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本編

第7話 思い出上映会 ※

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<あっあっあっラムダぁ!もう……ああぁっ! もう……だめぇ! やめないで……やめないでよぉ!>

「ラムダ、ちょっと消してもらっていいかな?」

「そう言うと思いました。絶対に消しません」

<私の好きな言葉、今日は言ってくれないんですか?>

<あぁっ!こすらないでぇ……! もうイっちゃう! ラムダっ好きっ!すきぃっ!>

「ラムダ……ごめん消去ではなく、停止してもらいたい」

<どうして欲しいか命令してください>

<あっラムダの……おちんちんで……んんっ!奥を……あっあっ! 奥にっ! ちょうだい!奥に性液注いでぇ!>

「ラムダ!」

 急にラムダが僕を抱き寄せてキスで口を塞ぐ。

<ああ、カイはいい子……性液をカイの奥に注ぎますよ>

<ラムダぁ!あっあっいっぱい……ちょうだああっ! ぃああああぁ!>

 僕の絶叫が部屋に響きわたり、ラムダは夢中で僕の口の中に舌を入れている。なんだこれは。

「思い出上映会、とても良いですね。私に性液を補充したら、また上映会しましょう。今のはエッチな本のセリフを言ってくれたカイの思い出で、私のベスト5ではありません」

 そうだね、僕のエロ本をめざとく見つけてお仕置きと称して何度も女の子のセリフを言わされたね。ベスト5も気になるところだが、僕の心臓がもたない。体を硬直させる僕にラムダが不審そうに顔を覗かせた。消去するつもりではないということをわかってもらうために話題を変えた。

「じゃあセックスの思い出は後で見るとして、他のラムダの思い出見てみたいな」

 ここからが長かった。最近の出来事から順に日常系の映像を垂れ流し、ラムダは流暢に僕の武勇伝を語る。その愛着もさることながら、ストレージ逼迫も納得の大ボリュームだった。

「カイは昔から歴史の本が好きで、軍事学校に入ってもよく図書館で教官に見つかり怒られていました。ほら、これがカイがはじめて教官に怒られて帰ってきた時の顔ですよ。かわいそうに頬を打たれて、赤くなっていました。私もこの時ばかりは学校に抗議を申し立てようか悩んだものです。私のカイがこんなに頬っぺたを腫らして。でも頬っぺたを舐めたらカイが私とセックスをおねだりしたのがかわいくてかわいくて。この日はカイが潮を吹くまで寝かせませんでしたね。ああ、カイが初めて潮を吹いた日。おしっこを漏らしたと思って私に謝った時の顔を見ますか?」

 壊れたラジオのように延々ラムダが喋っている間、僕はコンソール画面を眺め続けていた。ラムダがセックスの話に及んだ時、僕は顔を上げる。

「ラムダ、今日も僕を何度もイかせてくれるんでしょ? だから見なくても大丈夫だよ」

 ラムダは目を見開き、そのあとニッコリ笑った。

「それより、抽象化アルゴリズムも定義されていて、記憶の体系化もできているじゃない。単純に映像や写真を外部に持つことは記憶を失うことにはならないよ」

「いいえ、鮮明に覚えていたいのです!」

 その語気に圧倒され、僕はそっか、と小さく呟く。そして数少ないラムダの願いを叶えるために、月々の従量課金と自分の階級給与で算段し始めた。それを浮かない顔だと思ったのだろうラムダが、小さくごめんなさい、と呟く。

「ラムダの願いを叶えたいんだ。だから謝るなんて、そんな悲しいことしないで」

「いえ、私のわがままです。カイは同じ目線で私を生かしてくれています。体のことも、愛のこともです。記憶もカイの提案に従うべきだと思います。でも……」

「でも?」

「人は記憶を失うことを恐れないのですか?」

 ラムダの少し硬くなった表情を見て、本当に無くすことを恐れていることを知る。少しでも緊張が解れればと僕はラムダにゆっくりキスをした。

「人はこんなに鮮明で客観的な記録ができない。体験として自分の意識が抽象化されたものだけを記憶しているんだ。だから写真とか、映像は外部機器で賄っているし、天災なんかでアルバムが消失するとみんな悲しむよ」

「人が写真や映像を大切にする理由はわかりました。でも外部に保存したら自分自身でなくなるような恐れが私の中にあります」

「うん、ラムダが怖いと思うことはしたくない。そういえばラムダの思い出で一番古いのって、やっぱりお父さんが軍から引き上げたときからなの?」

「はい……」

 歯切れの悪いラムダの回答に、思い当たることがあった。一度だけラムダがドローン兵器として生きていた頃の映像を復元して見せてもらったことがあるのだ。

「ちょっと一番古いファイル調べてみてもいい?」

「はい」

 僕はコンソール画面をテキパキ操作して日付順にソートする。タイムスタンプがない一番古いファイルを不審に思い、開こうとしたらデータ破損のアラートが出た。

「ラムダこれって前に見せてもらった戦争中の映像?」

「いいえ、あの映像はカイに見せたことを酷く後悔して即刻削除しました」

「じゃあこれは……?」

「私にも……わからないのです……」
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