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番外編:レジーの秘密

2度の目覚め ※

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薪の爆ぜる音が眠りの海から俺を引き上げる。気づけば、竜神の胸に埋まり眠ってしまっていた。

「レジー……体、大丈夫?」

「俺はまた……ミオ、俺はどのくらい寝ていた?」

洞窟の内部は暗くて時間の感覚がない。しかしミオがまだ竜神の姿をしていたから朝にはなっていないはずだ。

「そんなに経ってない。俺がこうしてたいんだから、気にしないでよ」

その言葉で、自分が一体どんな醜態を晒したのか心配になる。そして記憶に残っている自分自身の言動が顔を燃やした。
腰のあたりを掴んでいた竜神の手が、俺の火照った顔を撫でる。

「俺はレジーが弱ってるところにつけ込んで、なし崩しにレジーを抱いてさ。あんな形でそうなったの、ちょっとは後悔してるんだ」

「ミオ?」

なんの話をされるのかさっぱりわからず、頭がクラクラして名前を呼ぶことしかできない。

「本当はレジーと同じくらい、恥ずかしくて、あんなことがなければずっとこの姿を隠してた……」

ミオはやわやわと、大きな手で俺の体を弄り、長い首を折り曲げて、俺の目元に頬擦りをする。

「レジーがあの日。秘密を教えてくれて嬉しかったって言葉の意味、ずっとわからなかったんだ。でも今ならすごくよくわかる」

竜神は俺の片手を握って、フカフカな胸に埋めた。

「ここがずっと震えてて、眠れないんだよ。レジー、俺の、俺だけのレジー……」

竜神はこれだけ美しい姿をしていて、なぜ恥ずかしいと思うようになったのかはわからない。しかしそれは俺の主観であり、ミオもまた知られたくないと苛み苦悩した日々があったことを思い知らされる。

「ミオ……」

「うん?」

「もう一回……」

ミオはなにを勘違いしたのか、唇にキスを落とした。違う、と言うことも憚られ、俺は恥を忍んで掴まれた手をそのまま下腹部に誘う。

「もう一回、したい……」

「レジー、もう体壊れちゃうよ。さっきだってあんな……」

あんな? 言い濁された言葉に、また顔から火を噴いて、ミオの胸にしがみついた。

ミオがもう片方の腕がガサゴソと動く。なにをしているのだと向いた先に寝転ばされた。そして足を持ち上げられ、晒された後ろの窄まりに、竜神の熱い性器があてがわれる。

「さっき壊してって、泣いて叫んでたところ、壊れるまで擦ってあげる」

「あ……あ……」

「擦ってくれたらなんでもするって、もっと奥に流し込んでって、泣きながらここを締めつけるんだ」

「ミオ……ミオ……」

「秘密を教えてくれたから、全部叶えてあげる。レジー、愛してるよ」

「あっ、あっ、やあああああっ!」




朝の鳥の囀りに、羽ばたく音で目が覚め、朝日の温度を感じる。

隣を向くと、目をパッチリと開けたミオがいつものベッドの上で微笑んでいて、嬉しいような、悲しいような気分になる。そしてミオのツルッとした肌を撫でたときに、自分自身の男らしい節くれだった手にうんざりした。

今日は自分の願望そのもののような夢を見た。思い出すだけでも下腹部がジクジク痛みだす。

「見てよ! 結構遠くまで行ったからこっちでは雨降らなかったみたいだぜ!」

ミオは今日も朝からよく囀る。弾ける笑顔とは対照的に、自分の体を見つめて暗い気分になる。こんな男然とした体であんな声など……。

そこで俺の思考が停止した。

「ミオ。俺はなぜ裸なのだ」

「大丈夫。運んでくるときにはちゃんと俺の服で包んできたし、誰にも見られてないよ」

さっきのミオの囀りを思い出して、血の気が引くどころか、顔に血が集まってきた。

「あ、あのさ。レジー?」

ミオが俺の顔を覗き込みなにかを察したような顔をする。その全てが怒りに似た羞恥に変わり、俺はシーツを握りしめた。

「レ……レジー……ごめん……も、もう嫌ならしないから……」

ミオの消え入りそうな声で、昨日の自分の決意まで消えそうになる。しかし、その種火に息を吹き込んだ。

「今日の……夜も……してほしい……」

蚊の鳴くような俺の声に相当びっくりしたのか、ミオはガバッと起き上がった。

「あーー、あ、ああレジー。わかったからそれ以上は言わないで」

ミオは俺がまだ恥ずかしがっていると思っているのだろうか、言葉を遮り大声をあげた。だから恥を忍んでもう一度念を押す。

「昨日みたいに……してほしい……」

「レジー……もうそれ以上は言わないで……」

朝からこんな話をするのは常軌を逸している。それに今までの自分からは考えられない言動だと、俺自身が納得する。そのかわりに胸がチクチク痛んだ。

「すまん……もう言わない……」

「違うよ! レジー!」

部屋が急激に明るくなったと思ったら、竜神が俺に覆い被さった。

「今日、クエスト行くんだろ! もう、どうするんだよこれ! レジーが嫌だって言っても帰りに爪売ってくるからな!」

そういえば今日は赤さび病の麦の補填で、メアとユキとで中型クエストを請け負う予定だった。

「別に金になんて困ってないんだ! レジーと人生を楽しみたいってはじめたこと……なのに……レジー……?」

ミオの怪訝そうな顔を見て、はじめて自分の目の端から涙が溢れていたことに気づいた。なんで流れたのかもよくわからない涙だった。ミオが困惑する以上に困惑する。

ミオが突然上布団を引き剥がし、シーツの両端を持って俺をぐるぐる巻にした。なにがなんだかわからないうちに担がれ、窓が開け放たれる。

「メア! ユキ!」

「おー、そろそろ行くかー?」

「一大事だ! 今日のクエストはナシ! 金は作ってくるから心配するな!」

「おぉ、ミオが男らしい! その巻かれてるのレジーか? こっちに気を使わずゆっくり慰めてもらってこいよー!」

「姉様! レジーはそういうのが一番恥ずかしがるってなんでっ! わざと言ってるんですか!?」

「わざとだぞー! もっと辱めてもらえば、恥ずかしいなんて思ってることも吹き飛ぶぞー!」

「姉様っ!」

メアとユキのやりとりは最後の方、随分遠くで聴こえた。強く抱かれているから、ミオの焦げたような胸の匂いがシーツ越しでも漂ってくる。

「ミオ……」

「謝るくらいだったら、朝にあんなこと言うなよ! 昨日よりもっと酷いことするからな!」

腰を抱き寄せられて、不謹慎にも昂っている自分自身がミオに伝わる。

「ああっ、ああっ、なんで! なんでそんな秘密隠してたの!? 頭おかしくなりそうだよ! もう、もうっ! もおーーっ!」

竜神の声が空に響く。雨が降らないか心配したが、胸がパンパンに詰まってしまってそんな憂いはすぐにどこかに消えた。

空気の渇いた秋の空に、一筋の碧の竜神が雨を連れて飛んで行く。

<了>
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