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まちがった尿道開発で世界線変わったんだけど質問ある?
パニックを通り越した恐怖
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花金のためか定時を過ぎると急に人が少なくなる。行き詰まりを感じて上半身だけで伸びをするがそれでは物足りず、一旦トイレに行って顔を洗い、自席に戻った。
チーム員はいつの間にか帰っていたが特に何も思わない。案件が違う、ただそれだけだ。それに……。
この案件が片付いたら、転職を考えるんだ。
少し暗い気分になったが今は目の前の問題だけに集中しなくては。
委託先の人員も今日までの残業で疲弊しているし、できれば今日中に終わらせたい。一晩かけてやる覚悟をして席に着く。
先に社内書類とか用意してたほうがいいよなと思って申請前の下書きをいくつか作り始めた。一通り終えたら問題のプログラムに画面を戻して作業を再開する。
「すおー」
背後から甘みを帯びた声で呼ばれて、全身が硬直する。
「周防、この後ちょっと時間もらえる?」
俺は突然のことすぎて振り返ることができなかった。
「す、すみません。だいぶ仕事残ってて……」
そう言ってる間に、俺の右肩らへんから長谷さんの腕が伸びて来て、手ごとマウスを握られた。そして俺が改修してたファイルを閉じた。
「周防はこんな仕事しなくてもいいよ」
3時間くらいこねくり回していたファイルを、保存もせずに閉じられた。
パニックを通り越して恐怖で動けずモニタだけを凝視する。
ファイルを閉じられた画面には差分管理のファイル一覧ウィンドウが開いていて、今閉じたファイルも含め何個かのファイルの最終更新者とタイムスタンプが書き換わっていた。
更新者、hase。タイムスタンプはほぼ同時刻で、ついさっきだった。
長谷さんはこの一覧ウィンドウも閉じた。
BTSの該当起票部分には長谷さんの名前で報告されて完了フラグが立っていた。
このウィンドウも閉じた。
その後ろにあった書類申請用管理画面のウィンドウも全て長谷さんの名前で決裁まで進んでいた。
このウィンドウも閉じた。
俺が一晩かけてやらなければならない仕事は全て長谷さん名義で完了していた。一瞬で。
長谷さんは俺の手とマウスから手を離しながら言った。
「これ以外で、来れない理由があるなら」
背中に冷たいものが走る。
「もう個人的なことで話しかけないから、安心して」
モニタを凝視していたから表情は見えなかった。だけど、こっちが泣きだしそうなくらい、優しく、そして悲しい声だった。
「今……帰り支度するんで、ちょっと待っててもらっていいですか……?」
振り返ることはできなかったけど、かろうじて答えることはできた。
「じゃあ、1階で待ってるから」
頭が真っ白すぎて、どうやって1階まで来たかわからない。
長谷さんはエントランスの椅子に腰掛け、スマホで何かを操作してたが、俺を見るなり立ち上がった。
「お待たせしてすみません」
「話しづらい内容だから俺の家でもいい?」
俺は無言で頷いた。
外に多分長谷さんが手配したであろうタクシーが止まってて、俺と長谷さんは無言で乗り込む。
タクシーの中で長谷さんはひとつだけ俺に質問した。
「周防、お腹空いてない?」
優しいその響きに俺の指が少しだけ動いて、長谷さんの指に触れた。
「はい……大丈夫です」
そう、と返事して、その指を、長谷さんの指の背が、何度も何度も、撫でた。
さっきウィンドウを閉じられたあの瞬間から俺は思考が停止していた。
だから耳の奥で鳴る自分の鼓動を数えて長谷さんの家までの距離をやり過ごした。
チーム員はいつの間にか帰っていたが特に何も思わない。案件が違う、ただそれだけだ。それに……。
この案件が片付いたら、転職を考えるんだ。
少し暗い気分になったが今は目の前の問題だけに集中しなくては。
委託先の人員も今日までの残業で疲弊しているし、できれば今日中に終わらせたい。一晩かけてやる覚悟をして席に着く。
先に社内書類とか用意してたほうがいいよなと思って申請前の下書きをいくつか作り始めた。一通り終えたら問題のプログラムに画面を戻して作業を再開する。
「すおー」
背後から甘みを帯びた声で呼ばれて、全身が硬直する。
「周防、この後ちょっと時間もらえる?」
俺は突然のことすぎて振り返ることができなかった。
「す、すみません。だいぶ仕事残ってて……」
そう言ってる間に、俺の右肩らへんから長谷さんの腕が伸びて来て、手ごとマウスを握られた。そして俺が改修してたファイルを閉じた。
「周防はこんな仕事しなくてもいいよ」
3時間くらいこねくり回していたファイルを、保存もせずに閉じられた。
パニックを通り越して恐怖で動けずモニタだけを凝視する。
ファイルを閉じられた画面には差分管理のファイル一覧ウィンドウが開いていて、今閉じたファイルも含め何個かのファイルの最終更新者とタイムスタンプが書き換わっていた。
更新者、hase。タイムスタンプはほぼ同時刻で、ついさっきだった。
長谷さんはこの一覧ウィンドウも閉じた。
BTSの該当起票部分には長谷さんの名前で報告されて完了フラグが立っていた。
このウィンドウも閉じた。
その後ろにあった書類申請用管理画面のウィンドウも全て長谷さんの名前で決裁まで進んでいた。
このウィンドウも閉じた。
俺が一晩かけてやらなければならない仕事は全て長谷さん名義で完了していた。一瞬で。
長谷さんは俺の手とマウスから手を離しながら言った。
「これ以外で、来れない理由があるなら」
背中に冷たいものが走る。
「もう個人的なことで話しかけないから、安心して」
モニタを凝視していたから表情は見えなかった。だけど、こっちが泣きだしそうなくらい、優しく、そして悲しい声だった。
「今……帰り支度するんで、ちょっと待っててもらっていいですか……?」
振り返ることはできなかったけど、かろうじて答えることはできた。
「じゃあ、1階で待ってるから」
頭が真っ白すぎて、どうやって1階まで来たかわからない。
長谷さんはエントランスの椅子に腰掛け、スマホで何かを操作してたが、俺を見るなり立ち上がった。
「お待たせしてすみません」
「話しづらい内容だから俺の家でもいい?」
俺は無言で頷いた。
外に多分長谷さんが手配したであろうタクシーが止まってて、俺と長谷さんは無言で乗り込む。
タクシーの中で長谷さんはひとつだけ俺に質問した。
「周防、お腹空いてない?」
優しいその響きに俺の指が少しだけ動いて、長谷さんの指に触れた。
「はい……大丈夫です」
そう、と返事して、その指を、長谷さんの指の背が、何度も何度も、撫でた。
さっきウィンドウを閉じられたあの瞬間から俺は思考が停止していた。
だから耳の奥で鳴る自分の鼓動を数えて長谷さんの家までの距離をやり過ごした。
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