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第16話 魔法使いと特別短期講習シーズン2
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「玲音、陣を引くことはあんまり重要じゃないんだ。もし1人になってしまったら陣なんてどうでもいいからあらゆる手段で自分を守って」
「でも、かーちゃんが……」
「かーちゃんだって魔法代謝系の玲音が3日で陣を引けるようになるとは思ってないよ。かーちゃんは俺に思い出させたかっただけなんだ」
「思い出すって……何を?」
俺は少し黙ってしまった。でもここで玲音に格好つけたところでなんにもならない。
「俺が玲音をちゃんと連れて帰ってこれなかったことだよ。あの時はかーちゃんの言った通り陣さえ引ければ玲音と鎌倉に行けるってことしか考えてなかった」
「でも……冬馬は俺のこと考えてくれて……」
「気持ちや言葉だけじゃダメなんだ。ちゃんと2人で帰ってこないと。俺も玲音にあんな悲しい思いさせて、今でも後悔している」
玲音は俺を見つめている。多分俺の言っていることを100%理解するのは難しいと思う。
「玲音にどうしても覚えてもらいたいことは、魔法を不履行にすることなんだ。円華ちゃんも多分それで久遠さんに現象魔法を教えたんだ」
解せぬ、玲音の顔にはそう書いてあった。
「俺が玲音といる時にはもちろん現象魔法に対処できる。でももし玲音が1人になってしまった時は? 前にかーちゃんと戦った時、かーちゃんは現象魔法使わなかっただろ? 玲音が対処できないから戦い方を切り替えたんだ」
「なんで……?」
「かーちゃんは俺と玲音を無事に連れて帰るって決めてたからだよ」
玲音は胸のあたりを押さえて動かなくなった。多分母との戦い方なんて気にしたこともなかったんだろう。俺も円華ちゃんが久遠さんに現象魔法を教えた話を聞くまで思い至らなかった。
母は玲音の前契約者のことなど信用していなかった。それはつまり、玲音が1人で戦っていることと同義だった。
「円華ちゃんに現象魔法を教わったのは本当に奇跡だよ。俺は魔法代謝系じゃないから、教えることはできなかったと思う。だから今日は魔法の不履行を覚えよう」
玲音が小さく、はい、と答えた。その返事に違和感を覚えて俺は玲音に嫌かどうか聞いてみた。そうしたら玲音は思いがけないことを言った。
「今日じゃなくてもいいから、俺も陣を引けるようになりたい」
「うん……でもなんで?」
「そうしたら冬馬と、か……」
か? かーちゃんか?
「俺と何?」
「冬馬の特別になりたい」
ちょっとびっくりして黙ってしまった。玲音をここまで不安にさせる要因は俺にしかないんだろうけど、どうしたら玲音を安心させられるのかがわからなかった。
「玲音はもう俺の特別だよ」
玲音は表情を変えず、俺を見ていた。やっぱり言葉だけじゃ玲音に伝わらないかな……。
「とりあえず、円華ちゃんに習った感じで、現象魔法を安定的に出せるようにしよう」
玲音は円華ちゃんの言うようにセンスが良かった。勘所を押さえているというのか。魔法代謝系の理論と実践を俺なんかより遥かに高い位置で体得してるんだろうと思う。玲音が出した魔法を俺が不履行にする形で、炎の現象魔法が安定してきたので次の段へ進むことにした。
「玲音がよく涎垂らして笑ってる、俺のエロ本の話。あれなんでかーちゃんにエロ本見つかったかわかる?」
「え……? わからない……ふふっ」
時々、吹き出しながら玲音は答える。
「現象魔法で出した炎や水は現象魔法でしか打ち消せないんだ。自分が放ったものも相手が放ったものも、魔法で出したものは魔法でしか打ち消せない。俺はこれを知らずに魔法を履行して、かーちゃんに泣きついたんだよ」
玲音は爆笑してて聞いているのか、いないのか、わからなかった。自分を削って教えているのにもかかわらず、そんな親心を完全無視して笑う玲音に清々しささえ感じる。
「ほら、玲音。笑ってないで、俺が出す炎を不履行にしてみて」
そう言って小さな炎を地面に落とした。玲音は笑いを堪えながら、やり方がわからないと言う。
「魔法を出すときと反対の感覚だよ。魔法代謝系で奥に振り抜く感じだったなら、その逆のことをやってみて」
玲音はうーんと考える。もうこれで体得できないのであれば、後で円華ちゃんに聞いてみよう。そう思っていた矢先に炎が消えた。
「え? すごいな玲音! どんな感覚でやったの?」
「普通に殴る感覚だったよ……?」
それは合っているのか……? でもまあ、感覚がどうであれ魔法は不履行にできるのならばいいか。
「じゃあもう少し大きいのいくよ」
少しと言いながら、割とデカめの炎を落とした。キャンプファイヤーくらいのものだ。玲音はさっき同様、不履行を試すが今回は半分くらいが消えたと思ったら、また炎がぶり返すというのを何回か繰り返していた。
「玲音、多分なんだけど、思い描いてる質量が足りないんだ。もっと大きいものを殴るイメージでやってみて」
玲音は頷いて、下を向いて集中した。そしてキャンプファイヤーを消し去った! と思ったら玲音が膝から崩れて倒れてしまった。
俺は慌てて駆け寄って玲音に魔力を送る。やっぱりやり方間違ってんじゃないのか……?
「玲音! 大丈夫? ちょっと休憩しよう」
玲音は申し訳なさそうな顔をしている。俺はこの顔をされると本当に弱い。唇から魔力を流し込む。
「お腹も空いただろ? 昼ごはん食べよう」
「食べる食べる食べる食べる!」
うーん、眩しい。
あまりのかわいさにまたキスをしてしまう。しかし玲音は俺の腕をするりと抜けて家に入っていった。俺なんかよりも昼飯か……。俺の特別になりたいとか言ってたのどこの誰でしたっけ……?
「でも、かーちゃんが……」
「かーちゃんだって魔法代謝系の玲音が3日で陣を引けるようになるとは思ってないよ。かーちゃんは俺に思い出させたかっただけなんだ」
「思い出すって……何を?」
俺は少し黙ってしまった。でもここで玲音に格好つけたところでなんにもならない。
「俺が玲音をちゃんと連れて帰ってこれなかったことだよ。あの時はかーちゃんの言った通り陣さえ引ければ玲音と鎌倉に行けるってことしか考えてなかった」
「でも……冬馬は俺のこと考えてくれて……」
「気持ちや言葉だけじゃダメなんだ。ちゃんと2人で帰ってこないと。俺も玲音にあんな悲しい思いさせて、今でも後悔している」
玲音は俺を見つめている。多分俺の言っていることを100%理解するのは難しいと思う。
「玲音にどうしても覚えてもらいたいことは、魔法を不履行にすることなんだ。円華ちゃんも多分それで久遠さんに現象魔法を教えたんだ」
解せぬ、玲音の顔にはそう書いてあった。
「俺が玲音といる時にはもちろん現象魔法に対処できる。でももし玲音が1人になってしまった時は? 前にかーちゃんと戦った時、かーちゃんは現象魔法使わなかっただろ? 玲音が対処できないから戦い方を切り替えたんだ」
「なんで……?」
「かーちゃんは俺と玲音を無事に連れて帰るって決めてたからだよ」
玲音は胸のあたりを押さえて動かなくなった。多分母との戦い方なんて気にしたこともなかったんだろう。俺も円華ちゃんが久遠さんに現象魔法を教えた話を聞くまで思い至らなかった。
母は玲音の前契約者のことなど信用していなかった。それはつまり、玲音が1人で戦っていることと同義だった。
「円華ちゃんに現象魔法を教わったのは本当に奇跡だよ。俺は魔法代謝系じゃないから、教えることはできなかったと思う。だから今日は魔法の不履行を覚えよう」
玲音が小さく、はい、と答えた。その返事に違和感を覚えて俺は玲音に嫌かどうか聞いてみた。そうしたら玲音は思いがけないことを言った。
「今日じゃなくてもいいから、俺も陣を引けるようになりたい」
「うん……でもなんで?」
「そうしたら冬馬と、か……」
か? かーちゃんか?
「俺と何?」
「冬馬の特別になりたい」
ちょっとびっくりして黙ってしまった。玲音をここまで不安にさせる要因は俺にしかないんだろうけど、どうしたら玲音を安心させられるのかがわからなかった。
「玲音はもう俺の特別だよ」
玲音は表情を変えず、俺を見ていた。やっぱり言葉だけじゃ玲音に伝わらないかな……。
「とりあえず、円華ちゃんに習った感じで、現象魔法を安定的に出せるようにしよう」
玲音は円華ちゃんの言うようにセンスが良かった。勘所を押さえているというのか。魔法代謝系の理論と実践を俺なんかより遥かに高い位置で体得してるんだろうと思う。玲音が出した魔法を俺が不履行にする形で、炎の現象魔法が安定してきたので次の段へ進むことにした。
「玲音がよく涎垂らして笑ってる、俺のエロ本の話。あれなんでかーちゃんにエロ本見つかったかわかる?」
「え……? わからない……ふふっ」
時々、吹き出しながら玲音は答える。
「現象魔法で出した炎や水は現象魔法でしか打ち消せないんだ。自分が放ったものも相手が放ったものも、魔法で出したものは魔法でしか打ち消せない。俺はこれを知らずに魔法を履行して、かーちゃんに泣きついたんだよ」
玲音は爆笑してて聞いているのか、いないのか、わからなかった。自分を削って教えているのにもかかわらず、そんな親心を完全無視して笑う玲音に清々しささえ感じる。
「ほら、玲音。笑ってないで、俺が出す炎を不履行にしてみて」
そう言って小さな炎を地面に落とした。玲音は笑いを堪えながら、やり方がわからないと言う。
「魔法を出すときと反対の感覚だよ。魔法代謝系で奥に振り抜く感じだったなら、その逆のことをやってみて」
玲音はうーんと考える。もうこれで体得できないのであれば、後で円華ちゃんに聞いてみよう。そう思っていた矢先に炎が消えた。
「え? すごいな玲音! どんな感覚でやったの?」
「普通に殴る感覚だったよ……?」
それは合っているのか……? でもまあ、感覚がどうであれ魔法は不履行にできるのならばいいか。
「じゃあもう少し大きいのいくよ」
少しと言いながら、割とデカめの炎を落とした。キャンプファイヤーくらいのものだ。玲音はさっき同様、不履行を試すが今回は半分くらいが消えたと思ったら、また炎がぶり返すというのを何回か繰り返していた。
「玲音、多分なんだけど、思い描いてる質量が足りないんだ。もっと大きいものを殴るイメージでやってみて」
玲音は頷いて、下を向いて集中した。そしてキャンプファイヤーを消し去った! と思ったら玲音が膝から崩れて倒れてしまった。
俺は慌てて駆け寄って玲音に魔力を送る。やっぱりやり方間違ってんじゃないのか……?
「玲音! 大丈夫? ちょっと休憩しよう」
玲音は申し訳なさそうな顔をしている。俺はこの顔をされると本当に弱い。唇から魔力を流し込む。
「お腹も空いただろ? 昼ごはん食べよう」
「食べる食べる食べる食べる!」
うーん、眩しい。
あまりのかわいさにまたキスをしてしまう。しかし玲音は俺の腕をするりと抜けて家に入っていった。俺なんかよりも昼飯か……。俺の特別になりたいとか言ってたのどこの誰でしたっけ……?
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