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第15話 男の友達
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村は色とりどりの屋根で、その先に広がる輝く峰が際立って見える。
「キレイ!」
「はは、気に入ってくれたか? 一度さっきいた兵のように見回りに来たことがあってな。とてもいい風景だからリリィと来たかったのだ」
「すごく、すごくキレイ! あの屋根も、あの山々も、あ! 小川も流れている!」
「あの村にも行ってみるか? 街から一番近い村なんだが、領主は別でなかなか交流も少ない。今からの村に行くと帰りが夜中になってしまうかな……?」
「村にも行きたいけど、もう少しここで見ていたい!」
「そうだろう? そう思って、昼食を持ってきたんだ。リリィ、馬から下ろすのを手伝ってくれるか?」
「昼食を!? ここで食べるの!?」
「クリームシチューは帰り家に寄って食べよう! 今煮込んであるから夕食にはきっと美味しくなってるぞ!」
こんな素敵な場所で昼食を食べて、更に夕食はクリームシチューだなんて。僕は声を出して喜びたいのを抑えて、んーっと変な声をあげてしまう。
「はは、ああ。かわいいなぁ」
ダグラスは手綱を離して、両手で僕を抱きしめる。そして一足先に降りたら、僕を抱えて馬から下ろしてくれた。ダグラスがちょっと待っててくれと、馬の尻の方に付いた荷物を整理し始めたので、僕は馬の顔の方に近づいてみた。
馬は僕を見るなり、鼻先を胸に埋めてきた。
「君とても足が速いね。体も大きくてかっこいい。乗っけてくれてありがとう」
馬は僕の胸に鼻先を擦りつけたあと、僕の手に息を吹きかけた。
「くすぐったいよ」
「こら、ジンバル。リリィにおねだりするんじゃない」
「この子の名前はジンバルというのですか?」
「そうだ。リリィ、餌をあげてみるか?」
「はい!」
僕はダグラスに駆け寄り、いくつかの根菜と果物を受け取った。僕が顔に近づく前から、ジンバルは軽く嘶いて催促をしている。根菜の葉っぱを持ってジンバルの口に近づけると、嬉しそうに頬張った。立髪を揺らして、もっと欲しいもっと欲しいと僕の胸に懇願をする。果物を持っていない方の手で彼の鼻先を撫でればジンバルは一層強く顔を押し付けた。
「すっかり友達だな。ジンバルはよく訓練されていて、そんな風におねだりもしないんだ」
「友達……友達……? ジンバルは僕の友達になってくれる?」
果物を差し出したら、ジンバルはペロッと食べて、咀嚼しながら僕の胸に飛び込んできた。僕は両方の手でジンバルを抱きしめる。
「なんだ、ジンバルが羨ましいな。友達だったら男性にもそんな風にハグをしてくれるのか?」
「男性?」
「ジンバルは雄だ」
僕はジンバルの綺麗な瞳を見る。
「わ、ワタシには男性の友達がもう一人います。その子とはハグもします」
カシャーンと金属が落ちる音が響く。
「ダ、ダグラス!?」
いつの間にか僕の横にいたダグラスは、ジンバルの顔を追いやって、僕の両腕を掴んだ。
「その男に会うために、おめかしをしているのか!?」
僕はびっくりして、捲し立てる。
「ち、違います! その子はデールという森の木で作ったお人形です! デールは、わ、ワタシと友達以上じゃないと嫌だって、すぐ森に帰りたがるから、親友だけど、でも体だけの関係です!」
ダグラスは目を見開いて、しばらく動かなくなった。僕はいっぺんに色んなことを言い過ぎたと反省する。
「デールは、男の子のお人形だけど、ワタシのたった一人の友達です」
ダグラスは視線を左右に忙しなく動かしたら、僕の腕をそっと離して、さっき落とした道具を拾いはじめた。僕はどうしたらいいかわからず立ち尽くしていると、ダグラスが優しい声でおいで、と呼んでくれた。
「キレイ!」
「はは、気に入ってくれたか? 一度さっきいた兵のように見回りに来たことがあってな。とてもいい風景だからリリィと来たかったのだ」
「すごく、すごくキレイ! あの屋根も、あの山々も、あ! 小川も流れている!」
「あの村にも行ってみるか? 街から一番近い村なんだが、領主は別でなかなか交流も少ない。今からの村に行くと帰りが夜中になってしまうかな……?」
「村にも行きたいけど、もう少しここで見ていたい!」
「そうだろう? そう思って、昼食を持ってきたんだ。リリィ、馬から下ろすのを手伝ってくれるか?」
「昼食を!? ここで食べるの!?」
「クリームシチューは帰り家に寄って食べよう! 今煮込んであるから夕食にはきっと美味しくなってるぞ!」
こんな素敵な場所で昼食を食べて、更に夕食はクリームシチューだなんて。僕は声を出して喜びたいのを抑えて、んーっと変な声をあげてしまう。
「はは、ああ。かわいいなぁ」
ダグラスは手綱を離して、両手で僕を抱きしめる。そして一足先に降りたら、僕を抱えて馬から下ろしてくれた。ダグラスがちょっと待っててくれと、馬の尻の方に付いた荷物を整理し始めたので、僕は馬の顔の方に近づいてみた。
馬は僕を見るなり、鼻先を胸に埋めてきた。
「君とても足が速いね。体も大きくてかっこいい。乗っけてくれてありがとう」
馬は僕の胸に鼻先を擦りつけたあと、僕の手に息を吹きかけた。
「くすぐったいよ」
「こら、ジンバル。リリィにおねだりするんじゃない」
「この子の名前はジンバルというのですか?」
「そうだ。リリィ、餌をあげてみるか?」
「はい!」
僕はダグラスに駆け寄り、いくつかの根菜と果物を受け取った。僕が顔に近づく前から、ジンバルは軽く嘶いて催促をしている。根菜の葉っぱを持ってジンバルの口に近づけると、嬉しそうに頬張った。立髪を揺らして、もっと欲しいもっと欲しいと僕の胸に懇願をする。果物を持っていない方の手で彼の鼻先を撫でればジンバルは一層強く顔を押し付けた。
「すっかり友達だな。ジンバルはよく訓練されていて、そんな風におねだりもしないんだ」
「友達……友達……? ジンバルは僕の友達になってくれる?」
果物を差し出したら、ジンバルはペロッと食べて、咀嚼しながら僕の胸に飛び込んできた。僕は両方の手でジンバルを抱きしめる。
「なんだ、ジンバルが羨ましいな。友達だったら男性にもそんな風にハグをしてくれるのか?」
「男性?」
「ジンバルは雄だ」
僕はジンバルの綺麗な瞳を見る。
「わ、ワタシには男性の友達がもう一人います。その子とはハグもします」
カシャーンと金属が落ちる音が響く。
「ダ、ダグラス!?」
いつの間にか僕の横にいたダグラスは、ジンバルの顔を追いやって、僕の両腕を掴んだ。
「その男に会うために、おめかしをしているのか!?」
僕はびっくりして、捲し立てる。
「ち、違います! その子はデールという森の木で作ったお人形です! デールは、わ、ワタシと友達以上じゃないと嫌だって、すぐ森に帰りたがるから、親友だけど、でも体だけの関係です!」
ダグラスは目を見開いて、しばらく動かなくなった。僕はいっぺんに色んなことを言い過ぎたと反省する。
「デールは、男の子のお人形だけど、ワタシのたった一人の友達です」
ダグラスは視線を左右に忙しなく動かしたら、僕の腕をそっと離して、さっき落とした道具を拾いはじめた。僕はどうしたらいいかわからず立ち尽くしていると、ダグラスが優しい声でおいで、と呼んでくれた。
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