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第27話 従者の実力
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朝起きたら玲音が横にいなかった。びっくりして起き上がったら、玲音は俺の机の前に座ってぼんやり窓を眺めていた。
さっきは心臓が止まるかと思ったが、今は口から心臓が飛び出したみたいに顔中が熱く心音が顔の前から聞こえた。
玲音は俺を見るなりひっそりと言った。
「起こしてごめん」
昨日から全然胸の痛みが変わってなかった。気が狂いそうだった。
「玲音……眠れなかったのか……?」
恐る恐る聞いたが、玲音は静かに首を横に振った。
「ごめん……」
そう言って部屋から出て行った。リビングから玲音早いわねーという母の呑気な声が聞こえる。
ごめんって……こんなに突き放される言葉なのか?
終始やまない胸の痛みの中で、玲音はびっくりするくらい日常の中を生きていた。朝ごはんも登校も普段と何一つ変わらない。ただ、学校の下駄箱の前で玲音が女子に呼び止められた時、変化があった。
「あの、来栖君……ちょっと時間もらえますか?」
玲音はしばらくぼんやり女子を眺めていた。そして俺に向き直って言った。
「先に行ってて」
女子と玲音は外履きに履き替え、連れ立って出口に向かう。俺はもちろん、それに気がついた女子全員がその光景を見守るしかなかった。
玲音は授業中に教室へ帰ってきた。その行動がクラスの女子全員の平常心を奪っう。
昼休みにいつも通りに俺の席で玲音は弁当を食べていた。俺はというと弁当がうまく喉を通らない。それに聞きたいこともあった。
そこに女子の代表と思われる1人が俺の席の前まで歩いてくる。遠巻きに複数人の女子が固唾を飲んで見守っているのがわかった。
「来栖君、今日の朝どこに行ってたの?」
俺は法縄を握ろうか迷った。うるさいとか、殺すとか言い出すと思ったからだ。しかし思った以上に普通に玲音は受け答えした。
「学校の裏庭だよ」
学校の裏庭は告白の定番スポットで、玲音のひどい態度に俺が法縄を引っ張って吐かせた場所もここだった。言えば誰でも察する回答だった。
女子代表はこんなにあっさり答えてくれるとは思ってなかったようで、少し動揺している。
「西条先輩と付き合うの?」
あの女子は上級生だったのか。玲音はしばらく黙っていた。
「付き合うとかよくわからないって言ったら、お試しで付き合ってくれって言ってたよ」
まるで他人事のように玲音は言う。その態度と言葉に女子代表は安堵する。
「付き合うわけじゃないんだ」
「お試しで付き合うよ」
間髪入れずに放った玲音の言葉に教室中が凍りつき、ちらほら悲鳴のような声が上がった。多分、前に告白したであろう女子が向こうの方で泣いている。
女子代表は明らかに狼狽していた。
「お試しって……?」
女子代表は食らいつく。
この子も玲音のことが好きなんだろうか。
「俺もわからないから聞いたんだけど……。一緒に帰ったりするらしいよ……」
ここでなぜか玲音の声のトーンが下がった。順調に受け答えをしていたのに、もう面倒くさくなったのかと思って俺は少し身構えたが、女子代表もそれを感じたのか、わかったと言って女子の群れの中へ帰っていった。
俺はこの現実離れした光景にしばらく放心してしばらく弁当を食べる手が止まっていた。
「それ、食べないならちょうだい」
そう言って玲音は俺の弁当のおかずをつまむ。
「今日は先に帰ってて」
玲音がそう言うと、予鈴が鳴って、玲音は弁当を片付け始めた。俺は玲音を見られずに、弁当を見つめた。
それから玲音は毎日女子と帰るようになった。女子の同調圧力なのか、お試し期間は平等に行うべき、と女子全員で取り決めがされ、玲音は毎日違う女子と帰宅することが決まったのだ。ついでに昼休みも、スケジュールが管理され、玲音は昨日まで名前も知らなかった女子と昼食と帰宅を共にすることとなった。
この取り決めで自然と部活の助っ人依頼はなくなった。
冷静に考えれば今までも部活動の参加は俺にスケジュール管理されていた。それがデートに変わっただけで、本質的にはなにも変わらないんだなとぼんやり感じる。この異様な取り決めに、学校中が大奥のようにならないのも、そこに玲音の確固たる意志がないからだ。
なぜならば、こんな状態の中でも胸の痛みは全然変わっていなかったからだ。
家ではいつも通り家事を分担した。母と明るく食事のメニューを考えたり、美味しくご飯を食べたり、何一つ変わらぬ日常だった。
ただ、一緒に寝たいとグズらなくなったし、抱き合って眠らなくなった。そして朝は俺1人で起きるようになっていた。
これが普通の兄弟なら、むしろ一緒に寝ることの方が異常なのかもしれない。そう思ってもみたが、ただ俺は玲音の魔力と睡眠時間が心配だった。
さっきは心臓が止まるかと思ったが、今は口から心臓が飛び出したみたいに顔中が熱く心音が顔の前から聞こえた。
玲音は俺を見るなりひっそりと言った。
「起こしてごめん」
昨日から全然胸の痛みが変わってなかった。気が狂いそうだった。
「玲音……眠れなかったのか……?」
恐る恐る聞いたが、玲音は静かに首を横に振った。
「ごめん……」
そう言って部屋から出て行った。リビングから玲音早いわねーという母の呑気な声が聞こえる。
ごめんって……こんなに突き放される言葉なのか?
終始やまない胸の痛みの中で、玲音はびっくりするくらい日常の中を生きていた。朝ごはんも登校も普段と何一つ変わらない。ただ、学校の下駄箱の前で玲音が女子に呼び止められた時、変化があった。
「あの、来栖君……ちょっと時間もらえますか?」
玲音はしばらくぼんやり女子を眺めていた。そして俺に向き直って言った。
「先に行ってて」
女子と玲音は外履きに履き替え、連れ立って出口に向かう。俺はもちろん、それに気がついた女子全員がその光景を見守るしかなかった。
玲音は授業中に教室へ帰ってきた。その行動がクラスの女子全員の平常心を奪っう。
昼休みにいつも通りに俺の席で玲音は弁当を食べていた。俺はというと弁当がうまく喉を通らない。それに聞きたいこともあった。
そこに女子の代表と思われる1人が俺の席の前まで歩いてくる。遠巻きに複数人の女子が固唾を飲んで見守っているのがわかった。
「来栖君、今日の朝どこに行ってたの?」
俺は法縄を握ろうか迷った。うるさいとか、殺すとか言い出すと思ったからだ。しかし思った以上に普通に玲音は受け答えした。
「学校の裏庭だよ」
学校の裏庭は告白の定番スポットで、玲音のひどい態度に俺が法縄を引っ張って吐かせた場所もここだった。言えば誰でも察する回答だった。
女子代表はこんなにあっさり答えてくれるとは思ってなかったようで、少し動揺している。
「西条先輩と付き合うの?」
あの女子は上級生だったのか。玲音はしばらく黙っていた。
「付き合うとかよくわからないって言ったら、お試しで付き合ってくれって言ってたよ」
まるで他人事のように玲音は言う。その態度と言葉に女子代表は安堵する。
「付き合うわけじゃないんだ」
「お試しで付き合うよ」
間髪入れずに放った玲音の言葉に教室中が凍りつき、ちらほら悲鳴のような声が上がった。多分、前に告白したであろう女子が向こうの方で泣いている。
女子代表は明らかに狼狽していた。
「お試しって……?」
女子代表は食らいつく。
この子も玲音のことが好きなんだろうか。
「俺もわからないから聞いたんだけど……。一緒に帰ったりするらしいよ……」
ここでなぜか玲音の声のトーンが下がった。順調に受け答えをしていたのに、もう面倒くさくなったのかと思って俺は少し身構えたが、女子代表もそれを感じたのか、わかったと言って女子の群れの中へ帰っていった。
俺はこの現実離れした光景にしばらく放心してしばらく弁当を食べる手が止まっていた。
「それ、食べないならちょうだい」
そう言って玲音は俺の弁当のおかずをつまむ。
「今日は先に帰ってて」
玲音がそう言うと、予鈴が鳴って、玲音は弁当を片付け始めた。俺は玲音を見られずに、弁当を見つめた。
それから玲音は毎日女子と帰るようになった。女子の同調圧力なのか、お試し期間は平等に行うべき、と女子全員で取り決めがされ、玲音は毎日違う女子と帰宅することが決まったのだ。ついでに昼休みも、スケジュールが管理され、玲音は昨日まで名前も知らなかった女子と昼食と帰宅を共にすることとなった。
この取り決めで自然と部活の助っ人依頼はなくなった。
冷静に考えれば今までも部活動の参加は俺にスケジュール管理されていた。それがデートに変わっただけで、本質的にはなにも変わらないんだなとぼんやり感じる。この異様な取り決めに、学校中が大奥のようにならないのも、そこに玲音の確固たる意志がないからだ。
なぜならば、こんな状態の中でも胸の痛みは全然変わっていなかったからだ。
家ではいつも通り家事を分担した。母と明るく食事のメニューを考えたり、美味しくご飯を食べたり、何一つ変わらぬ日常だった。
ただ、一緒に寝たいとグズらなくなったし、抱き合って眠らなくなった。そして朝は俺1人で起きるようになっていた。
これが普通の兄弟なら、むしろ一緒に寝ることの方が異常なのかもしれない。そう思ってもみたが、ただ俺は玲音の魔力と睡眠時間が心配だった。
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