ちゃんが口を開くより前に久遠さんが怒鳴る。

「説明は後だ! 誓いはどうした!?」

円華ちゃんは明かに納得していなかったが、怒りのままに風の魔法を履行して、久遠さんと戦闘態勢に入った。
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