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第35話 生活の準備
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ダグラスはそのまま僕を抱いて、草原を横切る。いつまでも森を眺めていたけど、でも心は澄んでいて、嗚咽もいくらかマシになった。
「リリィ、一度神殿に行って荷物をまとめよう」
「え……?」
「さっき陛下と大魔道士様に了承を得たから大丈夫だ。これからは俺の家から神殿に通えばいい。仕事のある日はジンバルで送っていくぞ」
一緒に暮らす、確かにそんなことを言っていた気がするけど、僕は混乱していてよくわかっていなかった。だからだろう、全然関係のないことを思い出した。
「ダグラスはジンバルで仕事に行かないんじゃないの?」
「歩いて街を通っていれば、リディアを見られるんじゃないかと思っていたんだ。なかなか見つからなかったけどな……」
僕はスープを拾った日を思い出す。そして胸がカッと熱くなった。ダグラスは毎日歩いて街や神殿の前を通ってくれていたのだ。僕がもし窓の外を見やれば、ダグラスのことを見つけられたかもしれない。そう考えると悔しさや悲しさで胸が焦がれた。
「お風呂以外にも、我が家は色々と覚えなくてはならないことがあるぞ?」
急にダグラスが声を張り上げるから、僕はビックリしてダグラスの顔を覗き込む。
「まずは、ジンバルの餌やり。ジンバルはリリィが大好きだからな。それに今日は家で寂しがっているから、帰ったらリリィが餌をやるんだ」
僕は昨日駆けて来てくれたジンバルを思い出して嬉しさが込み上げてくる。
「はい!」
「それに、ご飯も用意してあるから食べすぎてはダメだ」
「はい!」
「お風呂は……」
「気持ちがいいからって長く浸かってはダメ!」
「そうだ。リリィの部屋から大切なものをまとめて、今日引っ越すんだ。大きいものは明日ジンバルと取りに来よう」
「はい!」
ジンバルが会いたがっている、そう言われてしまっては、モヤモヤしていた気持ちも吹き飛び、テキパキと引越しの準備ができた。当面必要な大切なものは案外少なくて、ダグラスのストールで包めるほどだった。
階下に置きっぱなしの洗濯板、肌着と下着、口布の替えが数枚。櫛と歯ブラシ、髪の毛を切るハサミと裁縫道具の入った木箱、それにスープを買うための鉄製の容器とスプーンとフォーク。魔糸は国からの支給品なので階下に置いていたし、仕事以外で使うことは少ない。
「ベッドは……」
「今日からリリィは俺のベッドで寝るんだ」
「で、でも……」
「一緒に寝るのは嫌か?」
「ベッドを見たことがない……」
「じゃあ、こうしよう。今日ベッドに寝てみて、俺の寝相が酷かったり、寝心地が悪かったら、明日取りに来る」
「はい!」
「はは、今日は寝相に気をつけないとな……。これで全部か? 婦人服とショールはどうした?」
「あ! 昨日置いていっちゃった! ダグラスの家に行くときに拾っていきたい!」
「はは、じゃあ拾っていこう。メモは国の者が証拠として持っていくから、このままにしていこう。リリィが仕事の時に渡してやってくれ」
「はい!」
「いい子だ。じゃあ出発しよう」
ダグラスの大きな手が不意に僕の目の前に差し出されそのまま持ち上げられそうになる。そしてもう片方の腕には僕の荷物が当然のように持ち上げられていた。
「ぼ、僕が持ちます」
ダグラスが抱えようと伸ばした手を避けて、反対側に手を伸ばす。
「じゃあ、俺が荷物を持つ代わりに、リリィは俺の手を持ってくれ」
そう言って、ダグラスが僕の手を握った。
「俺は大きいからな。手だけでも重いだろう? 嫌になったら途中で投げ出したっていいんだぞ」
「重くても投げ出さない!」
「いい子だ。じゃあ今度こそ出発だ」
「はい!」
「リリィ、一度神殿に行って荷物をまとめよう」
「え……?」
「さっき陛下と大魔道士様に了承を得たから大丈夫だ。これからは俺の家から神殿に通えばいい。仕事のある日はジンバルで送っていくぞ」
一緒に暮らす、確かにそんなことを言っていた気がするけど、僕は混乱していてよくわかっていなかった。だからだろう、全然関係のないことを思い出した。
「ダグラスはジンバルで仕事に行かないんじゃないの?」
「歩いて街を通っていれば、リディアを見られるんじゃないかと思っていたんだ。なかなか見つからなかったけどな……」
僕はスープを拾った日を思い出す。そして胸がカッと熱くなった。ダグラスは毎日歩いて街や神殿の前を通ってくれていたのだ。僕がもし窓の外を見やれば、ダグラスのことを見つけられたかもしれない。そう考えると悔しさや悲しさで胸が焦がれた。
「お風呂以外にも、我が家は色々と覚えなくてはならないことがあるぞ?」
急にダグラスが声を張り上げるから、僕はビックリしてダグラスの顔を覗き込む。
「まずは、ジンバルの餌やり。ジンバルはリリィが大好きだからな。それに今日は家で寂しがっているから、帰ったらリリィが餌をやるんだ」
僕は昨日駆けて来てくれたジンバルを思い出して嬉しさが込み上げてくる。
「はい!」
「それに、ご飯も用意してあるから食べすぎてはダメだ」
「はい!」
「お風呂は……」
「気持ちがいいからって長く浸かってはダメ!」
「そうだ。リリィの部屋から大切なものをまとめて、今日引っ越すんだ。大きいものは明日ジンバルと取りに来よう」
「はい!」
ジンバルが会いたがっている、そう言われてしまっては、モヤモヤしていた気持ちも吹き飛び、テキパキと引越しの準備ができた。当面必要な大切なものは案外少なくて、ダグラスのストールで包めるほどだった。
階下に置きっぱなしの洗濯板、肌着と下着、口布の替えが数枚。櫛と歯ブラシ、髪の毛を切るハサミと裁縫道具の入った木箱、それにスープを買うための鉄製の容器とスプーンとフォーク。魔糸は国からの支給品なので階下に置いていたし、仕事以外で使うことは少ない。
「ベッドは……」
「今日からリリィは俺のベッドで寝るんだ」
「で、でも……」
「一緒に寝るのは嫌か?」
「ベッドを見たことがない……」
「じゃあ、こうしよう。今日ベッドに寝てみて、俺の寝相が酷かったり、寝心地が悪かったら、明日取りに来る」
「はい!」
「はは、今日は寝相に気をつけないとな……。これで全部か? 婦人服とショールはどうした?」
「あ! 昨日置いていっちゃった! ダグラスの家に行くときに拾っていきたい!」
「はは、じゃあ拾っていこう。メモは国の者が証拠として持っていくから、このままにしていこう。リリィが仕事の時に渡してやってくれ」
「はい!」
「いい子だ。じゃあ出発しよう」
ダグラスの大きな手が不意に僕の目の前に差し出されそのまま持ち上げられそうになる。そしてもう片方の腕には僕の荷物が当然のように持ち上げられていた。
「ぼ、僕が持ちます」
ダグラスが抱えようと伸ばした手を避けて、反対側に手を伸ばす。
「じゃあ、俺が荷物を持つ代わりに、リリィは俺の手を持ってくれ」
そう言って、ダグラスが僕の手を握った。
「俺は大きいからな。手だけでも重いだろう? 嫌になったら途中で投げ出したっていいんだぞ」
「重くても投げ出さない!」
「いい子だ。じゃあ今度こそ出発だ」
「はい!」
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