口なしの封緘

大田ネクロマンサー

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第31話 見たことのない顔

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唐突なアンネの大声に驚き僕は目を見開く。そして飛び込んできた光景に絶句する。ダグラスはモリーに剣を突きつけ肩で息をしていた。

ダグラスは見たことのない人みたいだった。オデコに血管を浮き上がらせ、目はつり上がり憎しみに燃えていた。

「ダグラス……ミリア卿……?」

モリーは鋒を突きつけられ、その恐怖から細い声で命乞いのように疑問を浮かべる。

「モリー、首を跳ね飛ばされたくなければ余計な戯言を口にするな。詳しくは公開裁判で包み隠さず証言しろ」

「公開裁判なんて……なぜ!」

「それともここで公開処刑にするか?」

アンネの低い声が神殿に響き渡る。そして、ダグラスが剣を持ちなおした音が響くと、モリーはカタカタと震え出した。

「おい! 証言はとれた! そいつを連行しろ!」

アンネの号令で、さっき外に出たはずの黒づくめの二人が神殿に飛び込んできた。両腕を掴まれたモリーを見て、昨日の自分を思い出さないわけはない。

「モリー、モリーをどうするの!」

「公開裁判といって、みんなの前で真実を告白するんだよ」

アンネの優しい声では、僕の恐怖を拭えなかった。きっと真実を告白してモリーは袋叩きに遭ってしまうのだ。封印師とわかったら袋叩きにするように。

「モリーが殴られるのは嫌だ……! みんな痛いのは嫌だ!」

思わず声をあげる。その時神殿の後ろから老人の声が響き渡った。

「ほっほ、大丈夫だ。殴られたりしないよ。これからリディアも殴られることはなくなっていくさ。しかしこんな子悪党にまでリディアは優しいのう」

老人と入れ違いで、二人の男とともにモリーが出口に向かう。そして扉をくぐる時、モリーは少し僕に振り返ったのだ。その悲しい目を見ていられなかった。

「モリー!」

僕の叫び声を遮ったのは、ダグラスだった。僕はさっき見た剣で斬られてしまったのだと思った。そう思うぐらい強い衝撃で、ダグラスは僕を抱きしめた。

「リリィ……リリィ……! 誰がリリィにこんなことをした! モリーか!?」

「ほっほ、ダグラス、リディアはまだ怪我をしておるから、そんな強く抱いてはダメだ。それに物事には順序があるのだぞ?」

すぐそこまでやってきた老人が、片手でダグラスの首を掴んで、僕から引き剥がした。ダグラスはあっけなく後ろに追いやられ、老人が僕の目の前までやってくる。僕を打つ順序のことを言っているのだと思ったから、先に謝ろうと思った。

「さ、さっき、いいと言うまで喋らないって約束したのに、喋ってしまって、ごめんなさい」

「ほっほ、ワシが生きてるって言うなという意味だよ。気にするんじゃない。さ、約束じゃ。治療するぞ」

老人は僕の体のあちこちを触りはじめた。

「おじいさん、モリーをどうするの?」

「リディア、ちょっと難しい話かもしれないけど、モリーは本来儀式に必要なお金を、人々から多くもらっていたんだ。それに、リディアに支払わなければならない分をせしめていた。だからそれを返してもらう」

「モリーはお金を返したら殴られないの?」

「ああ、殴られないさ。ちゃんとリディアにお金が戻ってくるようにするから安心しなさい。お金が戻ってきたらなにが食べたいかえ?」

「僕は……お金の使い方を習わなかったから……街の人から多くもらっていたなら、みんなに返したい」

「ふむ。リディアに返す分と、街の人に返す分は別だぞ? しかし困ったことにモリーは今までの書類を片っ端から焼いておっての。どの家が儀式を済ませたのかよくわからないんだ……」

「僕……僕はわかります」

「わかる? 覚えているのかえ?」

「覚えてはいないけど……二階に行けばわかります」
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