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本編
第3話 店頭購買に必要なもの
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「カイはもう私とセックスしたくないですか?」
買い物に出かけようとしたラムダの腕を掴んだ時、悲しさを演出した声でそう言われた。
「そういう甘ったるい話じゃないんだ。ラムダ少しの間我慢してくれないか?」
「どういうシリアスな理由ですか? カイが私にペニスを入れてと懇願するように愛撫することもできるんですよ?」
なんて卑猥な強請りなのだろう……。今日はラムダの男らしさに僕はたじたじだ。
「性液はドローン所有者の証明が必要なんだ」
「デジタル署名はいつも持ち歩いています」
「僕の……ドローンだってバレたら、ラムダになにがあるかわからない」
「私は元軍用ドローン兵器ですよ? それに今や犯罪は未然に検知して公安が警邏します。カイはなにを隠そうとしていますか?」
「隠してなんていない。ラムダになにかあったら……」
ラムダはキョトンとして目を瞬いた。そして僕の真意をゆっくり受け入れ笑った。
「私はカイに愛されています。今とてもそれを感じます。安心してください。なにもありません」
ラムダは僕を抱きしめて、頭を撫でた。大丈夫です、そう耳元で囁いて耳たぶを喰んだあと、スッと立ち上がり家を後にした。
こんなことならオンラインショップで買えばよかった。僕はラムダというウィークポイントを軍に知られることを極端に恐れていた。冷静に考えれば今や独身男性がドローンで性処理をするなんて当たり前で、僕が思っているほど大事ではないのかもしれない。性液を注文するということが、ラムダを愛しているとは結びつかないかもしれない。
でも万が一ラムダになにかあったら……。
僕はソファから立ち上がり首を振る。どうせ店頭購入履歴で定期的に購入していることはバレているだろう。最近家を出ていないせいかナーバスになっている。
乱れた服を手早くなおして、ラムダがこれ以上カーペットを毟らないように掃除機をしまった。インジケータを見るとラムダが風呂にお湯を溜めてくれたらしい。僕は風呂場に向かう。
風呂で湯船に浸かり、不安を打ち消すようにラムダとの行為を楽しむ想像をする。体の隅々まで洗い、もう一度湯船に浸かろうと歩いたときに、足を滑らせてしまった。なんとか体勢を保ち転ばなかったことに安堵した時、急に昔のことを思い出す。子どもの頃からラムダと一緒に入浴していたが、足を滑らせラムダに支えられた日から一緒に風呂に入る習慣が途絶えた。今思えばラムダの胸板に支えられて自分の恋心を自覚した瞬間だったのだが、思春期真っ盛りの僕はそれを認めたくなくて随分と悩んだ。
人生は短い。そんなに悲観する年齢でもないが、四捨五入をすれば30歳。平均寿命が90歳だとすると3分の1を過ぎたところだが、ラムダの寿命に比べれば圧倒的に短い。人生の大半をラムダと過ごしたが、今のような良好な関係とはいい難かった。
性格柄、面倒臭いが先に立って人生をやり直したいとは思ったことはないが、ラムダだけは別だ。幼少期は随分とわがままを言ったし、思春期にはとても困らせた。もう一度やり直せるとすれば、もっと素直な自分でラムダと一緒に過ごしたい。もっとラムダに幸福を与えたい。
ぼんやり考え事をしていたら急に玄関からすごい物音が聞こえる。
「カイっ! カイ!! 緊急事態です! カイこっちにきて!」
聞いたこともない警報のようなラムダのアラートに、僕は一気に血の気がひいて、服も着ずにびしょびしょのまま玄関に走り出した。
買い物に出かけようとしたラムダの腕を掴んだ時、悲しさを演出した声でそう言われた。
「そういう甘ったるい話じゃないんだ。ラムダ少しの間我慢してくれないか?」
「どういうシリアスな理由ですか? カイが私にペニスを入れてと懇願するように愛撫することもできるんですよ?」
なんて卑猥な強請りなのだろう……。今日はラムダの男らしさに僕はたじたじだ。
「性液はドローン所有者の証明が必要なんだ」
「デジタル署名はいつも持ち歩いています」
「僕の……ドローンだってバレたら、ラムダになにがあるかわからない」
「私は元軍用ドローン兵器ですよ? それに今や犯罪は未然に検知して公安が警邏します。カイはなにを隠そうとしていますか?」
「隠してなんていない。ラムダになにかあったら……」
ラムダはキョトンとして目を瞬いた。そして僕の真意をゆっくり受け入れ笑った。
「私はカイに愛されています。今とてもそれを感じます。安心してください。なにもありません」
ラムダは僕を抱きしめて、頭を撫でた。大丈夫です、そう耳元で囁いて耳たぶを喰んだあと、スッと立ち上がり家を後にした。
こんなことならオンラインショップで買えばよかった。僕はラムダというウィークポイントを軍に知られることを極端に恐れていた。冷静に考えれば今や独身男性がドローンで性処理をするなんて当たり前で、僕が思っているほど大事ではないのかもしれない。性液を注文するということが、ラムダを愛しているとは結びつかないかもしれない。
でも万が一ラムダになにかあったら……。
僕はソファから立ち上がり首を振る。どうせ店頭購入履歴で定期的に購入していることはバレているだろう。最近家を出ていないせいかナーバスになっている。
乱れた服を手早くなおして、ラムダがこれ以上カーペットを毟らないように掃除機をしまった。インジケータを見るとラムダが風呂にお湯を溜めてくれたらしい。僕は風呂場に向かう。
風呂で湯船に浸かり、不安を打ち消すようにラムダとの行為を楽しむ想像をする。体の隅々まで洗い、もう一度湯船に浸かろうと歩いたときに、足を滑らせてしまった。なんとか体勢を保ち転ばなかったことに安堵した時、急に昔のことを思い出す。子どもの頃からラムダと一緒に入浴していたが、足を滑らせラムダに支えられた日から一緒に風呂に入る習慣が途絶えた。今思えばラムダの胸板に支えられて自分の恋心を自覚した瞬間だったのだが、思春期真っ盛りの僕はそれを認めたくなくて随分と悩んだ。
人生は短い。そんなに悲観する年齢でもないが、四捨五入をすれば30歳。平均寿命が90歳だとすると3分の1を過ぎたところだが、ラムダの寿命に比べれば圧倒的に短い。人生の大半をラムダと過ごしたが、今のような良好な関係とはいい難かった。
性格柄、面倒臭いが先に立って人生をやり直したいとは思ったことはないが、ラムダだけは別だ。幼少期は随分とわがままを言ったし、思春期にはとても困らせた。もう一度やり直せるとすれば、もっと素直な自分でラムダと一緒に過ごしたい。もっとラムダに幸福を与えたい。
ぼんやり考え事をしていたら急に玄関からすごい物音が聞こえる。
「カイっ! カイ!! 緊急事態です! カイこっちにきて!」
聞いたこともない警報のようなラムダのアラートに、僕は一気に血の気がひいて、服も着ずにびしょびしょのまま玄関に走り出した。
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