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本編
第14話 過電圧急速チャージ
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ラムダの手配は完璧だった。機内食もワインも上質で最高の空の旅。空港からも車が手配されていて自動運転でなんのストレスもなくホテルまでエスコートされた。チェックインを済ませて早速部屋に入ってみる。
「ラムダ、本当にありがとう。ホテルも最高! 急速チャージもついてるよ! ラムダ座ってみて!」
「カイに喜んでもらえて私も嬉しい。私のチャージは後でも構いませんよ」
「でも最新式だよ!」
僕ははしゃいでラムダの背中を押す。トランクケースからラムダ専用のケーブルを取り出して、腰のパネルを操作する。そしてハッチを開けてラムダとチャージャーを繋いだ。
「ま!」
変な声を出してラムダは固まる。
「カイ、これは凄いですね! みるみるチャージされます!」
「もう少ししたらインセンティブが入るから、ラムダのチャージャー買い替えを検討しようよ!」
「ふふっ、カイのそんな嬉しそうな顔が見られるなら、おねだりしてみようかしら」
「おねだりしてみて!」
「カイ、買ってくれたら……」
会話の途中でラムダが無表情のままビジー状態になる。ステレージが逼迫しているからといって関係は無いはずなのに最近は不可解な処理落ちが多い。
「ラムダ、ラムダ、大丈夫? チャージャーが強すぎるのかな……」
ケーブルのプラグを引っこ抜いてラムダの顔を覗き込む。
「ラムダ?」
「ラ……ムダ……?」
「ねぇ、大丈夫? ラムダ、コンソール画面出して」
「い、いえ。申し訳ございませ、ん。カイは私のいい子」
「ラムダ……」
強制メンテナンスモードのスイッチを押そうとしたら、ラムダに腕を握られる。
「私を……信じて……」
「どうしたんだよラムダ!」
ラムダが急に腕を引き寄せて僕を抱きしめる。なんだか怖くなって僕もラムダに手を回し抱き合う。
「カイのおまじない、カイが大好き、私もいい子」
「どうしたの? 怖いの?」
「チャージャーが強すぎて驚きました。心配かけてごめんなさい」
「僕が無理に繋いだから……ごめん、ラムダ」
「お仕置きは今日の夜たっぷりいたします」
ラムダの表情を見ると、いつもの笑顔だった。僕はホッとしてもう一度首に抱きついた。
「カイ、夜のお楽しみまで外に出かけませんか?」
「でも……ちょっとだけコンソール見せて……?」
「カイ、夜の上映会の時にメンテナンスしてください。日が暮れてしまいますよ?」
僕は俯いて考える。心配ではあるが今回の旅行はラムダの思い出を探しに来たのだ。ラムダも早く現地に行きたいのかもしれない、そう思い渋々承諾した。
「うん……じゃあ、行こうか……?」
ラムダがビジー状態になるのは別に今に始まったことではない。ただ今日は錯乱したように言葉を発していた。
「ラムダ、歩くと疲れちゃうからさ、昨日の場所まで車でもいい?」
僕はラムダが心配で、現地までの道のりを車に変更することを提案する。何かあった時に車の電源があればリブートできる。さっきのコードも持っていけば問題ないだろう。
「はい、2人でドライブ、本当はもう少ししたかったんです。2人きりだとキスができます」
ラムダは柔らかく笑い、僕の腕を引いてホテルのドアに向かう。僕はラムダのケーブルを握りながら後に続いた。
ホテルで用意してくれた車に昨日の座標を打ち込む。打ち間違えがないか確認してエンターを押したら警告が出た。
「座標が存在しませんか?」
「国境付近だから軍の管轄みたいだな……とりあえず近くの軍の詰所まで行ってみようか?」
「はい!」
座標から最短距離の軍の詰所を検索する。候補を選択して確定させたら、車が自動発進した。
「まだ紅葉っていう季節でもないから、秋の花が見られるといいね。隣の国の花が咲き乱れる風景綺麗だったもんなぁ……」
「そうですね……調べたところによると、グラジオラスが群生している地域のようです。コスモスなどはよく聞きますが珍しいですね」
「それって花冠作れる?」
「難しいかもしれません。でも花が連なっているので、編まなくても花冠のようにはなりますよ。見つけたらカイに作ってあげますね」
「違うよ、ラムダにプレゼントしたいんだ」
「まあ! 今日は私に色んなプレゼントを提案してくれますね? この旅行で十二分に幸せですよ! キスをしてくれますか?」
唐突なお願いに僕はポカンとする。ラムダが旅行を楽しんでくれているのだと思ったら嬉しくて笑ってしまう。
「なんで笑うのですか?」
僕はラムダに覆いかぶさりゆっくりキスをする。
「ああ、ラムダが好きだなぁって思って、笑っちゃった」
「カイは……素敵な男性ですね……」
男性、初めてそう形容されて少し戸惑う。このままラムダの膝に乗って子どもじみたお願いができない雰囲気になって、僕は自分の席に戻った。ラムダは明らかにおかしかった。それは旅行という雰囲気がそうさせるには違和感が大きすぎる。車に乗り込む時に後部座席に置いたラムダ専用のケーブルをバックミラーで確認する。長い自宅謹慎でナーバスになっているだけだ、と自分自身に言い聞かせ目的地までの道中、ラムダの表情だけを見続けた。
「ラムダ、本当にありがとう。ホテルも最高! 急速チャージもついてるよ! ラムダ座ってみて!」
「カイに喜んでもらえて私も嬉しい。私のチャージは後でも構いませんよ」
「でも最新式だよ!」
僕ははしゃいでラムダの背中を押す。トランクケースからラムダ専用のケーブルを取り出して、腰のパネルを操作する。そしてハッチを開けてラムダとチャージャーを繋いだ。
「ま!」
変な声を出してラムダは固まる。
「カイ、これは凄いですね! みるみるチャージされます!」
「もう少ししたらインセンティブが入るから、ラムダのチャージャー買い替えを検討しようよ!」
「ふふっ、カイのそんな嬉しそうな顔が見られるなら、おねだりしてみようかしら」
「おねだりしてみて!」
「カイ、買ってくれたら……」
会話の途中でラムダが無表情のままビジー状態になる。ステレージが逼迫しているからといって関係は無いはずなのに最近は不可解な処理落ちが多い。
「ラムダ、ラムダ、大丈夫? チャージャーが強すぎるのかな……」
ケーブルのプラグを引っこ抜いてラムダの顔を覗き込む。
「ラムダ?」
「ラ……ムダ……?」
「ねぇ、大丈夫? ラムダ、コンソール画面出して」
「い、いえ。申し訳ございませ、ん。カイは私のいい子」
「ラムダ……」
強制メンテナンスモードのスイッチを押そうとしたら、ラムダに腕を握られる。
「私を……信じて……」
「どうしたんだよラムダ!」
ラムダが急に腕を引き寄せて僕を抱きしめる。なんだか怖くなって僕もラムダに手を回し抱き合う。
「カイのおまじない、カイが大好き、私もいい子」
「どうしたの? 怖いの?」
「チャージャーが強すぎて驚きました。心配かけてごめんなさい」
「僕が無理に繋いだから……ごめん、ラムダ」
「お仕置きは今日の夜たっぷりいたします」
ラムダの表情を見ると、いつもの笑顔だった。僕はホッとしてもう一度首に抱きついた。
「カイ、夜のお楽しみまで外に出かけませんか?」
「でも……ちょっとだけコンソール見せて……?」
「カイ、夜の上映会の時にメンテナンスしてください。日が暮れてしまいますよ?」
僕は俯いて考える。心配ではあるが今回の旅行はラムダの思い出を探しに来たのだ。ラムダも早く現地に行きたいのかもしれない、そう思い渋々承諾した。
「うん……じゃあ、行こうか……?」
ラムダがビジー状態になるのは別に今に始まったことではない。ただ今日は錯乱したように言葉を発していた。
「ラムダ、歩くと疲れちゃうからさ、昨日の場所まで車でもいい?」
僕はラムダが心配で、現地までの道のりを車に変更することを提案する。何かあった時に車の電源があればリブートできる。さっきのコードも持っていけば問題ないだろう。
「はい、2人でドライブ、本当はもう少ししたかったんです。2人きりだとキスができます」
ラムダは柔らかく笑い、僕の腕を引いてホテルのドアに向かう。僕はラムダのケーブルを握りながら後に続いた。
ホテルで用意してくれた車に昨日の座標を打ち込む。打ち間違えがないか確認してエンターを押したら警告が出た。
「座標が存在しませんか?」
「国境付近だから軍の管轄みたいだな……とりあえず近くの軍の詰所まで行ってみようか?」
「はい!」
座標から最短距離の軍の詰所を検索する。候補を選択して確定させたら、車が自動発進した。
「まだ紅葉っていう季節でもないから、秋の花が見られるといいね。隣の国の花が咲き乱れる風景綺麗だったもんなぁ……」
「そうですね……調べたところによると、グラジオラスが群生している地域のようです。コスモスなどはよく聞きますが珍しいですね」
「それって花冠作れる?」
「難しいかもしれません。でも花が連なっているので、編まなくても花冠のようにはなりますよ。見つけたらカイに作ってあげますね」
「違うよ、ラムダにプレゼントしたいんだ」
「まあ! 今日は私に色んなプレゼントを提案してくれますね? この旅行で十二分に幸せですよ! キスをしてくれますか?」
唐突なお願いに僕はポカンとする。ラムダが旅行を楽しんでくれているのだと思ったら嬉しくて笑ってしまう。
「なんで笑うのですか?」
僕はラムダに覆いかぶさりゆっくりキスをする。
「ああ、ラムダが好きだなぁって思って、笑っちゃった」
「カイは……素敵な男性ですね……」
男性、初めてそう形容されて少し戸惑う。このままラムダの膝に乗って子どもじみたお願いができない雰囲気になって、僕は自分の席に戻った。ラムダは明らかにおかしかった。それは旅行という雰囲気がそうさせるには違和感が大きすぎる。車に乗り込む時に後部座席に置いたラムダ専用のケーブルをバックミラーで確認する。長い自宅謹慎でナーバスになっているだけだ、と自分自身に言い聞かせ目的地までの道中、ラムダの表情だけを見続けた。
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