皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー

文字の大きさ
上 下
30 / 47

第29話 雨の日の鳥

しおりを挟む
 目が覚め、起きあがろうとして、片腕が無くなったことを思い出す。そして、ぱっちり目の開いたミオを見て、それも夢ではなかったと思う。雨音がまだ屋根を打つのに、窓からは柔らかな光が漏れていた。

「ミオ、おはよう」

 ミオはいつものように朝に騒ぎ立てなかった。ただ気まずそうに俺を見つめているだけでなにも話そうとしない。

「すごく、気持ちがよかった。俺はもうミオの宝物になれたのか?」

 ミオは頷くか頷かないかわからないほど微妙に頭を動かし、蚊の鳴くような声でつぶやいた。

「怒ってないの?」

「ミオに? なぜ? すごく気持ちよかった。ミオに教えてもらってばかりだな」

 ミオは涙を浮かべて黙った。ずっと隠していたことを気に病んでいるのだろう。しかし、今思い返せば、合点のいくことばかりだった。それに、ミオと竜神の痛々しいほどの愛を感じずにはいられなかった。

「途中でどうにもならなくなったんだろう。ミオらしい。でも……」

「でも?」

 不安そうな顔でミオは俺に顔を寄せる。

「嬉しかった。秘密を教えてくれて。ミオはなぜその格好をしているのだ?」

「あの姿だと……孤独で……。淫魔に擬態方法を習ったんだ。それで街で行き倒れていた男の子に、姿も名前も生い立ちも借りたんだ」

「じゃあ娼館で働いていたのもその男の子の経歴か」

「うん……そういうことしようとすると、昨日みたいになっちゃうから……」

 娼館で働けない理由が壮絶で、笑ってはいけないのだが、吹き出してしまった。

「でも、凱旋の隊列でレジーを見たのは本当なんだ。ホテルの2階から見たんだけど、レジーがかっこよくて……ホテルで昨日みたいな姿になっちゃって……」

「ホテルは壊れなかったのか?」

「ギチギチだったよ。だから、レジーがこの部屋作ってくれて……すごく……」

 涙が一粒落ちたから、俺は片手でそれを拭った。

「ミオは俺に抱かれたいのかと思っていたよ」

「そう言えば、この姿の方を好きにならないかと思って……」

 チグハグなミオの言動が全て解明し、そのいじらしさに胸が焦がされる。キスをしたいが体が動かない。だから俺が唇を少し尖らせると、ミオはそこにキスをしてくれた。しかしやはりくすぐったい。

「それもわざとそうしているのか?」

「わざとじゃないよ! レジーがこどもなだけだろ!」

 俺はミオの頬を何度か撫でて、そして唇にキスをする。昨日竜神としたそれのように、丁寧に舌を差し入れ、何度も何度も中で交わる。

「あ……らめぇ……れりー……あっ!」

 ミオは俺を突き放したかと思ったら、みるみるとツノや鱗を生やし、大きくなった。

「はは、本当だ。朝見ると鱗がとても綺麗だな」

「こうなったら半日は戻らないんだぞ! レジーのそういうところがこどもだって言ってるんだよ!」

 竜神の声でミオの言葉を喋る。それが愛おしくて仕方がなかった。

「ミオ、起こしてくれるか?」

「もう! 午前中どうするんだよ! 俺の助けがなければどうにもならないのに!」

 ミオは怒りながら俺を引き起こし、フワフワの胸に抱き寄せる。

「ミオ、このまま抱いてほしい。そうされたいと、ずっと思ってたんだ」

「え……?」

「愛してる」

「俺が! 俺が先に言おうと思ってたのに! なんでレジーが先に言うの!?」

「してくれないのか?」

「する、したいよ! レジー、俺のレジーなんだ、ああ、ああ、でもなんで先に言うの?」

「ずっと言ってくれてただろ。ミオ、ありがとう」

 ミオは急に大人しくなり、そして俺は意識を失うまで抱かれた。長く揺さぶられたせいで、意識を取り戻した後は気分が優れず、またミオの回復魔法の世話になる。

 ミオは甲斐甲斐しく俺に付き添い、そしてポツリと言ったのだ。

「レジー、腕を取り返しに行こう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】塩対応の同室騎士は言葉が足らない

ゆうきぼし/優輝星
BL
騎士団養成の寄宿学校に通うアルベルトは幼いころのトラウマで閉所恐怖症の発作を抱えていた。やっと広い二人部屋に移動になるが同室のサミュエルは塩対応だった。実はサミュエルは継承争いで義母から命を狙われていたのだ。サミュエルは無口で無表情だがアルベルトの優しさにふれ少しづつ二人に変化が訪れる。 元のあらすじは塩彼氏アンソロ(2022年8月)寄稿作品です。公開終了後、大幅改稿+書き下ろし。 無口俺様攻め×美形世話好き *マークがついた回には性的描写が含まれます。表紙はpome村さま 他サイトも転載してます。

神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう
BL
森の奥の魔素の強い『森の聖域』に住むリーンは『森の管理者』として『風霊』に呼ばれ、各地で起こる自然災害や、壊れそうな結界の被害を最小限に抑えるため、各地を飛び回っていた。 そんなリーンが出会ったのは、魔力を持っている事を隠されて、魔法を使う事の出来ない剣士で…。 リーンに掛けられた幾つもの魔法が動き出し、発動し始める…。 長い時間の中で出会った、獣人族、水人族、魔女、人族と再開しながら、旅の終わりに向かう…。 長い時間を生きるリーンの最初で最後の恋物語。 ⚫水中都市~フールシアの溺愛~  リーンの過去編です。  馬車の中で語った、『水中都市へ行って、帰って来た話』です。  ルーク達には、フールシアとのアレコレは、流石に省いて話してます。 ⚫魔女の森~対価~  リーンの過去編です。  かつて一緒に行動を共にして暮らした、獣人のユキに掛けた魔法が消えた。 彼女にあげた、その耳飾りを探して『魔女の森』へ、迷いこむ。その日は『魔女の宴』で…。 魔女達から逃げきれず、捕まってしまうが…。 ~旅の途中~ジン~の少し前の話です。 (ジンと、出会った後の話) ⚫神の宿り木~再生~に入ったのに、アリミネ火山~追憶のキース~が意外と長くなってしまった。 でも、これがあったからのキラですからね…。 ⚫森の聖域 リーンが眠って目覚める場所の話です。 待ってるルークは…あの子達に囲まれて、気が紛れているのかも…。 ⚫名前を呼んで…。(番外編) ヒナキとユグの話が書きたくなってしまったので、番外編です。 異種族、長寿の二人には、これからも時間が有るから、ゆっくりとね…。 ⚫希少種 ぐるっと一周回って来ました。 本当はココに~ジン~の話が、番外編で入った方が良いような気がしたけれど、先に進みます。 *****   *神の宿り木~旅の途中~ジン~の、十数年後の話です。(~ルーク~へ、たどり着くまでの過去の話しです)(~ジン~は完結してます) こちらも読んで見てください。

捨て猫はエリート騎士に溺愛される

135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。 目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。 お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。 京也は総受け。

[BL]王の独占、騎士の憂鬱

ざびえる
BL
ちょっとHな身分差ラブストーリー💕 騎士団長のオレオはイケメン君主が好きすぎて、日々悶々と身体をもてあましていた。そんなオレオは、自分の欲望が叶えられる場所があると聞いて… 王様サイド収録の完全版をKindleで販売してます。プロフィールのWebサイトから見れますので、興味がある方は是非ご覧になって下さい

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

処理中です...