45 / 47
番外編:ミオの秘密
皇帝への奉仕 ※
しおりを挟む
母である皇后が後宮の政治に精神をすり減らした経験から、若き皇帝は臣下を選り好みし、忠誠心を試すきらいがあった。そんな中、俺のような一介の騎士に余りある裁量を与えたのは、政治とは無縁にも関わらず忠義を尽くす職務だったという部分が大きかった気がする。
「ミゼル卿、今日はこれで全てか?」
「はい、陛下。明日は午前の予定はございませんので正午に迎えに上がります」
俺が押印済みの書類をまとめている間に皇帝は隣の寝室に向かう。皇帝の寝室は執務室からしか入れない戸を挟んだ奥側にあり、近衛兵は執務室の外扉にのみ2名配置されている。裁量が与えられるまで、この執務室にすら入室を許されなかった。書類を鍵付きの戸棚にしまい、退室しようと思った時、皇帝が咳払いする。
俺は慌てて皇帝が開けたままの寝室の戸をくぐった。陛下がいつもの椅子に腰掛ける間に、畳まれたまま置いてあるシーツをすっぽり被る。途中鎧に引っかかるのでかなり大振りに広げなければならない。
そして皇帝の腰掛けた椅子の手すりの両側にシーツの端をかけたら、なるべく事務的に履物の紐を解く。服の上から触って変な癖を覚えさせてはならないし──。
──俺が特別な好意を寄せていることを勘づかせてはならない。
ことの発端は乳母の相談だった。夢精を繰り返しているから手淫の方法を教えるか、女をあてがってほしい、というあけすけな相談。
精神をすり減らした陛下の母君に代わって、身の回りの世話は乳母が行っていた。しかしその乳母は男の経験がなかったのだ。父親役になり得る臣下もおらず、皇帝と歳も近く頻繁に出入りする俺が適任だった。今、頭から被るシーツもその乳母が用意している。
紐を解いたら、手早く肌着をずらしてその熱源に触れる。何度も奉仕をしてきたというのに、この瞬間だけは指先が痺れる。今日もその鋒から蜜が垂れ、茂みからは男の香りが漂っていた。
手淫は上手く教えることができなかった。正確に言えば、陛下は襲いくる未知の快感に怯え、最後まで果たすことができなかったのだ。乳母にはそれを何度も詰られ、陛下も戸惑っているようだった。だから口で奉仕をするようになった。
陛下の立派になった雄に舌先をつけたら、そのまま喉の奥まで飲み込んでいく。
最近は顔つきからも幼さが消え、立派な青年になった。俺がこんな奉仕をしなくても、一度恐怖を超えてしまったならば手淫でもはたせるはず。それでもこうやって奉仕をさせるのは、手淫よりもこちらの方が気持ちがいいからだ。
陛下の立派な雄を飲み込んでは吐き出し、そうして何度も何度も喉の奥が焦がれる。
陛下は寝室に呼ぶときも、奉仕の最中も、奉仕の後も、声をかけてはくださらない。そして滅多に目を合わせることもなければ、俺に指一本触れてはくださらない。こうして奉仕している間も。
当然だ。陛下は恥をしのんで俺に機会を与えてくださり、俺は仰せつかったまでの関係。劇的な出会いを果たしたわけでもなければ、政治に染まっていないだけの臣下。なにより男だ。
だが、期待してしまうのだ。お互い秘めたものがあるのかと。羞恥でも効率でもなく、もっと違うなにかで俺が選ばれているのかと。
シーツの上からでもいい。一度でも頭を撫でてくれたら。一度でもそのシーツをめくってくれたら。一度でも──
「レジー、レジー? お腹痛い?」
締め付けられられるような動悸とともに目覚め、視界がさまざまな色に染められていることにびっくりして飛び起きた。息を整えながら振り返ると、ベッドの上に竜神が丸まっていた。シトシトと雨は降るのに部屋は明るい。僅かな朝日に照らされた鱗が蒼くも翠にも輝いていた。
「また炎症おこしちゃったかな?」
竜神は俺を抱く時に雨を降らす。長雨は農作物に病をもたらすことから、毎晩違う土地に連れ去られていた。しかし今度は日照りが続いた。だから今日は日中仕事を休み、2人でゆっくりしようと決めていたことを思い出す。
竜神は起き上がり裸の俺を膝にのせた。そして背中を何度か撫でたあと回復魔法の詠唱をはじめる。
「ミオ、違う。腹は痛くない」
「寿命が俺と同じになったからといって、不死身になったわけじゃないんだ。これからだってずっとここに負担がかかるんだから大切にしなきゃ」
竜神はそう言って背中から手を這わせ、尻の割れ目に指を添わせた。
「違う、本当に違うんだ」
俺はミオの自慢のフサフサの胸にしがみついた。本気の声色を察してか、窄まりに当てられた竜神の指がピタリと止まる。
「レジーの心臓の音すごい。怖い夢でも見た?」
竜神とともに寝ながら、皇帝の夢を見たことにひどく罪悪感を覚え、首を振りながら更に竜神の胸に顔を埋めた。フサフサな毛の奥から漂う熱気と安心する匂いに、心がほろほろと崩れるような感覚に囚われる。
「どんな夢を見たか当ててあげようか? 帝国にいた頃の夢だろ?」
「ミゼル卿、今日はこれで全てか?」
「はい、陛下。明日は午前の予定はございませんので正午に迎えに上がります」
俺が押印済みの書類をまとめている間に皇帝は隣の寝室に向かう。皇帝の寝室は執務室からしか入れない戸を挟んだ奥側にあり、近衛兵は執務室の外扉にのみ2名配置されている。裁量が与えられるまで、この執務室にすら入室を許されなかった。書類を鍵付きの戸棚にしまい、退室しようと思った時、皇帝が咳払いする。
俺は慌てて皇帝が開けたままの寝室の戸をくぐった。陛下がいつもの椅子に腰掛ける間に、畳まれたまま置いてあるシーツをすっぽり被る。途中鎧に引っかかるのでかなり大振りに広げなければならない。
そして皇帝の腰掛けた椅子の手すりの両側にシーツの端をかけたら、なるべく事務的に履物の紐を解く。服の上から触って変な癖を覚えさせてはならないし──。
──俺が特別な好意を寄せていることを勘づかせてはならない。
ことの発端は乳母の相談だった。夢精を繰り返しているから手淫の方法を教えるか、女をあてがってほしい、というあけすけな相談。
精神をすり減らした陛下の母君に代わって、身の回りの世話は乳母が行っていた。しかしその乳母は男の経験がなかったのだ。父親役になり得る臣下もおらず、皇帝と歳も近く頻繁に出入りする俺が適任だった。今、頭から被るシーツもその乳母が用意している。
紐を解いたら、手早く肌着をずらしてその熱源に触れる。何度も奉仕をしてきたというのに、この瞬間だけは指先が痺れる。今日もその鋒から蜜が垂れ、茂みからは男の香りが漂っていた。
手淫は上手く教えることができなかった。正確に言えば、陛下は襲いくる未知の快感に怯え、最後まで果たすことができなかったのだ。乳母にはそれを何度も詰られ、陛下も戸惑っているようだった。だから口で奉仕をするようになった。
陛下の立派になった雄に舌先をつけたら、そのまま喉の奥まで飲み込んでいく。
最近は顔つきからも幼さが消え、立派な青年になった。俺がこんな奉仕をしなくても、一度恐怖を超えてしまったならば手淫でもはたせるはず。それでもこうやって奉仕をさせるのは、手淫よりもこちらの方が気持ちがいいからだ。
陛下の立派な雄を飲み込んでは吐き出し、そうして何度も何度も喉の奥が焦がれる。
陛下は寝室に呼ぶときも、奉仕の最中も、奉仕の後も、声をかけてはくださらない。そして滅多に目を合わせることもなければ、俺に指一本触れてはくださらない。こうして奉仕している間も。
当然だ。陛下は恥をしのんで俺に機会を与えてくださり、俺は仰せつかったまでの関係。劇的な出会いを果たしたわけでもなければ、政治に染まっていないだけの臣下。なにより男だ。
だが、期待してしまうのだ。お互い秘めたものがあるのかと。羞恥でも効率でもなく、もっと違うなにかで俺が選ばれているのかと。
シーツの上からでもいい。一度でも頭を撫でてくれたら。一度でもそのシーツをめくってくれたら。一度でも──
「レジー、レジー? お腹痛い?」
締め付けられられるような動悸とともに目覚め、視界がさまざまな色に染められていることにびっくりして飛び起きた。息を整えながら振り返ると、ベッドの上に竜神が丸まっていた。シトシトと雨は降るのに部屋は明るい。僅かな朝日に照らされた鱗が蒼くも翠にも輝いていた。
「また炎症おこしちゃったかな?」
竜神は俺を抱く時に雨を降らす。長雨は農作物に病をもたらすことから、毎晩違う土地に連れ去られていた。しかし今度は日照りが続いた。だから今日は日中仕事を休み、2人でゆっくりしようと決めていたことを思い出す。
竜神は起き上がり裸の俺を膝にのせた。そして背中を何度か撫でたあと回復魔法の詠唱をはじめる。
「ミオ、違う。腹は痛くない」
「寿命が俺と同じになったからといって、不死身になったわけじゃないんだ。これからだってずっとここに負担がかかるんだから大切にしなきゃ」
竜神はそう言って背中から手を這わせ、尻の割れ目に指を添わせた。
「違う、本当に違うんだ」
俺はミオの自慢のフサフサの胸にしがみついた。本気の声色を察してか、窄まりに当てられた竜神の指がピタリと止まる。
「レジーの心臓の音すごい。怖い夢でも見た?」
竜神とともに寝ながら、皇帝の夢を見たことにひどく罪悪感を覚え、首を振りながら更に竜神の胸に顔を埋めた。フサフサな毛の奥から漂う熱気と安心する匂いに、心がほろほろと崩れるような感覚に囚われる。
「どんな夢を見たか当ててあげようか? 帝国にいた頃の夢だろ?」
0
お気に入りに追加
131
あなたにおすすめの小説
母の再婚で魔王が義父になりまして~淫魔なお兄ちゃんに執着溺愛されてます~
トモモト ヨシユキ
BL
母が魔王と再婚したルルシアは、義兄であるアーキライトが大の苦手。しかもどうやら義兄には、嫌われている。
しかし、ある事件をきっかけに義兄から溺愛されるようになり…エブリスタとフジョッシーにも掲載しています。
帝国皇子のお婿さんになりました
クリム
BL
帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。
そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。
「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」
「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」
「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」
「うん、クーちゃん」
「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」
これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。
【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?
真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる