魔法使いの大三角

大田ネクロマンサー

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第15話 魔法使い鎌倉へ

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日曜日、俺と玲音は朝早く目が覚めた。今日は玲音が俺に絡まっていた。母からもらった魔力がとてつもなく大きかったことを改めて知る。

玲音が俺を見ていた。まだこうしていたい、と目が訴えていた。

「玲音、昨日かーちゃんからお小遣いもらったんだ。今日、2人で鎌倉行くぞ」

玲音は目を見開いてなにか言おうとしたが、顔を見られまいと、俺の胸に顔を埋めた。玲音の体温が上がったのが体から伝わってくる。耳まで真っ赤にしているのを不覚にもかわいいと思ってしまった。玲音の背中を撫でてから俺は起き上がった。

リビングに出ると、母がキッチンで朝食を作っていた。

「かーちゃん、今日、玲音と出かけてくる」

母はこちらを見ずに答えた。

「2人で美味しいものでも食べてきなさい」

遅れてリビングに出てきた玲音が眩しい笑顔で答える。

「食べる食べる食べる食べる!」

俺と母はその眩しさに目を細めてしまった。玲音はキッチンに走り出し母に抱きつく。

「かーちゃん! お小遣いありがとう!」

母は困った顔で俺を見る。俺はそれを見て吹き出してしまった。母に頭を撫でられている玲音を見て、母の言葉を思い出す。

「玲音を必ず守りなさい」

他の魔法使いと接触することの危険性を俺はまだよくわかっていなかった。母の勘はよくあたる。感情表現の激しい玲音をちゃんと制御することはできるだろうか。俺は母と玲音を見ながらそんなことを思った。


朝食を済ませた俺たちはパートに行く母と一緒に家を出た。スマホのアプリで乗り継ぎを確認して玲音と電車に乗り込んだ。

休日の朝の電車は驚くほど空いていて、玲音と他愛もない話をした。それに乗じて玲音に質問をしてみた。

「今は徒歩で登校してるけど、電車通学してた時は、電車の中でなにしてたの?」

「あんまり覚えてないけど、何もしてなかった気がする」

「玲音はスマホとか持ってなかったの?」

「持ったことない。持ってたって誰からも連絡こないし、パソコンなら学校にもあったし」

こんな感じでいろいろ聞いたが、基本的には今のライフスタイルとあまり変わらないようだった。
ただ、いつもと違って話をする玲音も楽しそうだった。

電車を乗り継ぎ横浜で横須賀線に乗り換えると、電車の状況は一変した。朝から鎌倉に向かう人でごった返していた。席に座れなかった俺たちはドアの側で立って鎌倉まで無言になってしまった。

女性の黄色い声が後ろから聞こえる。玲音はドアにもたれかかりながら、外の風景をぼんやり見ていた。男の俺から見ても絵になる風景だった。俺はチベットスナギツネの目になりそうだったが、玲音が俺の視線に気がついて少し笑った。なにを面白がったのかわからなかったが、俺もつられて笑ってしまった。

鎌倉駅に到着した。駅舎の前でこの前の場所をアプリで確認する。目的の場所は駅から近かった。その場所に到着して2人とも立ち止まってしまった。ここからは手探りで探さなければならない。

「玲音、やっぱり何も思い出せない?」

「う……ん」

「じゃあ観光がてら、いろいろまわってみよう!」

俺は玲音の前を歩き出した。鎌倉にはいろいろな寺や公園がある。鎌倉に住んでいて一度もどこの名所にも行かないということは考えられなかった。もしかしたらなにかを思い出すきっかけになるかもしれない。

八幡宮はここから反対方向だったから、別の神社や寺を巡った。本当のところを言うと、少し観光を楽しんでいたが、言い訳するように時々玲音に覚えてないか質問した。

昼頃になってそろそろ飯にしようかと思案していた頃に、懐かしい顔に出会った。

「お、お前! 冬馬か!?」

懐かしい顔は俺を見るなりそう話しかけてくれた。彼は父の保養所で夏休みを過ごす間、毎回遊んでくれた現地のこどもだった。

「航ちゃん! めっちゃイケメンになってる!」

彼は西島航介。俺と同じ年で、寺の跡取り息子だ。仏門に入る前に、全てのことをやり尽くす、そう豪語してた航ちゃんは、どこに出しても恥ずかしくない立派なチャラ男になっていた。宣言通りの遊び人っぷりに清々しさを感じた。

「冬馬は……なんというかそのまま大きくなったな……身長どのくらいあるの?」

「今は175cmくらいかな……? でも最後にあったのもずいぶん前だろ? そりゃ大きくなるよ」

「そっちのイケメンは?」

航ちゃんが俺の後ろに立ってた玲音を横から覗くように見た。

「俺の従者だよ! イケメンだろ? 学校ですげーモテるんだ、な?」

玲音の腕を掴んで俺の横に並ばせた。

「来栖玲音です……」

航ちゃんは目を輝かせて玲音を舐め回すように見る。航ちゃんは立派なチャラ男だが、玲音はいうなれば正統派モテ男だ。

「かっこいいーー! え、いいな冬馬、毎日楽しそう! ナンパの成功率爆上がりだろ! マジで」

「いいだろ? 玲音は女子にモテるだけじゃないんだぞ! この前も学校で大変なこと起こったんだよな?」

俺が同意を求めると、玲音はなんだか恥ずかしそうな顔をしていた。航ちゃんがそれを羨ましそうな目で見てたから、俺は冗談めかして玲音の腰に手を回し、ドヤ顔をした。

「冬馬! 俺のことも紹介しろよ!」

俺は航ちゃんの必死さに思わず吹き出してしまって、笑いながら玲音に航ちゃんのことを紹介した。航ちゃんが、限界まで腰を折り曲げて玲音の前に手を伸ばして握手を求めた。

玲音が手を握ったら、航ちゃんはガバッと上半身を引き上げて言った。

「よろしくな! 玲音!」

玲音は笑って、よろしくと言った。それを見た航ちゃんは舞い上がっていた。俺は航ちゃんのこういう純粋無垢なところが大好きだ。外見は変わっても、そこは変わってなくて本当によかった。

「冬馬、玲音! ご飯まだ食べてないだろ? 我が家で食べてけ!」

「食べる食べる食べる食べる!」

玲音の眩しい笑顔に航ちゃんはまた舞い上がって、電話をかけ始める。俺は遠慮しようか悩んでいたが、航ちゃんの口ぶりで航ちゃんの母も会いたがっていることが伝わってきたので、このまま甘えることにした。

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