口なしの封緘

大田ネクロマンサー

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第7話 夜の友達 ※

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なんで僕はあんなことを口走ってしまったのだろう。そう考えると、また僕の心の底がグラグラと煮立って噴きこぼれそうになる。

「失敗、失敗」

せっかく夕食にありつけたのだ。足早に二階へあがるとデールは僕の帰りを待ち侘びてた。

「ただいまデール。今日はすごいことが起きたんだよ。あ、でもスープが冷めちゃうからちょっと待ってね」

そうはいってもこの神殿は街からは遠く、既にスープは冷たくなっていた。薪があれば暖炉に容器ごとくべて温められるだろうが、冬の間に細々と使い切ってしまい、追加で買う余裕もなかった。僕はデールを抱えて木箱の前に座らせる。彼が大きいのは僕が不器用だからに他ならないが、それでも手や足は魔糸で繋いでいるため可動式だ。

「デール、妬かないでね。僕、今日やっと会えたんだ。そう。デールによく似た人」

僕は容器の蓋を開けて、スプーンですくって一口。まだ少し温かさが残っていて、その温度でダグラスに抱えられて見た街並みを思い出す。そして次々にダグラスの優しさが僕の胸を駆け巡り、最後に自分の失敗を思い出してなにもかもが暗闇に沈んでいった。

「ダグラス=ミリア。彼がここに運ばれたときは死んでまもなくて、温かかったんだ。目を閉じていても精悍な顔立ちでね。体も大きくて引き締まって美しかったんだ。だから、本当はこんなことしちゃいけないんだけど……。魔糸を解いて、唇にキスをしてしまったんだ。そうしたらどうなったと思う?」

デールは他の男の話をすると機嫌が悪くなる。

「目がパッチリ開いたんだよ。彼は死んでいたけど、僕と目があったんだ。僕はびっくりしてお父さんを呼びに行ったんだけど、打たれて二階に閉じ込められちゃったから、そのあとどうなったのかはわからないんだ。でもね。きっと彼は生き返ったんだ」

だから、僕はまた会えるって、ずっとずっと信じていた。デールは聞きたくないのか乾いた音を立てて少し傾いた。

「ねぇ、デール。彼がいなかったらデールもこの世に生まれなかったんだよ? それに言ったはずだよ、僕たちは体だけの関係だって」

スープは残っていて、まだまだ食べたかったけど、明日の分にと蓋を閉めた。

「友達の延長だって、そう約束したでしょ? そんなに怒らないで。今日もしよ?」

僕はデールをベッドに横たわらせる。そして僕は階下に降り、外の井戸で沐浴をする。隅々まで洗うには水は冷たいけど、冬の厳しい季節に比べればマシな気温だった。それに今日は体が熱くて、寒さも気にならない。

沐浴が終わると一階から香油を拝借する。死体の匂いを和らげる効果がある、国からの支給品だ。

二階に上がるとデールは僕を待ち侘びている。デールの寝そべるベッドに駆け寄り、股間の突起に香油を垂らした。

「デールは痛くないかもしれないけどさ。でも、こうしたほうがデールだって気持ちいいでしょ?」

妬いたり僻んだりするけど、デールは気持ちがいいことに弱く、流されやすい。

「そういえば今日、新しいお店でね。僕、女の子に間違われたんだよ? デールももしかして女の子としたい? でも口布するとこうやってキスができないね」

デールの頭部に顔を寄せる。ひっそりと唇をつけると、ひんやりとした拒絶を感じる。だから僕は自分の尻に手を這わせ、香油でその窄まりをほぐしていった。

デールにもともと男性器を模した突起はついていなかった。後から僕が付け足したのだ。

そのきっかけは街に出るようになってからまもない頃。あの頃はまだ買い物の仕方がわからず、暴漢に襲われそうになって路地裏に逃げ込んだことがあった。息を潜めてその場をやり過ごしている時に、僕は男女の愛し方を知った。彼らは人目を憚らず愛し合っていたのだ。

男は女のありとあらゆる場所を弄り、そして熱い猛りを女に差し込む。そして女は口布をめくって、男にキスをせがんだ。その一部始終から僕は目が離せなかった。


手を掴まれた時のあの熱いダグラスの手。体温が染み込んだストール。彼の熱はどうやって人の体に触れるのだろうか。

僕はゆっくりと腰を落として、冷たいデールの突起を飲み込んでいく。

「んっ……ん、ふっ……」

裏路地で戯れていた男女のように、あの熱い手で僕の肌という肌を触ってくれるだろうか。そして彼の肉棒を何度も突き入れてくれるだろうか。僕の口布をめくり、何度も何度も唇を奪ってくれるだろうか。そして、僕をーー

「デール……! あっ、ああっ、ごめんっ!」

デールとする時、何度も描いた妄想。今日感じた温度が現実感をもたらし、思った以上に僕の限界を引き下げる。

ギシギシとデールから悲鳴のような音が部屋中に響き渡る。

──僕を好きになってくれるだろうか?

胸から下腹部にかけてギュッと締め付けられる感覚に飲み込まれ、そのままデールに性液をかけてしまった。

僕が震えながら全体重をかけてデールに座った時、ギシッと音が響く。その乾いた音が急に僕を冷静にさせた。

路地裏の男の顔がダグラスのように思えたのだ。そして今日の失敗の苦みが口いっぱいに広がる。

彼は僕の名前を知っていた。でも部屋にはあがってくれなかった。それは僕が封印師だからだろうか。それとも僕が男だからだろうか。

僕はたった一度のキスを忘れず生きてきた。これからもそうやって生きていくと思っていたのに。でも彼の体温が僕をまた狂わせる。

──たった一度でいい。

その時、新しいお店の主人の声が頭に響いた。

「お嬢さん!」

明日は街で蚤の市がある。僕はデールの突起を引き抜いて立ち上がり、さっき脱いだ服のポケットから銀貨を取り出す。

──これで婦人服が買えるだろうか?

部屋を見渡すが、売れそうなものはなにも残っていなかった。僕は壁に貼られたメモを見る。蚤の市は店舗と違い個人で出店するので、売ってくれない人の見分けがつかない。

「デールも、女の子抱いてみたいでしょ?」

デールに言うようで、自分自身に言い聞かせる。そして僕は決心をした。

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