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本編
第10話 有給消化の思惑
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<カイ=アルオス少尉、急な連絡で申し訳ないが、明日より有給休暇に入ってくれ。今期国の定める休暇日数を下回っている。丁度今月末に抹消される有給をこの機会に消化してほしい。よって自宅謹慎は今日をもって終了する。何か質問があれば随時連絡をくれたまえ。……元気でやっているか? 質問がなくても連絡をくれないか……>
「ラムダ、オリガー少佐はまだオンラインか?」
「はい」
「メインモニタにつないでくれ」
襟元のボタンをとめながら、部屋の中央にあるメインモニタに向き合う。ラムダはカメラに映らないところまで引き下がった。呼び出し音が途切れモニタにオリガー少佐が映し出される。
「カイ、元気そうだな。心配していたぞ」
「オリガー少佐、ご連絡いただきありがとうございました。しかし有給休暇とは、これは」
「それになんの意図も策略もない。日程的にそうなってしまっただけだ。それは私の名誉にかけて保証する。お前がそうネガティブに勘ぐると思って連絡が欲しかったのだ」
オリガー少佐は僕の言葉を遮り慌てて言った。降格、もしくは除隊のための有給消化と勘ぐり、つい抗議めいた口調になったことを恥じ入る。
「申し訳ございません。家にいるとついナーバスになってしまって……お心遣いありがとうございます」
「みんなお前が帰ってくるのを心待ちにしている。厳しい局面は過ぎ、休暇が終われば前と同じに戻っているさ」
オリガー少佐もまた僕の人生に大きな影響を与えた軍人だ。その大らかな性格からは想像ができないほどの戦略家であり思想家。放任主義が過ぎることで、彼の配下から処分対象が排出されるのは常であり、例に漏れず僕もその1人だった。しかし先の国防戦線での不当な処分については、僕に代わって最後まで抗議してくれた恩人でもあった。
「あまり気を揉まずに休暇を楽しみなさい。自宅謹慎が終了したのだから、旅行でも行ってその臆病風を吹き飛ばしてこい」
「旅行に出ても構わないのですか?」
「構わんさ。本日0時をもって、自宅謹慎及び、自宅回線の検閲制限が解除される。この時期なら今からでも宿の予約が取れるさ」
「はい……」
少し沈黙が続いて、何かを話さなければならないと焦るが、今本当に聞きたいことは言い出せなかった。
「お前は、よくできた士官だ。だが少々自責が過ぎて抱え込むきらいがある。何も考えずに休暇を楽しんでくれ」
「はい、オリガー少佐」
「じゃあ失礼するよ」
メインモニタの信号が途切れて静寂が訪れる。ラムダは下を向き僕が軍人の仮面を外すのを待っていた。
「ラムダ、あの場所に行こう」
ラムダが顔を上げて目を見開く。
「せっかくの休暇に、私のことなど……」
「ラムダを愛している。だからラムダの願いを叶えたい。明日出発しよう。1泊でいいから宿を予約してくれるか?」
さっきまでオリガー少佐と会話していたからか、口調がおかしくなってしまった。
「かしこまりました」
「たまには奮発していい宿をとろうよ、ラムダと2人で旅行なんて僕が大学生の時以来じゃないか?」
「はい、最後の旅行は東の旧世代保護区。寺院に咲き乱れる花々が美しかった……」
僕はラムダの頬に手を当て、少し長めの髪を後ろにすいた。
「僕はその美しい風景を見て驚くラムダの顔が見たい」
ラムダは僕を抱き寄せて頭を撫でる。
「きっと思い出せるから。怖がらないで」
「カイ……私は世界一幸せなドローンです」
「今日は僕を幸せにしてくれるんでしょ?」
「そうでした! 今日は何度も天国まで連れて行ってあげます。カイ、もう一度お風呂に入りますか? その間に宿の予約をします。ああ、移動手段はどうしましょうか? 飛行機の予約状況を確認してから陸路を……」
「ラムダ、ラムダに任せる」
「それでは、カイはお風呂で私は予約です」
僕がラムダを見つめると、ラムダは思い出したようにキスをする。
「なんか……久しぶりだね……」
「はい、20日ぶりです。緊張していますか?」
「ううん、嬉しい。今日買いに行ってくれてありがとう。本当は僕も……」
「ああ、カイ……私のいい子。もうそれ以上は予約作業に影響します。お風呂まで運んであげますから、私を制御不能にするようなことを言わないでください」
「ラムダ、オリガー少佐はまだオンラインか?」
「はい」
「メインモニタにつないでくれ」
襟元のボタンをとめながら、部屋の中央にあるメインモニタに向き合う。ラムダはカメラに映らないところまで引き下がった。呼び出し音が途切れモニタにオリガー少佐が映し出される。
「カイ、元気そうだな。心配していたぞ」
「オリガー少佐、ご連絡いただきありがとうございました。しかし有給休暇とは、これは」
「それになんの意図も策略もない。日程的にそうなってしまっただけだ。それは私の名誉にかけて保証する。お前がそうネガティブに勘ぐると思って連絡が欲しかったのだ」
オリガー少佐は僕の言葉を遮り慌てて言った。降格、もしくは除隊のための有給消化と勘ぐり、つい抗議めいた口調になったことを恥じ入る。
「申し訳ございません。家にいるとついナーバスになってしまって……お心遣いありがとうございます」
「みんなお前が帰ってくるのを心待ちにしている。厳しい局面は過ぎ、休暇が終われば前と同じに戻っているさ」
オリガー少佐もまた僕の人生に大きな影響を与えた軍人だ。その大らかな性格からは想像ができないほどの戦略家であり思想家。放任主義が過ぎることで、彼の配下から処分対象が排出されるのは常であり、例に漏れず僕もその1人だった。しかし先の国防戦線での不当な処分については、僕に代わって最後まで抗議してくれた恩人でもあった。
「あまり気を揉まずに休暇を楽しみなさい。自宅謹慎が終了したのだから、旅行でも行ってその臆病風を吹き飛ばしてこい」
「旅行に出ても構わないのですか?」
「構わんさ。本日0時をもって、自宅謹慎及び、自宅回線の検閲制限が解除される。この時期なら今からでも宿の予約が取れるさ」
「はい……」
少し沈黙が続いて、何かを話さなければならないと焦るが、今本当に聞きたいことは言い出せなかった。
「お前は、よくできた士官だ。だが少々自責が過ぎて抱え込むきらいがある。何も考えずに休暇を楽しんでくれ」
「はい、オリガー少佐」
「じゃあ失礼するよ」
メインモニタの信号が途切れて静寂が訪れる。ラムダは下を向き僕が軍人の仮面を外すのを待っていた。
「ラムダ、あの場所に行こう」
ラムダが顔を上げて目を見開く。
「せっかくの休暇に、私のことなど……」
「ラムダを愛している。だからラムダの願いを叶えたい。明日出発しよう。1泊でいいから宿を予約してくれるか?」
さっきまでオリガー少佐と会話していたからか、口調がおかしくなってしまった。
「かしこまりました」
「たまには奮発していい宿をとろうよ、ラムダと2人で旅行なんて僕が大学生の時以来じゃないか?」
「はい、最後の旅行は東の旧世代保護区。寺院に咲き乱れる花々が美しかった……」
僕はラムダの頬に手を当て、少し長めの髪を後ろにすいた。
「僕はその美しい風景を見て驚くラムダの顔が見たい」
ラムダは僕を抱き寄せて頭を撫でる。
「きっと思い出せるから。怖がらないで」
「カイ……私は世界一幸せなドローンです」
「今日は僕を幸せにしてくれるんでしょ?」
「そうでした! 今日は何度も天国まで連れて行ってあげます。カイ、もう一度お風呂に入りますか? その間に宿の予約をします。ああ、移動手段はどうしましょうか? 飛行機の予約状況を確認してから陸路を……」
「ラムダ、ラムダに任せる」
「それでは、カイはお風呂で私は予約です」
僕がラムダを見つめると、ラムダは思い出したようにキスをする。
「なんか……久しぶりだね……」
「はい、20日ぶりです。緊張していますか?」
「ううん、嬉しい。今日買いに行ってくれてありがとう。本当は僕も……」
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