14 / 43
第13話 魔法使いと利益の代償
しおりを挟む
日が落ちた。時々、魔法も履行しているから、かなり消耗していた。焦りと疲労で汗だくになっていたが、そんな努力とは無関係に法具には魔力が注げなかった。
いつからいたのか知らないが、俺の後ろから玲音が突然話しかける。
「冬馬、ご飯だって」
俺は振り返る気力もなかった。合わせる顔がなかった、という方が正しいだろうか。
俺は無言のまま、玲音の横を通り過ぎて、家に入った。キッチンにいる母に言う。
「かーちゃん、先に風呂入る。ご飯食べてて」
母は俺になにか言いかけたが、汗だくの俺を見て口をつぐんだ。俺はそのまま風呂に入った。
風呂の中で否応無しに考えてしまう。
なぜ今までこんな大事なことを教えてくれなかったのか、そしてなぜ俺にはできないのか。
でも、今日午後に魔法に向き合ってみて痛感した。
法具なしでの魔法履行ですら、試したことがないのだ。興味が無かった。そのくせ、いざできないとなれば自分の無関心を人のせいにする。自分は、できることしかやってこなかったのに。
自分の思い上がりに喉の奥が焼けるくらいムカムカとした。
法具を作らなければ玲音に電車賃すら渡せない。法具を作ったとしても、陣が引けなければ玲音も連帯責任で外出ができない。
玲音に魔力を送れないばかりか、自分のせいで玲音の自由を奪っていることが腹立たしかった。玲音の法縄を引っ張る資格なんて俺には無いのに自由さえ奪っているんだ。
風呂から上がると、母は洗い物をしていて玲音は食事が終わりリビングで寛いでた。
俺は無言のまま残された夕食を食べ始めた。母が俺の前に座ったので言った。
「今日1個もできなかったから、後でもう少しやってみる」
母は少し考え込んで言う。
「今日は家の陣を引き直すから、もうやめなさい。法具作りも。玲音にも魔力分けないとダメなんだから」
俺はこれを言われるまで、玲音に魔力を分けなければならないことを忘れていた。しかし疲労からか何も考えられずに食事の後片付けをして、俺は自分の部屋のベッドに倒れこんだ。ベッドに寝転んでみると、疲れているのに全然寝付けなかった。魔力は消費しても体力は消費してないからなんだろうか。
なかなか寝付けずにいると、多分玲音が部屋に入ってきた。壁側を向いていて、よくわからなかったが、振り返る気力もなかった。寝たければいつもみたいに乱暴にベッドに入ってくるだろうと思っていたが、今日は違った。
玲音はゆっくりベッドに入り、俺を後ろから抱き寄せた。
玲音は俺のことを心配してくれてるんだ。きっとこんなぐちゃぐちゃな気持ちをわかっているんだ。ただそれが一層苦しくてつい声を漏らしてしまう。
「玲音……ごめんな……」
明日もちゃんと練習するし、法具も作って玲音を鎌倉に行かせる。ただ、今日まで何もしてこなかった自分の甘さを許してもらいたかった。
「冬馬はなんでいつも自分が悪いわけじゃないのに謝るんだ」
玲音はそう言って俺をきつく抱きしめた。
「冬馬、鎌倉一緒に行きたい」
玲音は俺の背中でそう言った。あんなにひた隠しにしてきたのに、俺と行きたいと玲音は言った。多分、俺が陣を引けるまで待ってるとか、そういったことを照れて言えないんだろう。
俺は寝返りをうって、玲音を抱きしめた。
こんな主人として失格の俺へ信頼を寄せてくれている玲音に、また心がぐちゃぐちゃになった。玲音の優しさに、ありがとうとも、不甲斐なくてごめんとも、もう少し待っててとも言えず、関係のないことを言った。
「魔力を玲音に送れるようになったら、もうこうやって一緒に寝れないんだな」
寂しいな。それは流石に恥ずかしくて言えなかった。俺はそのまま眠りに落ちた。
俺は眠りに落ちる時に、自分の胸あたりになにかが流れ込んでくるのがわかった。表現しようがなかったが、暖かく、優しいものだった。多分これは玲音の魔力だ。今日は魔法を履行しすぎて、俺の方が魔力が減ってしまっていたんだ。
本当にごめんな、玲音。
朝起きたら、俺はこれでもかってくらい玲音に絡まってた。自分の所業に小さく悲鳴を上げて、そーっと玲音の顔を見たら、玲音の目はバッチリ開いていた。
「まだ5時だから、もう少し寝れば?」
自分でもわかるくらい狼狽していたが、玲音はそんな俺には構わず頭を抱き寄せた。
俺は恥ずかしかったが、顔を見られたくもなくて、もうこの際とことん甘えるか! ということで玲音の腕の中に顔を埋めた。
魔力を送り込まれるのってこんな感じなんだな。優しくて、暖かくて、少し懐かしい。
玲音にこんな幸福感を与えていたのかと思ったら、昨日までのイライラが少しだけ解消できた。
「ありがとう、玲音。でももう起きるわ」
「あっそ」
玲音は素っ気なく返事して乱暴にベッドから出た。多分玲音も恥ずかしかったんだろう、そう思うと申し訳ないのでせめてもの罪滅ぼしで俺は言った。
「玲音お腹すいただろ? 朝ごはん作ろうか?」
玲音が笑顔で振り向く。
「食べる食べる食べる食べる!」
うーん、朝から眩しい!
俺が朝ごはんをこしらえている間、玲音は洗濯物をしていた。母は6時くらいに起きてきて、玲音のために作った豪華な朝食を、朝から重い、とこぼしながら食べた。
いつからいたのか知らないが、俺の後ろから玲音が突然話しかける。
「冬馬、ご飯だって」
俺は振り返る気力もなかった。合わせる顔がなかった、という方が正しいだろうか。
俺は無言のまま、玲音の横を通り過ぎて、家に入った。キッチンにいる母に言う。
「かーちゃん、先に風呂入る。ご飯食べてて」
母は俺になにか言いかけたが、汗だくの俺を見て口をつぐんだ。俺はそのまま風呂に入った。
風呂の中で否応無しに考えてしまう。
なぜ今までこんな大事なことを教えてくれなかったのか、そしてなぜ俺にはできないのか。
でも、今日午後に魔法に向き合ってみて痛感した。
法具なしでの魔法履行ですら、試したことがないのだ。興味が無かった。そのくせ、いざできないとなれば自分の無関心を人のせいにする。自分は、できることしかやってこなかったのに。
自分の思い上がりに喉の奥が焼けるくらいムカムカとした。
法具を作らなければ玲音に電車賃すら渡せない。法具を作ったとしても、陣が引けなければ玲音も連帯責任で外出ができない。
玲音に魔力を送れないばかりか、自分のせいで玲音の自由を奪っていることが腹立たしかった。玲音の法縄を引っ張る資格なんて俺には無いのに自由さえ奪っているんだ。
風呂から上がると、母は洗い物をしていて玲音は食事が終わりリビングで寛いでた。
俺は無言のまま残された夕食を食べ始めた。母が俺の前に座ったので言った。
「今日1個もできなかったから、後でもう少しやってみる」
母は少し考え込んで言う。
「今日は家の陣を引き直すから、もうやめなさい。法具作りも。玲音にも魔力分けないとダメなんだから」
俺はこれを言われるまで、玲音に魔力を分けなければならないことを忘れていた。しかし疲労からか何も考えられずに食事の後片付けをして、俺は自分の部屋のベッドに倒れこんだ。ベッドに寝転んでみると、疲れているのに全然寝付けなかった。魔力は消費しても体力は消費してないからなんだろうか。
なかなか寝付けずにいると、多分玲音が部屋に入ってきた。壁側を向いていて、よくわからなかったが、振り返る気力もなかった。寝たければいつもみたいに乱暴にベッドに入ってくるだろうと思っていたが、今日は違った。
玲音はゆっくりベッドに入り、俺を後ろから抱き寄せた。
玲音は俺のことを心配してくれてるんだ。きっとこんなぐちゃぐちゃな気持ちをわかっているんだ。ただそれが一層苦しくてつい声を漏らしてしまう。
「玲音……ごめんな……」
明日もちゃんと練習するし、法具も作って玲音を鎌倉に行かせる。ただ、今日まで何もしてこなかった自分の甘さを許してもらいたかった。
「冬馬はなんでいつも自分が悪いわけじゃないのに謝るんだ」
玲音はそう言って俺をきつく抱きしめた。
「冬馬、鎌倉一緒に行きたい」
玲音は俺の背中でそう言った。あんなにひた隠しにしてきたのに、俺と行きたいと玲音は言った。多分、俺が陣を引けるまで待ってるとか、そういったことを照れて言えないんだろう。
俺は寝返りをうって、玲音を抱きしめた。
こんな主人として失格の俺へ信頼を寄せてくれている玲音に、また心がぐちゃぐちゃになった。玲音の優しさに、ありがとうとも、不甲斐なくてごめんとも、もう少し待っててとも言えず、関係のないことを言った。
「魔力を玲音に送れるようになったら、もうこうやって一緒に寝れないんだな」
寂しいな。それは流石に恥ずかしくて言えなかった。俺はそのまま眠りに落ちた。
俺は眠りに落ちる時に、自分の胸あたりになにかが流れ込んでくるのがわかった。表現しようがなかったが、暖かく、優しいものだった。多分これは玲音の魔力だ。今日は魔法を履行しすぎて、俺の方が魔力が減ってしまっていたんだ。
本当にごめんな、玲音。
朝起きたら、俺はこれでもかってくらい玲音に絡まってた。自分の所業に小さく悲鳴を上げて、そーっと玲音の顔を見たら、玲音の目はバッチリ開いていた。
「まだ5時だから、もう少し寝れば?」
自分でもわかるくらい狼狽していたが、玲音はそんな俺には構わず頭を抱き寄せた。
俺は恥ずかしかったが、顔を見られたくもなくて、もうこの際とことん甘えるか! ということで玲音の腕の中に顔を埋めた。
魔力を送り込まれるのってこんな感じなんだな。優しくて、暖かくて、少し懐かしい。
玲音にこんな幸福感を与えていたのかと思ったら、昨日までのイライラが少しだけ解消できた。
「ありがとう、玲音。でももう起きるわ」
「あっそ」
玲音は素っ気なく返事して乱暴にベッドから出た。多分玲音も恥ずかしかったんだろう、そう思うと申し訳ないのでせめてもの罪滅ぼしで俺は言った。
「玲音お腹すいただろ? 朝ごはん作ろうか?」
玲音が笑顔で振り向く。
「食べる食べる食べる食べる!」
うーん、朝から眩しい!
俺が朝ごはんをこしらえている間、玲音は洗濯物をしていた。母は6時くらいに起きてきて、玲音のために作った豪華な朝食を、朝から重い、とこぼしながら食べた。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説

フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

【完結】初恋は、
は
BL
アンダーグラウンドで活躍している顔良しスタイル良しの天才ラッパー、雅。しかしいつもお決まりの台詞で彼女にフラれてしまっていたのだが、ある日何の気なしに訪れた近くのカフェで、まさかのまさか、一人の男性店員に一目惚れをしてしまうのだった。
ラッパー×カフェ店員の、特に何も起こらないもだもだほっこり話です。
※マークは性表現がありますのでお気をつけください。
2022.10.01に本編完結。
今後はラブラブ恋人編が始まります。
2022.10.29タイトル変更しました。
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
お弁当屋さんの僕と強面のあなた
寺蔵
BL
社会人×18歳。
「汚い子」そう言われ続け、育ってきた水無瀬葉月。
高校を卒業してようやく両親から離れ、
お弁当屋さんで仕事をしながら生活を始める。
そのお店に毎朝お弁当を買いに来る強面の男、陸王遼平と徐々に仲良くなって――。
プリンも食べたこと無い、ドリンクバーにも行った事のない葉月が遼平にひたすら甘やかされる話です(*´∀`*)
地味な子が綺麗にしてもらったり幸せになったりします。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト
春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。
クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。
2024.02.23〜02.27
イラスト:かもねさま

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
たまにはゆっくり、歩きませんか?
隠岐 旅雨
BL
大手IT企業でシステムエンジニアとして働く榊(さかき)は、一時的に都内本社から埼玉県にある支社のプロジェクトへの応援増員として参加することになった。その最初の通勤の電車の中で、つり革につかまって半分眠った状態のままの男子高校生が倒れ込んでくるのを何とか支え抱きとめる。
よく見ると高校生は自分の出身高校の後輩であることがわかり、また翌日の同時刻にもたまたま同じ電車で遭遇したことから、日々の通勤通学をともにすることになる。
世間話をともにするくらいの仲ではあったが、徐々に互いの距離は縮まっていき、週末には映画を観に行く約束をする。が……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる