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第26話 2度目の訪問者
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「随分と優雅な暮らしをしてるんですね。レジー」
玄関先に来た男にそう問われても、心当たりが無い。しかしマントを翻した時に見えた鎧は帝国のものだった。そして、甲冑の留め具の紋章を見て目を見開く。
「ア……アデル?」
俺は階段を駆け降り、アデルの前に立つ。後ろからミオとメアが駆け寄ってくる音が響いた。
「その甲冑……アデル、軍人になったのか?」
「ええ、レジーと同じポストに」
「そうか……随分と大きくなったな。元気そうで……」
しかしなぜ大陸に、そう考えた時に、俺と同じポストという言葉がやけに気になった。
「どうしてこの大陸に?」
まさか追放されたのかとは聞けず、呑気な質問をしてしまう。
「帝国は今揺れています。ここへの船も不安定になるかもしれない、そう聞き及び急いで来ました。約束を果たしに」
言うや否や、アデルは左右の剣を抜いた。
「レジー!」
「ミオ! こっちに来るな!」
アデルの殺気に、走り寄ってきたミオを静止させる。
「レジー、端金を送り続けてくれてありがとう。思い出したくもないのに、ご丁寧に近況まで添えて。父さんと母さんによろしくなんて、甲斐甲斐しくて涙が出たよ。その無神経さに。だから僕の近況も教えてあげるよ」
「アデル、なにを言っているのだ?」
アデルは気が触れてしまったのかと思えるほど不可解なことを捲し立てる。しかし剣を握り構えるそこには一部の隙もなかった。
「なぜ、あの日。レジーが追放された日、父さんと母さんが来なかったと思う?」
「アデル、なにを言ってるのだ!」
「あの日、レジーが去った日。帰ってみたら貴様の父は僕の母さんを刺して自害していたよ。貴様の凋落を嘆いて、この世に絶望して! 自分の命のみならず、無関係な母さんの命まで道連れに!」
日はまだ沈んでいないのに、俺の目の前が真っ暗になった。その闇の中に、あの日アデルが泣きながら駆け寄ってくれた風景が何度も甦る。
「貴様は僕を置いて、大陸を去った。自分の罪を家族になすりつけ、連れて行って欲しいと願う僕を置いて! あれからどんな日々が待っていたと思う?」
アデルは短剣の鞘近くに留めていたなにかを俺に投げつけた。腹に当たり落ちたそれは、あの日アデルに渡した家の紋章だった。
「世間からの好奇の目に耐えかねて、僕は帝国の反乱組織に身を置いた。当然だろう、兄を貶め、母の命を奪い、家名を失墜させた帝国そのものに反感を抱くのは当然だった! しかしそれを変えてくれたのは皇紀リベリオだった……」
その名に、胸から手のひらまで痛みが駆け抜ける。
「貴様は後宮の撤廃を進言し、陛下の鬱憤を奉仕で解消させたというではないか。異例の昇進、有り得ない裁量。貴様はそれを色目を使い、手に入れたと。その汚い尻の穴で!」
動悸が高まり、息さえできない。一部真実とは違えど、事実無根とは言えず俺は沈黙のまま闇に引き摺り込まれる。
「帝国に居ても居なくても、迷惑にしかならない。そんな奴が未だ双腕でいられるのが腹立たしい。だからレジー。約束を果たしにきた。言ってくれたよね? 片腕が現れるって。だからもらいにきた」
「レジー!」
後ろと横からそれぞれ剣を抜く音が聴こえた。しかしそれよりも前に、右肩に衝撃が走り、腕がドスっと地面に落ちる。その後、血が噴き出した。
「ユキ! 腕を奪え!」
ミオの命令が膝をついた俺の上を通過する。しかし俺の落とされた腕を拾ったのは、アデルだった。
「いつまでも恥を晒して生きればいい」
掴みかかった腕をかわし、アデルは体術でユキを殴打する。
「恥の上塗りをしたいのか?」
アデルのその言葉に全員が凍りつき、そして俺の止血を優先してアデルを見送った。
玄関先に来た男にそう問われても、心当たりが無い。しかしマントを翻した時に見えた鎧は帝国のものだった。そして、甲冑の留め具の紋章を見て目を見開く。
「ア……アデル?」
俺は階段を駆け降り、アデルの前に立つ。後ろからミオとメアが駆け寄ってくる音が響いた。
「その甲冑……アデル、軍人になったのか?」
「ええ、レジーと同じポストに」
「そうか……随分と大きくなったな。元気そうで……」
しかしなぜ大陸に、そう考えた時に、俺と同じポストという言葉がやけに気になった。
「どうしてこの大陸に?」
まさか追放されたのかとは聞けず、呑気な質問をしてしまう。
「帝国は今揺れています。ここへの船も不安定になるかもしれない、そう聞き及び急いで来ました。約束を果たしに」
言うや否や、アデルは左右の剣を抜いた。
「レジー!」
「ミオ! こっちに来るな!」
アデルの殺気に、走り寄ってきたミオを静止させる。
「レジー、端金を送り続けてくれてありがとう。思い出したくもないのに、ご丁寧に近況まで添えて。父さんと母さんによろしくなんて、甲斐甲斐しくて涙が出たよ。その無神経さに。だから僕の近況も教えてあげるよ」
「アデル、なにを言っているのだ?」
アデルは気が触れてしまったのかと思えるほど不可解なことを捲し立てる。しかし剣を握り構えるそこには一部の隙もなかった。
「なぜ、あの日。レジーが追放された日、父さんと母さんが来なかったと思う?」
「アデル、なにを言ってるのだ!」
「あの日、レジーが去った日。帰ってみたら貴様の父は僕の母さんを刺して自害していたよ。貴様の凋落を嘆いて、この世に絶望して! 自分の命のみならず、無関係な母さんの命まで道連れに!」
日はまだ沈んでいないのに、俺の目の前が真っ暗になった。その闇の中に、あの日アデルが泣きながら駆け寄ってくれた風景が何度も甦る。
「貴様は僕を置いて、大陸を去った。自分の罪を家族になすりつけ、連れて行って欲しいと願う僕を置いて! あれからどんな日々が待っていたと思う?」
アデルは短剣の鞘近くに留めていたなにかを俺に投げつけた。腹に当たり落ちたそれは、あの日アデルに渡した家の紋章だった。
「世間からの好奇の目に耐えかねて、僕は帝国の反乱組織に身を置いた。当然だろう、兄を貶め、母の命を奪い、家名を失墜させた帝国そのものに反感を抱くのは当然だった! しかしそれを変えてくれたのは皇紀リベリオだった……」
その名に、胸から手のひらまで痛みが駆け抜ける。
「貴様は後宮の撤廃を進言し、陛下の鬱憤を奉仕で解消させたというではないか。異例の昇進、有り得ない裁量。貴様はそれを色目を使い、手に入れたと。その汚い尻の穴で!」
動悸が高まり、息さえできない。一部真実とは違えど、事実無根とは言えず俺は沈黙のまま闇に引き摺り込まれる。
「帝国に居ても居なくても、迷惑にしかならない。そんな奴が未だ双腕でいられるのが腹立たしい。だからレジー。約束を果たしにきた。言ってくれたよね? 片腕が現れるって。だからもらいにきた」
「レジー!」
後ろと横からそれぞれ剣を抜く音が聴こえた。しかしそれよりも前に、右肩に衝撃が走り、腕がドスっと地面に落ちる。その後、血が噴き出した。
「ユキ! 腕を奪え!」
ミオの命令が膝をついた俺の上を通過する。しかし俺の落とされた腕を拾ったのは、アデルだった。
「いつまでも恥を晒して生きればいい」
掴みかかった腕をかわし、アデルは体術でユキを殴打する。
「恥の上塗りをしたいのか?」
アデルのその言葉に全員が凍りつき、そして俺の止血を優先してアデルを見送った。
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