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本編
第25話 眠るまでそばにいて
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激しい動悸とともに目覚める。またあの感覚だ。僕が誰で一体いつなのかわからなくなる。ただただ大きな不安に押し潰されたその時、胸にそっと手を置かれた。
「カイ……最近はよく眠れていませんか?」
「ああ、あ、ら、らむだぁ」
僕はまたセックスが終わってすぐに気を失ってしまった。自分の体が綺麗に拭かれていることよりも、ラムダが服をきっちり着ていることに、いいようのない不安が胸に広がる。
「ど、どど、どこに」
「カイ、1度隣国に戻ります。所有権はまだあちらの国にあるのです」
その言葉にあの日を思い出さないわけがなかった。僕はラムダの腕を掴み、服を引っ張り、流れる涙を拭く手立てを失う。
「あ、や、あやだ、やだ、いいいかない、で」
一緒に暮らすと言ったのに、僕をラムダの女の子にしてくれると言ったのに、そうやってラムダを責め、焦燥感に駆られ、手が先に動いてしまった。
黙ったままのラムダに抱きつく。どんなに惨めでも構わなかった。なりふり構ってなどいられない。
「カイ、ちょっといいですか?」
ラムダは僕を冷たく突き放し、ベッドに体を押し戻す。そして、髪をかきあげ首のジョイント部分からリングを取り出した。久しぶりに見るそのリングは形状も大きさも異なっていた。
「カイが幼い時にはよく私に言ってくれたものですが、大きくなったらなぜ言ってくれなくなったのだろうと考えていました。でも私が言うべきなんだと気がつきました」
ラムダは僕の手を取り、リングを薬指に滑り込ませた。
「カイ、私のいい子。私だけの女の子になってくれませんか?」
何度も言っていたそれを復唱され、僕はその言葉をうまく消化できなかった。何度もラムダの女の子になると言っているのになぜそれを問うのかがわからなかった。
「私のささやかな稼ぎではそれが精一杯ですが、ちゃんと給料3ヶ月分ですよ?」
その言葉で、僕が幼い時に何度もラムダと結婚すると言っていたことを思い出す。ラムダがドローンであると認識ができていなかった頃、給料3ヶ月分の婚約指輪をプレゼントする、何度もそう言ってラムダに抱っこしてもらっていた。それを言うと、ラムダはとても嬉しそうに笑って、必ず僕を抱っこしてくれたのだ。僕は抱っこ目当てでそれを言っていたのに。
僕はしばらく嗚咽で震え、どうにもならなくなってしまった。ひとしきり泣いた後暴れる嗚咽を抑えてなんとか声を振り絞る。
「ふっ……んく……ららむらの……ラムダの、おおお嫁さんに、なるっ」
「まあ! 女の子だけではなく! 私のお嫁さんになってくれるんですね!」
「ううっ……なるぅ……!」
僕はラムダに抱きつき泣きじゃくった。
「じゃあ、少しの間家を空けるので、その間に花嫁修行をしてもらわないと」
「ふっ……うぐっ……するぅ……」
「じゃあ、新しいエッチな本を買って、私が喜びそうなセリフを用意してください」
「ううっ……おこ……おこる……」
「怒りませんよ、でも女の子以外をこすったら許しませんよ?」
「ふ……しない……おんなのこ……こする……」
「私を想像して女の子をこすってくれるんですか!? それは……隠しカメラを用意しなければ……」
「らむらの前でも……するぅ……するからぁ……」
「ああ、ああ、カイ。そんな理性が吹き飛ぶことを言わないでください」
「お、おんなのこで……らむらの……おちんちん……こするぅ……」
引き止めるために何でも言う僕の口をラムダは塞いだ。ラムダが僕を抱いて、頭を撫でてくれる。そして柔らかく僕をベッドに沈め毛布をかけた。
「い、い、いかない、で」
「1週間後に戻ってきます。そうしたら、今日食べられなかった、ケーキとターキーとラザニアを一緒に食べましょう」
「ま、ま、また」
「いいえ、次帰ってきたらもうどこにも行きません。日中は大使館で働けるよう手配しました」
「は、はたらく?」
「ええ、そうですよ。これで性液も偽装せずに購入できますし、私はカイに着てもらいたい服や、はいてもらいたいパンティを自由に購入できます」
ラムダの剥き出しの欲望に少し黙った。
「いい子は楽しみに待っていられますね?」
「は、はぁい」
「いいお返事です! ではこれで」
颯爽と立ち去ろうとするラムダの手を掴んだ。名残惜しさからというわけではない。あの日のようにこれで最後になるかもしれない恐怖がそうさせていた。
「あ、あ、え」
ラムダが不思議そうに僕の顔を覗き込む。手前勝手な願いを言おうか悩んでいたら、ラムダの顔がみるみる曇る。だから意を決して言ってみた。
「ね、ねむる、までそ、そばに」
いて。それが言えなかったが、うまく言えた方だった。しかしラムダは僕をじっと見つめて動かなくなってしまった。
「ご、ごめん、なさい」
緊張感のある沈黙に耐えきれずに、自分のわがままを謝罪した。俯いていたら、ラムダが動く気配がする。
「3年前のあの日、なぜカイが30秒いてほしいと言ったのか、理解ができずにいました」
僕の視界にラムダの手が伸びてきた。
「眠るまでそばにいる、そんな簡単な願いも理解ができず、私は……私はどんなにカイに悲しい思いをさせたか……」
ラムダが僕の頭を何回か撫でたら、布団の上から胸を撫でた。
「これから、カイが眠る時、必ず私がそばにいます。私の体がカイのそばにいなくても、私は必ずカイのそばにいます」
水滴が何粒か落ちてきた後、ラムダの唇が額に優しくキスをする。
「だから安心して、カイは眠ってくださいね」
「ら、らむらぁ……」
「私も愛していますよ。ちゃんと伝わっていますから。今日はもう寝ましょう」
ラムダが僕の胸をポンポンと叩いてくれる。その心地のいいリズムで、幼い日の安寧が僕を眠りに引きずり込む。
これから僕が眠りに落ちる時には必ずラムダがいてくれる。それが人生の最後の瞬間までだったらどんなに幸せだろうか。僕はそれ以上の幸せをラムダに与えられるだろうか。
せめて今この瞬間の思いを伝えたいそう思うのにうまく口が動かない。なにかを言わなければ、そうもがきながら、僕はまた愛してると言えずに幸せな眠りに落ちた。
<END>
「カイ……最近はよく眠れていませんか?」
「ああ、あ、ら、らむだぁ」
僕はまたセックスが終わってすぐに気を失ってしまった。自分の体が綺麗に拭かれていることよりも、ラムダが服をきっちり着ていることに、いいようのない不安が胸に広がる。
「ど、どど、どこに」
「カイ、1度隣国に戻ります。所有権はまだあちらの国にあるのです」
その言葉にあの日を思い出さないわけがなかった。僕はラムダの腕を掴み、服を引っ張り、流れる涙を拭く手立てを失う。
「あ、や、あやだ、やだ、いいいかない、で」
一緒に暮らすと言ったのに、僕をラムダの女の子にしてくれると言ったのに、そうやってラムダを責め、焦燥感に駆られ、手が先に動いてしまった。
黙ったままのラムダに抱きつく。どんなに惨めでも構わなかった。なりふり構ってなどいられない。
「カイ、ちょっといいですか?」
ラムダは僕を冷たく突き放し、ベッドに体を押し戻す。そして、髪をかきあげ首のジョイント部分からリングを取り出した。久しぶりに見るそのリングは形状も大きさも異なっていた。
「カイが幼い時にはよく私に言ってくれたものですが、大きくなったらなぜ言ってくれなくなったのだろうと考えていました。でも私が言うべきなんだと気がつきました」
ラムダは僕の手を取り、リングを薬指に滑り込ませた。
「カイ、私のいい子。私だけの女の子になってくれませんか?」
何度も言っていたそれを復唱され、僕はその言葉をうまく消化できなかった。何度もラムダの女の子になると言っているのになぜそれを問うのかがわからなかった。
「私のささやかな稼ぎではそれが精一杯ですが、ちゃんと給料3ヶ月分ですよ?」
その言葉で、僕が幼い時に何度もラムダと結婚すると言っていたことを思い出す。ラムダがドローンであると認識ができていなかった頃、給料3ヶ月分の婚約指輪をプレゼントする、何度もそう言ってラムダに抱っこしてもらっていた。それを言うと、ラムダはとても嬉しそうに笑って、必ず僕を抱っこしてくれたのだ。僕は抱っこ目当てでそれを言っていたのに。
僕はしばらく嗚咽で震え、どうにもならなくなってしまった。ひとしきり泣いた後暴れる嗚咽を抑えてなんとか声を振り絞る。
「ふっ……んく……ららむらの……ラムダの、おおお嫁さんに、なるっ」
「まあ! 女の子だけではなく! 私のお嫁さんになってくれるんですね!」
「ううっ……なるぅ……!」
僕はラムダに抱きつき泣きじゃくった。
「じゃあ、少しの間家を空けるので、その間に花嫁修行をしてもらわないと」
「ふっ……うぐっ……するぅ……」
「じゃあ、新しいエッチな本を買って、私が喜びそうなセリフを用意してください」
「ううっ……おこ……おこる……」
「怒りませんよ、でも女の子以外をこすったら許しませんよ?」
「ふ……しない……おんなのこ……こする……」
「私を想像して女の子をこすってくれるんですか!? それは……隠しカメラを用意しなければ……」
「らむらの前でも……するぅ……するからぁ……」
「ああ、ああ、カイ。そんな理性が吹き飛ぶことを言わないでください」
「お、おんなのこで……らむらの……おちんちん……こするぅ……」
引き止めるために何でも言う僕の口をラムダは塞いだ。ラムダが僕を抱いて、頭を撫でてくれる。そして柔らかく僕をベッドに沈め毛布をかけた。
「い、い、いかない、で」
「1週間後に戻ってきます。そうしたら、今日食べられなかった、ケーキとターキーとラザニアを一緒に食べましょう」
「ま、ま、また」
「いいえ、次帰ってきたらもうどこにも行きません。日中は大使館で働けるよう手配しました」
「は、はたらく?」
「ええ、そうですよ。これで性液も偽装せずに購入できますし、私はカイに着てもらいたい服や、はいてもらいたいパンティを自由に購入できます」
ラムダの剥き出しの欲望に少し黙った。
「いい子は楽しみに待っていられますね?」
「は、はぁい」
「いいお返事です! ではこれで」
颯爽と立ち去ろうとするラムダの手を掴んだ。名残惜しさからというわけではない。あの日のようにこれで最後になるかもしれない恐怖がそうさせていた。
「あ、あ、え」
ラムダが不思議そうに僕の顔を覗き込む。手前勝手な願いを言おうか悩んでいたら、ラムダの顔がみるみる曇る。だから意を決して言ってみた。
「ね、ねむる、までそ、そばに」
いて。それが言えなかったが、うまく言えた方だった。しかしラムダは僕をじっと見つめて動かなくなってしまった。
「ご、ごめん、なさい」
緊張感のある沈黙に耐えきれずに、自分のわがままを謝罪した。俯いていたら、ラムダが動く気配がする。
「3年前のあの日、なぜカイが30秒いてほしいと言ったのか、理解ができずにいました」
僕の視界にラムダの手が伸びてきた。
「眠るまでそばにいる、そんな簡単な願いも理解ができず、私は……私はどんなにカイに悲しい思いをさせたか……」
ラムダが僕の頭を何回か撫でたら、布団の上から胸を撫でた。
「これから、カイが眠る時、必ず私がそばにいます。私の体がカイのそばにいなくても、私は必ずカイのそばにいます」
水滴が何粒か落ちてきた後、ラムダの唇が額に優しくキスをする。
「だから安心して、カイは眠ってくださいね」
「ら、らむらぁ……」
「私も愛していますよ。ちゃんと伝わっていますから。今日はもう寝ましょう」
ラムダが僕の胸をポンポンと叩いてくれる。その心地のいいリズムで、幼い日の安寧が僕を眠りに引きずり込む。
これから僕が眠りに落ちる時には必ずラムダがいてくれる。それが人生の最後の瞬間までだったらどんなに幸せだろうか。僕はそれ以上の幸せをラムダに与えられるだろうか。
せめて今この瞬間の思いを伝えたいそう思うのにうまく口が動かない。なにかを言わなければ、そうもがきながら、僕はまた愛してると言えずに幸せな眠りに落ちた。
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