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第12話 魔法使いと目先の利益
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午後は俺だけの実技になった。我が家のなけなしの庭で母と2人で実技講習だ。
「冬馬、今法具持ってる?」
母は聞いたが持っていなかったので首を振った。
「じゃあ、とりあえず、なにか魔法を履行してみなさい。家は陣を引いているから大丈夫よ」
「え!? 法具なしで!? しきたりとかで禁止されてるんじゃないの?」
12歳の時に魔法の履行方法は教わったが、法具を使ってというのが条件だと思っていた。
「それは冬馬の趣味が法具作りだったからであって、12歳の時に履行は許可されてるじゃない。別に法具がなくても魔法は履行できるのよ?」
法具がなくても魔法が履行できることは知っている。じゃあ法具ってなんの意味があるんだよ……!
俺は魔法を履行し、炎を出した。自分で勘違いしてたことがすぐわかるくらい、法具なしで魔法は履行できた。ただ、法具がある時よりもずっと、疲れた。
昨日、最後の魔石が砂になった時、もうダメだと思った自分が、本気で馬鹿みたいに思えた。
「なんでこんな大事なこともっとはやく教えてくれないんだよ!」
今まで厨二に向けて作ってきた俺の法具ブランディングが一気に覆るじゃねーか!
「12歳の時にちゃんと履行方法を教えたじゃない……」
母の困惑ぶりに、自分だけが勘違いしてたことを思い知る。マジで法具作りのマーケティングを見直さなければ……心の底からそう思った。
次に、母は魔石だけの簡単な法具を出して俺に手渡した。まず自分の周りだけを囲むように指示されたので、俺は足元に3つ法具を置いた。
「魔法を履行する感覚で、自分の周りの法具に魔力を入れなさい。思い浮かべるのは、火でも氷でも水でもなんでもいいわよ」
そう言われたので、俺は火をイメージして魔法を履行した。法具が普通に燃え上がった。
「冬馬、これ玲音だったら丸焼きになってるわよ」
俺が玲音に魔力を送れないと知った母が早々に切り上げた理由がよくわかった。
俺は無言で別の法具に集中した。火だと法具燃えちゃうから次は水魔法をイメージする。だが期待に漏れず、法具をビッチャビチャにした。
母は見かねて言う。
「もう少しゆっくり履行するようにやってみたら?」
俺はゆっくりと魔法を履行するイメージで、再度トライした。さっきのように魔法は履行されなかったが、法具に魔力が宿っているとは思えなかった。
「玲音に魔力を送れない時にも言おうと思ったんだけど……魔法を履行するより、陣を引くことの方が難しいのよ。基本となる魔法の履行が行えないと陣を引くこともできないし」
母がやってみればわかると言っていたのはこういうことだったのか。ただ、どうにも納得できないことがある。俺は陣に魔力を注ぎながら聞いた。
「でも、かーちゃん、陣地以外で魔法を使うなとは1回も言わなかったじゃないか」
魔法が履行できてからじゃないと陣を引けないことも、難しいこともわかった。ただ、口で注意することはできるだろう、と思った。今まで魔法も法具作りも外でやるなと言われた記憶はない。あんな制裁を加えられるなら、真っ先に教えてほしいわ。
「それもそうね、それはお母さんが悪かったわ。冬馬は魔法を使うことを恥ずかしがってると思ってたから。使ったならばその時に言えばいい、そのくらいにしか思ってなかった」
恥ずかしいというか、確かに法具作りも、魔法も……なんとなく使い所がわからなかったし、面倒なことだとしか思ってなかったけど……。
「全然ダメみたいだから、ちょっとお母さんがやってるのを見て」
母はそう言って、法具を3つ母の足元に置いた。そして陣を引いた。
「冬馬は今1つの法具に魔力を入れようとしているけど、基本は最低3つ同時に魔力を注ぐのよ。冬馬から見てどんな風に見えてる?」
言われてみて、この時まで陣の外からなにかを見たことがなかったことに気がついた。それは不思議な光景だった。
母がいるという認識があるから、そこに人がいるということはわかるが、なんというか、抽象的だった。母だと認識することができなかった。この時、玲音の夢で見た男の顔が真っ黒に塗りつぶされていたことを思い出し、やっぱりあれは前の契約者なんだ、と納得した。
「陣を引くと魔法が漏れ出さないようになるだけじゃないんだね」
「そう。ちょっとお母さん今から強めのを出すわよ」
母はそう言って、水の魔法を履行した。すると陣が破れて水が飛び出した。そして法具が砂になって母も認識できるようになった。
「陣の法具に入れた魔力以上の魔法を履行すると、こうやって陣は無効になってしまう。広さにも関係するし、この辺の配分が難しいのよね」
母は毎日家に陣を引いているが、今の自分にはどれだけの魔力を使うものなのか見当もつかなかった。自分の履行するであろう魔法の魔力を計算して陣を引かなければならない……確かにこれは魔法を履行することの上位互換だと感じた。
「冬馬も法具を作ってるからわかると思うけど、法具自体の魔力で陣を引く時の魔力を封じ込めてるのよ。魔法は法具がなくても履行できるけど、陣を引く時だけは法具が無ければ意味がない」
魔力が漏れ出すのを防ぐのに、陣を引く時の魔力が漏れ出したら意味がないということなのだろう。魔法とは関係のない戦術的な話だった。
法具を作っているのに、俺は今まで利用用途を深く考えたことがなかった。12歳から魔法履行を許可されてからこのかた、法具は魔力の電池くらいにしか思ってなかった。
「ここから先は、もう練習あるのみだから、陣が引けたらお母さんを呼びなさい」
そう言って母は新しい魔石を俺に渡して、家に入ってしまった。俺はこの後夕方まで粘った。時々魔法を履行したりして感覚をつかもうとしたが、魔力だけを浪費するだけで、ただの1つさえ法具に魔力を入れることができなかった。
俺は12歳からまともに魔法を使ってこなかった。
魔法のしきたりというのは12歳以降、16歳で従者契約可能ということ以外特に何もなかった。12歳で魔法履行できるようになり、16歳の頃までには魔力を送り込むことを覚え、陣を引くことが可能になっているのだろう。誰が考えたか知らないが、よくできたしきたりだった。
そして今、俺は玲音に魔力を送り込むことすらできない。
父の遺言とはいえ、魔法に向き合わないまま従者契約をしようとした自分をとても無責任に感じ、そして目の前の小遣い稼ぎに無駄な労力を使ってきたことをひどく後悔した。一向に魔力の入らない法具が、自分の無責任さと浅ましさを写しているようで、気持ちが深く沈んだ。
「冬馬、今法具持ってる?」
母は聞いたが持っていなかったので首を振った。
「じゃあ、とりあえず、なにか魔法を履行してみなさい。家は陣を引いているから大丈夫よ」
「え!? 法具なしで!? しきたりとかで禁止されてるんじゃないの?」
12歳の時に魔法の履行方法は教わったが、法具を使ってというのが条件だと思っていた。
「それは冬馬の趣味が法具作りだったからであって、12歳の時に履行は許可されてるじゃない。別に法具がなくても魔法は履行できるのよ?」
法具がなくても魔法が履行できることは知っている。じゃあ法具ってなんの意味があるんだよ……!
俺は魔法を履行し、炎を出した。自分で勘違いしてたことがすぐわかるくらい、法具なしで魔法は履行できた。ただ、法具がある時よりもずっと、疲れた。
昨日、最後の魔石が砂になった時、もうダメだと思った自分が、本気で馬鹿みたいに思えた。
「なんでこんな大事なこともっとはやく教えてくれないんだよ!」
今まで厨二に向けて作ってきた俺の法具ブランディングが一気に覆るじゃねーか!
「12歳の時にちゃんと履行方法を教えたじゃない……」
母の困惑ぶりに、自分だけが勘違いしてたことを思い知る。マジで法具作りのマーケティングを見直さなければ……心の底からそう思った。
次に、母は魔石だけの簡単な法具を出して俺に手渡した。まず自分の周りだけを囲むように指示されたので、俺は足元に3つ法具を置いた。
「魔法を履行する感覚で、自分の周りの法具に魔力を入れなさい。思い浮かべるのは、火でも氷でも水でもなんでもいいわよ」
そう言われたので、俺は火をイメージして魔法を履行した。法具が普通に燃え上がった。
「冬馬、これ玲音だったら丸焼きになってるわよ」
俺が玲音に魔力を送れないと知った母が早々に切り上げた理由がよくわかった。
俺は無言で別の法具に集中した。火だと法具燃えちゃうから次は水魔法をイメージする。だが期待に漏れず、法具をビッチャビチャにした。
母は見かねて言う。
「もう少しゆっくり履行するようにやってみたら?」
俺はゆっくりと魔法を履行するイメージで、再度トライした。さっきのように魔法は履行されなかったが、法具に魔力が宿っているとは思えなかった。
「玲音に魔力を送れない時にも言おうと思ったんだけど……魔法を履行するより、陣を引くことの方が難しいのよ。基本となる魔法の履行が行えないと陣を引くこともできないし」
母がやってみればわかると言っていたのはこういうことだったのか。ただ、どうにも納得できないことがある。俺は陣に魔力を注ぎながら聞いた。
「でも、かーちゃん、陣地以外で魔法を使うなとは1回も言わなかったじゃないか」
魔法が履行できてからじゃないと陣を引けないことも、難しいこともわかった。ただ、口で注意することはできるだろう、と思った。今まで魔法も法具作りも外でやるなと言われた記憶はない。あんな制裁を加えられるなら、真っ先に教えてほしいわ。
「それもそうね、それはお母さんが悪かったわ。冬馬は魔法を使うことを恥ずかしがってると思ってたから。使ったならばその時に言えばいい、そのくらいにしか思ってなかった」
恥ずかしいというか、確かに法具作りも、魔法も……なんとなく使い所がわからなかったし、面倒なことだとしか思ってなかったけど……。
「全然ダメみたいだから、ちょっとお母さんがやってるのを見て」
母はそう言って、法具を3つ母の足元に置いた。そして陣を引いた。
「冬馬は今1つの法具に魔力を入れようとしているけど、基本は最低3つ同時に魔力を注ぐのよ。冬馬から見てどんな風に見えてる?」
言われてみて、この時まで陣の外からなにかを見たことがなかったことに気がついた。それは不思議な光景だった。
母がいるという認識があるから、そこに人がいるということはわかるが、なんというか、抽象的だった。母だと認識することができなかった。この時、玲音の夢で見た男の顔が真っ黒に塗りつぶされていたことを思い出し、やっぱりあれは前の契約者なんだ、と納得した。
「陣を引くと魔法が漏れ出さないようになるだけじゃないんだね」
「そう。ちょっとお母さん今から強めのを出すわよ」
母はそう言って、水の魔法を履行した。すると陣が破れて水が飛び出した。そして法具が砂になって母も認識できるようになった。
「陣の法具に入れた魔力以上の魔法を履行すると、こうやって陣は無効になってしまう。広さにも関係するし、この辺の配分が難しいのよね」
母は毎日家に陣を引いているが、今の自分にはどれだけの魔力を使うものなのか見当もつかなかった。自分の履行するであろう魔法の魔力を計算して陣を引かなければならない……確かにこれは魔法を履行することの上位互換だと感じた。
「冬馬も法具を作ってるからわかると思うけど、法具自体の魔力で陣を引く時の魔力を封じ込めてるのよ。魔法は法具がなくても履行できるけど、陣を引く時だけは法具が無ければ意味がない」
魔力が漏れ出すのを防ぐのに、陣を引く時の魔力が漏れ出したら意味がないということなのだろう。魔法とは関係のない戦術的な話だった。
法具を作っているのに、俺は今まで利用用途を深く考えたことがなかった。12歳から魔法履行を許可されてからこのかた、法具は魔力の電池くらいにしか思ってなかった。
「ここから先は、もう練習あるのみだから、陣が引けたらお母さんを呼びなさい」
そう言って母は新しい魔石を俺に渡して、家に入ってしまった。俺はこの後夕方まで粘った。時々魔法を履行したりして感覚をつかもうとしたが、魔力だけを浪費するだけで、ただの1つさえ法具に魔力を入れることができなかった。
俺は12歳からまともに魔法を使ってこなかった。
魔法のしきたりというのは12歳以降、16歳で従者契約可能ということ以外特に何もなかった。12歳で魔法履行できるようになり、16歳の頃までには魔力を送り込むことを覚え、陣を引くことが可能になっているのだろう。誰が考えたか知らないが、よくできたしきたりだった。
そして今、俺は玲音に魔力を送り込むことすらできない。
父の遺言とはいえ、魔法に向き合わないまま従者契約をしようとした自分をとても無責任に感じ、そして目の前の小遣い稼ぎに無駄な労力を使ってきたことをひどく後悔した。一向に魔力の入らない法具が、自分の無責任さと浅ましさを写しているようで、気持ちが深く沈んだ。
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