魔法使いの大三角

大田ネクロマンサー

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第38話 主人公不在の総火力戦(1)

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まだ15時だった。前契約者の家の近くまで車で乗り付けた。美佳子は自分のスマホを取り出した。冬馬に教えてもらったアプリで自分のスマホにもGPSを登録していた。一同が不思議そうに美佳子のスマホを見る。

「なるほど! この前行ったときにGPSでトラッキングしていたんですね! これじゃあ暗示も効かないですもんね」

美佳子は冬馬の受け売りだと言おうとしたが、冬馬が玲音に教えていなかったことを考えるとそれが言えず、ECイーコマースもやってるくらいなので、と変な言い訳をした。

冬馬と違いピンポイントに前契約者の屋敷を特定することができた。それは美佳子がこの屋敷を出るときに魔法を履行りこうして空を飛んだからだ。GPSの軌跡がこの屋敷を最後に地図上の道を通っていなかった。

「藤堂さん、念のためなのですが、円華が屋敷全体をじんで覆います。その間に私が前契約者が在宅か確認します。少しだけ車で待っていただいてもよろしいでしょうか?」

はい、そう美佳子は答えて玲音を見た。玲音も頷いた。

「円華、頼むよ」

円華は返事と同時に勢いよく車から飛び出した。要は玲音に振り返る。

「玲音君はお母さんと法縄ほうじょうで繋がってるから今日は武具ぶぐ無しで戦ってね。藤堂さん、もし前契約者が在宅だったら円華から合図させます」

テキパキと指示を出す要に美佳子と玲音は慌てて返事するも、合図とは一体なんだろうと2人で顔を見合わせた。しかしその合図はすぐにわかった。チャットアプリで「正面から突入せよ」という文章と理解できないスタンプが送られてきた。美佳子と玲音は笑いを堪えながら屋敷の正面へ向かう。



「た、確かにこれじゃあどうやって戦っていいかわからないわね……」

正面から突入した時開口一番で美佳子が呟く。
美佳子と玲音の前には時空が縦や横に伸ばされたような異次元が広がっていた。

「藤堂さん、玲音。ごめんなさい。テクスチャがやっつけで申し訳ないんだけど、物理法則は一緒だから、手加減無しでやって!」

どこからともなく円華の声が聞こえる。美佳子は混乱しながらも前を見据えると、遠くの方に要が立っていた。

「藤堂さん、玲音君、行きますよ!」

美佳子は玲音の腰を掴んで風の魔法を履行する。要に追いついたかと思ったら風の魔法履行無しで3人がスピードを上げる。玲音はなにも感じていなかったが、美佳子は解せないことばかりだった。魔法履行の感覚がいつもと違うのだ。

前に進んでいるのか止まっているのかもわからない中、美佳子は遠くに前契約者の姿を捕捉する。

前契約者も美佳子達を目視で確認して叫ぶ。

「また……お前らか! 娘をどこにやった!」

「GPS電波妨害でもつけるんだなぁ!」

要がそう叫び返しながら火の魔法を履行する。
その時、美佳子と玲音に円華の声が聞こえる。

「娘さんは私の方で捕らえているから安心して、敵はソイツ1人だから」

「円華っ!」

玲音は事態が飲み込めず円華を呼ぶが、声が打ち消される。玲音は美佳子を見るが美佳子は聞こえていないようで視線は要の方を向いたままだった。

「玲音、大丈夫。私を信じて」

円華の声に玲音は冷静さを取り戻す。美佳子に腰を掴まれていた手を玲音は握って合図をする。要が放った炎の魔法が前契約者に不履行にされたと同時に要が走り出した。

「玲音!」

美佳子が叫ぶと同時に玲音に風の魔法をかける。玲音が要に追いつく前に契約者が無数の現象魔法を放ち美佳子はその対応に追われる。
玲音はそのまま走り出して要の後に続く。

玲音の前の要は一瞬青白く発光し、体が膨らんだ。玲音がそれに気を取られている間に、要は重い拳を契約者に振り下ろす。それを腕で遮る契約者がもう片方の腕から魔法を履行する。水の魔法を履行し、要と玲音は一瞬水に押し流されるが、それを美佳子が不履行にする。

間合いを詰めたが水の魔法でタイミングを逃した要と玲音はそれぞれ左右に走り込み、要はその間に無数に混在した現象魔法を放つ。正面から美佳子の放つ渾身の炎、そして玲音が後ろから契約者に飛びかかる。

契約者は飛び込んできた玲音の攻撃を左手で受けその腕を掴んで玲音を前に引き寄せた。玲音の前に美佳子の炎が迫る。
美佳子と要が同時にこれを不履行にして、要は玲音を掴んだ契約者の腕を殴った。

玲音を契約者から引き剥がし、玲音を美佳子の方へ一度退避させる。要と契約者の目があった瞬間、要はまた無数の現象魔法を契約者に送り込む。

その時、さっき放った要の現象魔法と同時に放っておいた刃が契約者の頭上から降り注いだ。

契約者は風の魔法で自分の周囲を覆いながら、要の無数の現象魔法を回避する。要が自由自在に動くのに対し、契約者はその場から動けずにいた。要は間合いを詰めて契約者の眼前に迫った時、契約者の視線が自分に向いてないことに気がつき、思わず叫ぶ。

「玲音君!」

そう呼ばれて玲音は両手に魔力を集中させ、契約者の風で向かってきた要の刃を1つずつ砕いていく。玲音が全てを砕いた時には、美佳子が放物線を描くように現象魔法を無数に送り込み、要は拳を契約者に叩き込んでいた。
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