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第19話 魔法使いと明けない夜
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月曜日だ。先週末俺のせいで学校が大変なことになったけど、今日は休校にはならなかった。
俺はあのまま眠れなかった。だから玲音が起きていることはわかった。
「玲音……学校行くぞ……」
自分でも、どの口が言ってるんだ! と思いながら言った。でも玲音から返事はない。
俺がリビングに出ると、母が心配そうに席を立った。母としばらく見つめあったが、俺は視線を逸らして風呂に入る。制服を着て、母の作った弁当のうち、1つだけカバンに入れながら呟く。
「かーちゃん、今日は玲音休ませていいかな」
母は答えに困っていた。俺は自分の部屋に戻り玲音をしばらく眺める。
「玲音、弁当あるから。1人でもちゃんと食べなよ……」
玲音の返事も聞かず、俺はそのまま玄関に向かう。靴を履いている時に母の心配そうな足音が近づいてきた。
「冬馬、あんたも休んだっていいのよ?」
俺は、振り返れなかった。昨日の玲音の顔を思い出す度に思う。俺は玲音に拒まれることを恐れている。一緒にいて、また不用意に玲音を傷つけるんじゃないかと心の底から恐れていた。そして、少しだけ1人で考えたかった。
母に返事することも忘れたまま、俺は学校に向かった。
学校の窓は先週そんなことがなかったかのように修繕されていた。玲音が家に来てからそろそろ2ヶ月になろうとしているが、俺はそれ以前にどんな学校生活を送っていたか思い出せない。
今日も何人かから部活の助っ人を申し込まれるが、玲音は休みだと伝えるたびに、心の中に靄がかかった。
昼休み、放課後、全てに玲音のいない日を初めて経験したような錯覚に陥る。
帰り際、部活の助っ人を頼んできた同じクラスの子に話しかけられた。
「来栖君、休みなんて珍しいね。風邪でもひいたの?」
俺は、なんて返答すればいいかわからなかった。当たり障りなく、相槌を打てばいいのだろうが、ひどく良心が呵責されるのだ。
「玲音と喧嘩しちゃって……」
自分で言っておきながらびっくりした。
なにを口走ってるんだ俺は!
「それはそれで珍しいね。いつも仲いいのにそんなこともあるんだ」
クラスメイトは言っていることとは裏腹に、特に珍しいとも思わない口調で答える。
「でも藤堂君なら大丈夫だよ」
そう興味なさそうに言ってクラスメイトは話題を切り上げた。
クラスメイトは母と同じことを言った。
みんなから放り出された気分だった。
でもこれは俺と玲音の問題なんだ。自分でなんとかしなければならない。静かな決意を胸に家へ急いで帰った。
家に帰ってリビングにある弁当を開けて、びっくりして、そのまま自分の部屋に向かう。
玲音は俺が家を出た時から何一つ変わらない格好で横たわっていた。
「玲音、なんで弁当食べなかったんだ」
俺はそう言いながら横たわる玲音の肩に触れるも、玲音は俺の手をゆっくり肩から退けた。
俺が玲音を起こそうとした時、玲音は急に起き上がり俺の胸ぐらを掴む。
「さわるな」
静かに言って俺の襟元から手を離した。
玲音が再び横たわろうとした時、俺は堪らず玲音に手を伸ばした。
その瞬間、玲音は俺の胸ぐらを掴みながら立ち上がり、俺の体を壁に打ち付ける。溝乙を殴られ、痛みで身をかがませた拍子に顎に拳が入った。そのままリビングに倒れ込みあっけなく意識を失った。
昨日無意味に徹夜したことも祟ったのだろう。母が帰ってくるまでリビングでのびていた。
「冬馬! どうしたの!?」
母に起こされた時にはもう夜だった。部屋を見たら玲音は変わらず横たわっている。
「ごめん寝てた」
全く意味のわからない言い訳だったが、どうでもよかった。玲音は俺をここに放置した、その事実だけで頭がいっぱいで胸がバラバラになる。
とにかく、ここから立ち去りたいと、ベランダに出て洗濯物を取り込んだ。洗濯物はすっかり冷たい。
米をといだり、風呂を洗ったり、いつもは分担する家事を一通りこなした時には夕食が出来上がっていた。
母は俺の部屋に入っていった。
母は玲音の横に座り、小声で玲音になにか話しかけていたが、玲音は無反応だった。
内心ヒヤヒヤもしていたが、玲音は母には飛びかからなかった。
母は首を振りながら部屋から出てきて、2人では多すぎる夕食を無言で食べる。途中何度も、言いようのない悲しみがこみ上げてきたが、夕食でそれを押し込んだ。
玲音はそれから2日動かなかった。
俺はあのまま眠れなかった。だから玲音が起きていることはわかった。
「玲音……学校行くぞ……」
自分でも、どの口が言ってるんだ! と思いながら言った。でも玲音から返事はない。
俺がリビングに出ると、母が心配そうに席を立った。母としばらく見つめあったが、俺は視線を逸らして風呂に入る。制服を着て、母の作った弁当のうち、1つだけカバンに入れながら呟く。
「かーちゃん、今日は玲音休ませていいかな」
母は答えに困っていた。俺は自分の部屋に戻り玲音をしばらく眺める。
「玲音、弁当あるから。1人でもちゃんと食べなよ……」
玲音の返事も聞かず、俺はそのまま玄関に向かう。靴を履いている時に母の心配そうな足音が近づいてきた。
「冬馬、あんたも休んだっていいのよ?」
俺は、振り返れなかった。昨日の玲音の顔を思い出す度に思う。俺は玲音に拒まれることを恐れている。一緒にいて、また不用意に玲音を傷つけるんじゃないかと心の底から恐れていた。そして、少しだけ1人で考えたかった。
母に返事することも忘れたまま、俺は学校に向かった。
学校の窓は先週そんなことがなかったかのように修繕されていた。玲音が家に来てからそろそろ2ヶ月になろうとしているが、俺はそれ以前にどんな学校生活を送っていたか思い出せない。
今日も何人かから部活の助っ人を申し込まれるが、玲音は休みだと伝えるたびに、心の中に靄がかかった。
昼休み、放課後、全てに玲音のいない日を初めて経験したような錯覚に陥る。
帰り際、部活の助っ人を頼んできた同じクラスの子に話しかけられた。
「来栖君、休みなんて珍しいね。風邪でもひいたの?」
俺は、なんて返答すればいいかわからなかった。当たり障りなく、相槌を打てばいいのだろうが、ひどく良心が呵責されるのだ。
「玲音と喧嘩しちゃって……」
自分で言っておきながらびっくりした。
なにを口走ってるんだ俺は!
「それはそれで珍しいね。いつも仲いいのにそんなこともあるんだ」
クラスメイトは言っていることとは裏腹に、特に珍しいとも思わない口調で答える。
「でも藤堂君なら大丈夫だよ」
そう興味なさそうに言ってクラスメイトは話題を切り上げた。
クラスメイトは母と同じことを言った。
みんなから放り出された気分だった。
でもこれは俺と玲音の問題なんだ。自分でなんとかしなければならない。静かな決意を胸に家へ急いで帰った。
家に帰ってリビングにある弁当を開けて、びっくりして、そのまま自分の部屋に向かう。
玲音は俺が家を出た時から何一つ変わらない格好で横たわっていた。
「玲音、なんで弁当食べなかったんだ」
俺はそう言いながら横たわる玲音の肩に触れるも、玲音は俺の手をゆっくり肩から退けた。
俺が玲音を起こそうとした時、玲音は急に起き上がり俺の胸ぐらを掴む。
「さわるな」
静かに言って俺の襟元から手を離した。
玲音が再び横たわろうとした時、俺は堪らず玲音に手を伸ばした。
その瞬間、玲音は俺の胸ぐらを掴みながら立ち上がり、俺の体を壁に打ち付ける。溝乙を殴られ、痛みで身をかがませた拍子に顎に拳が入った。そのままリビングに倒れ込みあっけなく意識を失った。
昨日無意味に徹夜したことも祟ったのだろう。母が帰ってくるまでリビングでのびていた。
「冬馬! どうしたの!?」
母に起こされた時にはもう夜だった。部屋を見たら玲音は変わらず横たわっている。
「ごめん寝てた」
全く意味のわからない言い訳だったが、どうでもよかった。玲音は俺をここに放置した、その事実だけで頭がいっぱいで胸がバラバラになる。
とにかく、ここから立ち去りたいと、ベランダに出て洗濯物を取り込んだ。洗濯物はすっかり冷たい。
米をといだり、風呂を洗ったり、いつもは分担する家事を一通りこなした時には夕食が出来上がっていた。
母は俺の部屋に入っていった。
母は玲音の横に座り、小声で玲音になにか話しかけていたが、玲音は無反応だった。
内心ヒヤヒヤもしていたが、玲音は母には飛びかからなかった。
母は首を振りながら部屋から出てきて、2人では多すぎる夕食を無言で食べる。途中何度も、言いようのない悲しみがこみ上げてきたが、夕食でそれを押し込んだ。
玲音はそれから2日動かなかった。
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