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第17話 従者の傷
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夕方になって2人の影がだいぶ伸びてきた。玲音は俺とは反対側の夕日を眺めている。今日いろいろと歩き回ったけど、玲音が思い出せる場所は1つもなかった。鎌倉駅からいろんなところに寄り道をして、ほどなく北鎌倉駅だ。
玲音は振り返って俺の方へ歩いてくる。少し笑って俺の横を通り過ぎた。玲音がいなくなった夕焼けの風景を少し眺めた。
その時、胸がきゅっと締め付けられた。
俺は玲音の方を向いた。玲音は屋敷の鉄格子の前で、ただ一点を見つめていた。
その瞬間に全て理解した。
俺は魔石を取り出し玲音の前へ投げた。玲音に走り寄って自分の後ろに魔石を2個投げて魔力を注いだ。後ろから玲音の腰に手を回した。
玲音が見つめていた男がこちらに向かって歩いてくる。木の陰で男の動きが全くわからなかったが、男はなにかを抱きかかえた、その瞬間、俺は今までに感じたこともない違和感で変な汗が噴き出した。
男が違和感を抱えこちらに歩いてくる。
胸が締め付けられるように痛い。俺は玲音の腰を掴んでいない方で法縄を掴んだ。
玲音が鉄格子をつかもうと手を伸ばす。
俺は玲音の腰を引き寄せて強めに言う。
「玲音、それ以上は、だめだ」
男が近づくにつれて、俺の胸も痛む。何故今まで気がつかなかったのだろう。病気なんかじゃない。この痛みは玲音の心の痛みだったんだ。
男は女の子を抱えていた。
その女の子は生きているのか? そう思えるほど不気味な違和感しかなかった。いや、違和感はそれだけではない。抱きかかえるにしては女の子は大きすぎるのだ。その体系にそぐわない幼稚な服。その年齢なら恐らくやらないであろう男へのまとわりつき方。さっきから変な汗が止まらない。
鉄格子を挟んで俺達2人の正面に男が立った。
「お父さん、あれはなに?」
違和感が発した声で、彼女は幼いこどもではないことを知った。男はこちらを一瞥する。男も男でかなり浮世離れしていた。お父さんなんていう年齢ではないことは一目瞭然だった。切れ長の目、年にそぐわない白髪。なにもかもちぐはぐで、耳の外で心臓音が聞こえるくらい俺は焦っていた。
「ああ、あれは前に飼っていた犬だよ」
玲音のことがバレているのか、それだけしか考えられなかった。玲音のことを貶めてることなんてどうでもよかった。俺は玲音の腰に回した手を一層自分の体に引き寄せた。
「なんで顔が無いの?」
「それは新しい飼い主が犬をとられないようにしてるんだよ」
もう恐怖で汗と震えが止まらない。玲音の胸の痛みも全く止まらない。玲音は微動だにしない。今どんな顔をしてるんだ、玲音はこの違和感をなんとも思わないのか?
「あの犬また戻ってきたいんじゃない?」
「あの犬はね、生まれた時に母親を喰って、育ててくれた父親も喰った悪い犬なんだよ」
この時、胸がビリビリと破られるかのような痛みを感じ、玲音の周りの空気が震えた気がした。
「お父さん、あの犬かわいそうだね」
彼女がそう言った瞬間、玲音より先に俺は法縄を引っ張って、玲音を羽交い締めにした。
俺の記憶は一旦ここで途切れた。
なにが起こったのか、説明がつかなかった。
気がついたら、横須賀線の上り電車の中で、玲音に寄りかかっていた。俺は玲音の肩を掴んで玲音を揺さぶった。玲音は寝息を立てていた。
胸にじんわり安堵が広がる。こうやって帰って来られたことが本当に奇跡だと感じた。思い出しても震えが止まらない。玲音は住んでいた場所も契約者の顔も名前も思い出せないと言っていた。確かに今、俺にあるのは恐怖だけで、契約者の顔もあの家の場所も、思い出せなかった。魔法は記憶操作なんてできるのか?
額の汗を拭うと、とてつもない疲労感に襲われた。陣を1回引いただけなのに、なんでこんなに消耗するんだ。俺は目を開けていられず玲音の肩に倒れこむように寝てしまった。
「お父さん、本当のお父さんはどうして死んだの?」
「玲音はお父さんの本当のこどもだよ。本当のお父さんとお母さんじゃないから、玲音を残して死んだんだよ」
「本当のお父さんだったら……なんで……こんなことするの?」
「みんなこうしてるよ」
「お父さん、お父さん! もうやめて!」
やめてよ! お父さん!
助けて! お父さん!
俺は反射的に玲音から体を離して目を覚ました。
その瞬間、俺は首を掴まれて、体ごと電車の窓に打ち付けられた。
わずかに乗車していた他の客の小さな悲鳴が聞こえた。
「冬馬……お前、俺の中に入ったのか!?」
玲音は本気で俺の首を掴んでいた。本気だった。殺す気で掴んでる。俺は喋ることが出来なかった。胸が痛くてかきむしりたかった。
「れ……お……」
俺は声を振り絞る。でも、なにを言いたいわけでも、どうしたいというわけではなかった。
殺されて当然のことをした。
首を締め上げられながら、玲音を見た。
今にも泣き出しそうだった。玲音。
「ご……め……」
玲音は悲鳴のような声を上げて、手を離した。
俺は咳き込み、玲音は俺の膝のところでうずくまり、肩を震わせていた。
心配した乗客が遠巻きに見ていたが、関係なかった。
玲音は、顔のない男をお父さんと呼び、その男に凌辱されていた。
玲音は振り返って俺の方へ歩いてくる。少し笑って俺の横を通り過ぎた。玲音がいなくなった夕焼けの風景を少し眺めた。
その時、胸がきゅっと締め付けられた。
俺は玲音の方を向いた。玲音は屋敷の鉄格子の前で、ただ一点を見つめていた。
その瞬間に全て理解した。
俺は魔石を取り出し玲音の前へ投げた。玲音に走り寄って自分の後ろに魔石を2個投げて魔力を注いだ。後ろから玲音の腰に手を回した。
玲音が見つめていた男がこちらに向かって歩いてくる。木の陰で男の動きが全くわからなかったが、男はなにかを抱きかかえた、その瞬間、俺は今までに感じたこともない違和感で変な汗が噴き出した。
男が違和感を抱えこちらに歩いてくる。
胸が締め付けられるように痛い。俺は玲音の腰を掴んでいない方で法縄を掴んだ。
玲音が鉄格子をつかもうと手を伸ばす。
俺は玲音の腰を引き寄せて強めに言う。
「玲音、それ以上は、だめだ」
男が近づくにつれて、俺の胸も痛む。何故今まで気がつかなかったのだろう。病気なんかじゃない。この痛みは玲音の心の痛みだったんだ。
男は女の子を抱えていた。
その女の子は生きているのか? そう思えるほど不気味な違和感しかなかった。いや、違和感はそれだけではない。抱きかかえるにしては女の子は大きすぎるのだ。その体系にそぐわない幼稚な服。その年齢なら恐らくやらないであろう男へのまとわりつき方。さっきから変な汗が止まらない。
鉄格子を挟んで俺達2人の正面に男が立った。
「お父さん、あれはなに?」
違和感が発した声で、彼女は幼いこどもではないことを知った。男はこちらを一瞥する。男も男でかなり浮世離れしていた。お父さんなんていう年齢ではないことは一目瞭然だった。切れ長の目、年にそぐわない白髪。なにもかもちぐはぐで、耳の外で心臓音が聞こえるくらい俺は焦っていた。
「ああ、あれは前に飼っていた犬だよ」
玲音のことがバレているのか、それだけしか考えられなかった。玲音のことを貶めてることなんてどうでもよかった。俺は玲音の腰に回した手を一層自分の体に引き寄せた。
「なんで顔が無いの?」
「それは新しい飼い主が犬をとられないようにしてるんだよ」
もう恐怖で汗と震えが止まらない。玲音の胸の痛みも全く止まらない。玲音は微動だにしない。今どんな顔をしてるんだ、玲音はこの違和感をなんとも思わないのか?
「あの犬また戻ってきたいんじゃない?」
「あの犬はね、生まれた時に母親を喰って、育ててくれた父親も喰った悪い犬なんだよ」
この時、胸がビリビリと破られるかのような痛みを感じ、玲音の周りの空気が震えた気がした。
「お父さん、あの犬かわいそうだね」
彼女がそう言った瞬間、玲音より先に俺は法縄を引っ張って、玲音を羽交い締めにした。
俺の記憶は一旦ここで途切れた。
なにが起こったのか、説明がつかなかった。
気がついたら、横須賀線の上り電車の中で、玲音に寄りかかっていた。俺は玲音の肩を掴んで玲音を揺さぶった。玲音は寝息を立てていた。
胸にじんわり安堵が広がる。こうやって帰って来られたことが本当に奇跡だと感じた。思い出しても震えが止まらない。玲音は住んでいた場所も契約者の顔も名前も思い出せないと言っていた。確かに今、俺にあるのは恐怖だけで、契約者の顔もあの家の場所も、思い出せなかった。魔法は記憶操作なんてできるのか?
額の汗を拭うと、とてつもない疲労感に襲われた。陣を1回引いただけなのに、なんでこんなに消耗するんだ。俺は目を開けていられず玲音の肩に倒れこむように寝てしまった。
「お父さん、本当のお父さんはどうして死んだの?」
「玲音はお父さんの本当のこどもだよ。本当のお父さんとお母さんじゃないから、玲音を残して死んだんだよ」
「本当のお父さんだったら……なんで……こんなことするの?」
「みんなこうしてるよ」
「お父さん、お父さん! もうやめて!」
やめてよ! お父さん!
助けて! お父さん!
俺は反射的に玲音から体を離して目を覚ました。
その瞬間、俺は首を掴まれて、体ごと電車の窓に打ち付けられた。
わずかに乗車していた他の客の小さな悲鳴が聞こえた。
「冬馬……お前、俺の中に入ったのか!?」
玲音は本気で俺の首を掴んでいた。本気だった。殺す気で掴んでる。俺は喋ることが出来なかった。胸が痛くてかきむしりたかった。
「れ……お……」
俺は声を振り絞る。でも、なにを言いたいわけでも、どうしたいというわけではなかった。
殺されて当然のことをした。
首を締め上げられながら、玲音を見た。
今にも泣き出しそうだった。玲音。
「ご……め……」
玲音は悲鳴のような声を上げて、手を離した。
俺は咳き込み、玲音は俺の膝のところでうずくまり、肩を震わせていた。
心配した乗客が遠巻きに見ていたが、関係なかった。
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