32 / 41
第31話 見たことのない顔
しおりを挟む
唐突なアンネの大声に驚き僕は目を見開く。そして飛び込んできた光景に絶句する。ダグラスはモリーに剣を突きつけ肩で息をしていた。
ダグラスは見たことのない人みたいだった。オデコに血管を浮き上がらせ、目はつり上がり憎しみに燃えていた。
「ダグラス……ミリア卿……?」
モリーは鋒を突きつけられ、その恐怖から細い声で命乞いのように疑問を浮かべる。
「モリー、首を跳ね飛ばされたくなければ余計な戯言を口にするな。詳しくは公開裁判で包み隠さず証言しろ」
「公開裁判なんて……なぜ!」
「それともここで公開処刑にするか?」
アンネの低い声が神殿に響き渡る。そして、ダグラスが剣を持ちなおした音が響くと、モリーはカタカタと震え出した。
「おい! 証言はとれた! そいつを連行しろ!」
アンネの号令で、さっき外に出たはずの黒づくめの二人が神殿に飛び込んできた。両腕を掴まれたモリーを見て、昨日の自分を思い出さないわけはない。
「モリー、モリーをどうするの!」
「公開裁判といって、みんなの前で真実を告白するんだよ」
アンネの優しい声では、僕の恐怖を拭えなかった。きっと真実を告白してモリーは袋叩きに遭ってしまうのだ。封印師とわかったら袋叩きにするように。
「モリーが殴られるのは嫌だ……! みんな痛いのは嫌だ!」
思わず声をあげる。その時神殿の後ろから老人の声が響き渡った。
「ほっほ、大丈夫だ。殴られたりしないよ。これからリディアも殴られることはなくなっていくさ。しかしこんな子悪党にまでリディアは優しいのう」
老人と入れ違いで、二人の男とともにモリーが出口に向かう。そして扉をくぐる時、モリーは少し僕に振り返ったのだ。その悲しい目を見ていられなかった。
「モリー!」
僕の叫び声を遮ったのは、ダグラスだった。僕はさっき見た剣で斬られてしまったのだと思った。そう思うぐらい強い衝撃で、ダグラスは僕を抱きしめた。
「リリィ……リリィ……! 誰がリリィにこんなことをした! モリーか!?」
「ほっほ、ダグラス、リディアはまだ怪我をしておるから、そんな強く抱いてはダメだ。それに物事には順序があるのだぞ?」
すぐそこまでやってきた老人が、片手でダグラスの首を掴んで、僕から引き剥がした。ダグラスはあっけなく後ろに追いやられ、老人が僕の目の前までやってくる。僕を打つ順序のことを言っているのだと思ったから、先に謝ろうと思った。
「さ、さっき、いいと言うまで喋らないって約束したのに、喋ってしまって、ごめんなさい」
「ほっほ、ワシが生きてるって言うなという意味だよ。気にするんじゃない。さ、約束じゃ。治療するぞ」
老人は僕の体のあちこちを触りはじめた。
「おじいさん、モリーをどうするの?」
「リディア、ちょっと難しい話かもしれないけど、モリーは本来儀式に必要なお金を、人々から多くもらっていたんだ。それに、リディアに支払わなければならない分をせしめていた。だからそれを返してもらう」
「モリーはお金を返したら殴られないの?」
「ああ、殴られないさ。ちゃんとリディアにお金が戻ってくるようにするから安心しなさい。お金が戻ってきたらなにが食べたいかえ?」
「僕は……お金の使い方を習わなかったから……街の人から多くもらっていたなら、みんなに返したい」
「ふむ。リディアに返す分と、街の人に返す分は別だぞ? しかし困ったことにモリーは今までの書類を片っ端から焼いておっての。どの家が儀式を済ませたのかよくわからないんだ……」
「僕……僕はわかります」
「わかる? 覚えているのかえ?」
「覚えてはいないけど……二階に行けばわかります」
ダグラスは見たことのない人みたいだった。オデコに血管を浮き上がらせ、目はつり上がり憎しみに燃えていた。
「ダグラス……ミリア卿……?」
モリーは鋒を突きつけられ、その恐怖から細い声で命乞いのように疑問を浮かべる。
「モリー、首を跳ね飛ばされたくなければ余計な戯言を口にするな。詳しくは公開裁判で包み隠さず証言しろ」
「公開裁判なんて……なぜ!」
「それともここで公開処刑にするか?」
アンネの低い声が神殿に響き渡る。そして、ダグラスが剣を持ちなおした音が響くと、モリーはカタカタと震え出した。
「おい! 証言はとれた! そいつを連行しろ!」
アンネの号令で、さっき外に出たはずの黒づくめの二人が神殿に飛び込んできた。両腕を掴まれたモリーを見て、昨日の自分を思い出さないわけはない。
「モリー、モリーをどうするの!」
「公開裁判といって、みんなの前で真実を告白するんだよ」
アンネの優しい声では、僕の恐怖を拭えなかった。きっと真実を告白してモリーは袋叩きに遭ってしまうのだ。封印師とわかったら袋叩きにするように。
「モリーが殴られるのは嫌だ……! みんな痛いのは嫌だ!」
思わず声をあげる。その時神殿の後ろから老人の声が響き渡った。
「ほっほ、大丈夫だ。殴られたりしないよ。これからリディアも殴られることはなくなっていくさ。しかしこんな子悪党にまでリディアは優しいのう」
老人と入れ違いで、二人の男とともにモリーが出口に向かう。そして扉をくぐる時、モリーは少し僕に振り返ったのだ。その悲しい目を見ていられなかった。
「モリー!」
僕の叫び声を遮ったのは、ダグラスだった。僕はさっき見た剣で斬られてしまったのだと思った。そう思うぐらい強い衝撃で、ダグラスは僕を抱きしめた。
「リリィ……リリィ……! 誰がリリィにこんなことをした! モリーか!?」
「ほっほ、ダグラス、リディアはまだ怪我をしておるから、そんな強く抱いてはダメだ。それに物事には順序があるのだぞ?」
すぐそこまでやってきた老人が、片手でダグラスの首を掴んで、僕から引き剥がした。ダグラスはあっけなく後ろに追いやられ、老人が僕の目の前までやってくる。僕を打つ順序のことを言っているのだと思ったから、先に謝ろうと思った。
「さ、さっき、いいと言うまで喋らないって約束したのに、喋ってしまって、ごめんなさい」
「ほっほ、ワシが生きてるって言うなという意味だよ。気にするんじゃない。さ、約束じゃ。治療するぞ」
老人は僕の体のあちこちを触りはじめた。
「おじいさん、モリーをどうするの?」
「リディア、ちょっと難しい話かもしれないけど、モリーは本来儀式に必要なお金を、人々から多くもらっていたんだ。それに、リディアに支払わなければならない分をせしめていた。だからそれを返してもらう」
「モリーはお金を返したら殴られないの?」
「ああ、殴られないさ。ちゃんとリディアにお金が戻ってくるようにするから安心しなさい。お金が戻ってきたらなにが食べたいかえ?」
「僕は……お金の使い方を習わなかったから……街の人から多くもらっていたなら、みんなに返したい」
「ふむ。リディアに返す分と、街の人に返す分は別だぞ? しかし困ったことにモリーは今までの書類を片っ端から焼いておっての。どの家が儀式を済ませたのかよくわからないんだ……」
「僕……僕はわかります」
「わかる? 覚えているのかえ?」
「覚えてはいないけど……二階に行けばわかります」
0
お気に入りに追加
125
あなたにおすすめの小説
《完結》狼の最愛の番だった過去
丸田ザール
BL
狼の番のソイ。 子を孕まねば群れに迎え入れて貰えないが、一向に妊娠する気配が無い。焦る気持ちと、申し訳ない気持ちでいっぱいのある日 夫であるサランが雌の黒い狼を連れてきた 受けがめっっっちゃ可哀想なので注意です ハピエンになります ちょっと総受け。
オメガバース設定ですが殆ど息していません
ざまぁはありません!話の展開早いと思います…!
初恋の公爵様は僕を愛していない
上総啓
BL
伯爵令息であるセドリックはある日、帝国の英雄と呼ばれるヘルツ公爵が自身の初恋の相手であることに気が付いた。
しかし公爵は皇女との恋仲が噂されており、セドリックは初恋相手が発覚して早々失恋したと思い込んでしまう。
幼い頃に辺境の地で公爵と共に過ごした思い出を胸に、叶わぬ恋をひっそりと終わらせようとするが…そんなセドリックの元にヘルツ公爵から求婚状が届く。
もしや辺境でのことを覚えているのかと高揚するセドリックだったが、公爵は酷く冷たい態度でセドリックを覚えている様子は微塵も無い。
単なる政略結婚であることを自覚したセドリックは、恋心を伝えることなく封じることを決意した。
一方ヘルツ公爵は、初恋のセドリックをようやく手に入れたことに並々ならぬ喜びを抱いていて――?
愛の重い口下手攻め×病弱美人受け
※二人がただただすれ違っているだけの話
前中後編+攻め視点の四話完結です
【短編】翼を失くした青い鳥
cyan
BL
幼い頃に拐われて奴隷として売られ、男娼として働いていた主人公ファルシュが、月の定と呼ばれる運命の相手を見つけるまでの話。
※凌辱シーンやノーマルではない表現があるので、苦手な方はご注意ください。
【完】100枚目の離婚届~僕のことを愛していないはずの夫が、何故か異常に優しい~
人生1919回血迷った人
BL
矢野 那月と須田 慎二の馴れ初めは最悪だった。
残業中の職場で、突然、発情してしまった矢野(オメガ)。そのフェロモンに当てられ、矢野を押し倒す須田(アルファ)。
そうした事故で、二人は番になり、結婚した。
しかし、そんな結婚生活の中、矢野は須田のことが本気で好きになってしまった。
須田は、自分のことが好きじゃない。
それが分かってるからこそ矢野は、苦しくて辛くて……。
須田に近づく人達に殴り掛かりたいし、近づくなと叫び散らかしたい。
そんな欲求を抑え込んで生活していたが、ある日限界を迎えて、手を出してしまった。
ついに、一線を超えてしまった。
帰宅した矢野は、震える手で離婚届を記入していた。
※本編完結
※特殊設定あります
※Twitterやってます☆(@mutsunenovel)
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
運命には抗えない〜第一幕〜
みこと
BL
北の辺境伯でアルファのレオナルドの元に嫁ぐ事になったとオメガのルーファス。レオナルドに憧れていたルーファスは喜んで辺境の地を訪れるが自分は望まれていないこと知る。彼には好きなオメガいるようだ。
レオナルドには嫌われているが優しく真面目なルーファスはレオナルドの友人や屋敷の使用人たちと仲良くなっていく。寂しいながらも皆に支えられて辺境の地で過ごすうちにレオナルドの身に起こっている驚愕の事実を知ることになる…。
ちなみに攻めのレオナルドは変態です。R18は予告なしですので苦手な方はご遠慮下さい。
豆腐のメンタルなので誹謗中傷はお手柔らかに…。誤字脱字かあったらすいません。先に謝っておきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる