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第32話 自由な大地

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 ミオは宝物を棚に並べている。こだわった棚の割に質素で、それがとてもミオらしい。

「ミオ、そろそろ寝るぞ」

「うん、ちょっと待って」

 いつものやりとりに少しだけ心が安らぐ。しかし、この平穏を壊してでも、言わなければならないことがある。

「ミオ、その宝物は明日は置いていかないか?」

「え? なんで?」

「なくしてしまうかもしれないだろ」

「なくしてしまわないようにいつも持ち歩くんだよ。レジーはなんにもわかってないな」

 ミオは最後の宝物を棚に置いたのか、サスペンダーを外しはじめた。

「それに……レジーがあっちの大陸に残りたいって言い出すかもしれないだろ」

 唐突な鋭利な言葉と、視線を向けられ、俺は一瞬たじろぐ。

「そんなことにはならない」

「そうならないように、俺にそんなこと言うんだろ」

 ミオの目は、竜神の目だった。二百年程度生きているという、様々な不条理を見つめてきた目。

「ユキは、メアを残して死ぬ。そして悲しみの中で生き抜くメアを見送って、俺とレジーは生きていかなければならない。アデルにしてもそうだ。そして例えレジーが皇帝と結ばれようとも、レジーは皇帝を見送って生き続けなければならない」

 達観した、悲しい真実を突きつけるミオの目に憂いはなかった。

「でもユキにメアを愛することをやめさせることなんて誰にもできない。アデルが兄と和解したいと願う心を誰も止められることなんてできない。そしてレジー。レジーが皇帝と対峙した時、彼に愛されたいと願うことなんて誰にも止めることはできないんだ」

「ミオ、俺はもう……」

「レジーにこんな悲しい運命を背負わせたんだ。たかだか何十年かくらい、レジーのことを待つなんて大したことないよ。でも俺は絶対に離れない。帝国の山で静かに暮らして、レジーの側から絶対に離れないよ」

 執着や、嫉妬、そんなことを超越した愛に、俺はひとつ息を吐いた。ミオの目から竜神の気配が抜け、いつものように肌着になって走ってくる。そうしていつもの唇をくすぐるようなキスをした。

「レジー?」

 肌着を片手で辿々しく脱がしにかかった俺を、ミオの幼い目が咎める。

「毎回破いてしまっては不経済だろ?」

 俺の片手に痺れをきらしたミオが、自分で肌着を脱ぐ。それを労うように俺は丁寧にキスをした。

「レジーは、レジーは。こういうことって、あんまりしたくない人なんだと思ってた」

 ミオは不平を零しながら、どんどんと竜神に変化する。そのフカフカな胸に顔を埋め、片手を首に手を回し、顔を手繰り寄せる。

「ミオは、俺のことをちっともわかっていないな。どうしたらミオにわかってもらえるのだ?」

「レジーのことはもうなんでも知ってるよ! レジーの気持ちがいいところを知っているのは俺だけなんだ!」

「じゃあなんでさっきのようなことを言うのだ? ミオ、俺を手放さないでくれ。あんなことを言わないでくれ。またこの自由な大地に帰ってきて、たくさん悲しんで、たくさん笑う。どんな不条理に感情が振り回されようと、ミオと一緒がいいんだ」

「レジー……」

「今日もミオの宝物にしてくれ。片手が戻ってきたら、ミオにもらった分だけ愛を返す」

「あぁ……なんで……」

 言葉を詰まらせ、今日も竜神が俺を抱く。竜神は俺さえ知らない体をこじ開け、秘密を暴いていく。激しい抽送に体は濡れ、最後の咆哮で大地が濡れる。

 そしてその雨に濡れない2人は、まるで石のように耳をそばだて、ひっそりと眠るのだ。
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