システムエンジニアがとんでもない開発をはじめました。

まちがった尿道開発で世界線変わったんだけど質問ある？

長谷さんの免罪符を使っていくスタイル

長谷さんのことで頭のシミュレータが暴走そうだったので、案件のことを考える。

最近はチーム内でも分業が進み、把握してない案件なんてあまりない、沼田さんの案件を除いては。足早に自席に戻りその足で沼田さんの席に向かった。

「沼田さん、さっき長谷さんから聞いたんですが……」
と話しかけたら沼田さんは電話中だった。

「そんなことは当社には関係のない話で、契約上の納期は今週末なんですよ、とにかくこのまま担当者と話してても平行線なんで、御社の社長含め一旦メールをしますんで、はい、はい、はい」

沼田さんは乱暴に電話を切った。
すかさず、俺は沼田さんを捕まえる。

「多分いま電話してた件で長谷さんから、共有してもらうように言われて、来たんですけど」

「あー大丈夫、大丈夫。下請けで病人が出たとかで納期が遅れるかもって話」

沼田さんは面倒そうに言う。

「大丈夫なんですか？」

「今から社長に一筆書いて納期に間に合わせるように命令するから大丈夫」

ぜ……全然解決になってねぇ……！
病気が一瞬で完治したり、人員が分裂したりするわけでもないんだぞ！
欠員が出た段階で契約の相談してきたんだろうに、それを知らぬ存ぜぬとにかくやれ、ではお前の存在意義全くねーじゃねーか。

なんでこんな炎上案件を1人で抱えようとするのか、今までの沼田さんの行動からはかけ離れているような気がした。すぐにでも人になすりつけて逃げ出しそうなのに……。

プライドが許さないのか、人に知られるとまずい何かがあるのか。いずれにせよ、今日の朝、俺をヘルプに入れるように長谷さんから言われているのに、大丈夫で押し切ろうとしていることはわかった。

「一応、長谷さんから言われてるんで、資料の場所共有してもらってもいいですか？」

長谷さんの命令という免罪符で沼田さんに迫る。

「あ、ああ。後で送る」

「今送ってもらえますか？」

沼田さんは面倒そうに資料の場所をチャットで送った。

俺はそれを見届けて自席に戻ってチャットで送られてきた資料の場所を開く。
資料がごった煮みたいになっていてどのファイルがどこにあるのかもわからない。
ファイル管理もまともにできんのか！

案件自体の契約書2通を這々の体で見つけ確認する。クライアント側の納品期日と違約金について確認する。納品と合わせてプロモーションもするだろうからこのくらいの規模になると最終的な納品日をずらすのは難しい。ただ開発について下請けとの業務の棲み分けは明記されていなかった。

要件定義書で要件を把握しつつ、全体のスケジュールを確認する。ガントチャートは承認審査もあるから流石にちゃんと作ってあったが、終了日付を何ひとつ更新していないので進捗が全くわからないし、開発が丸投げなので中のタスクが全くわからない。ただ全体から見て、今週の金曜日までの1週間は、おおよそ6分の1ほどだった。テスト中……だよな？

そこまで見たところでデスクトップのメールの受信箱に、さっき沼田さんが電話で怒鳴っていたなんの解決にもならないメールがCCで送られてきていた。