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第10話 つおい魔法使いのパートおばさん

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母の放った魔法は火力が異次元だった。野焼のやきで何ヘクタールも一瞬で燃やせるほどの炎。それにビビってたら玲音が再び走り出した。

俺は咄嗟とっさに玲音の後ろから火と氷で援護攻撃をして、玲音を風魔法で加速させた。母は火力だから、俺は手数くらいしかない。

人間の方は母の魔法に気を取られ、俺の魔法と玲音に対応が遅れた。そして母の強大な炎は不履行ふりこうにするには足りないと思ったのだろう、母の魔法を遅延させながら、俺の攻撃を交わす。玲音がバールを振り下ろし、人間はバランスを崩して後ろに仰け反った。

そこに母の炎が化け物にクリーンヒットする。……だが化け物は焼けなかった。

人間は再び玲音を吹き飛ばして言った。

「お前……ご主人様はどこに行った」

玲音はそれに答えず走り出す。
俺も必死で援護する、母が俺の横に着地した。母が風魔法をかけて玲音がとんでもない加速をする。そのまま母は続けざまにとんでもない手数の攻撃魔法を繰り出した。

玲音は俺の放った魔法よりも早く到達し、バールで殴りかかる。当たったようにも見えるが、全然倒れない。その後ろに俺と母の魔法が迫っていた。玲音は地面を蹴って横に飛びそれを避けた。

魔法が人間に襲いかかる。
しかしそれらは全て無効化された。

俺の魔石ませきが壊れた。魔石の砂がハラハラと俺の足元に落ちていく。
もうダメだ、そう思った時、玲音が叫んだ。

「かーちゃん!!」

声の方を見ると、玲音が人間の首をバールで締め上げている。びっくりしてかーちゃんの方を見ると、とんでもない火力の魔法を放った。

玲音!

そう思って咄嗟に法縄ほうじょうを横に引いた。玲音はしばらく人間にしがみついていたが、バールを投げ出し、両手で首をおさえながら横に引っ張られる。

あわやというところで、母の魔法が一部遅延しながらも人間に履行される。全部は防ぎきれなかったようで、ローブが焼けた。

焼け落ちるローブから中の人間が垣間見える。結構若い男だった。

化け物はその時に咆哮ほうこうし、母のじんが破られ、化け物はそのまま消えた。

そして人間は言った。

「変わったパーティー構成だけど、特になんの意味もないみたいだね」

謎の言葉を残し、人間はそのままきびすを返して帰っていった。母は追いかけなかった。

俺は玲音のところに駆け寄る。どこも焼けてなかった。思わず玲音を抱き寄せて怒鳴った。

「なんであんな危ないことするんだよ!!」

君たち本当、どういう世界観に生きてるの!?
俺は終始、恐怖しかなかった。生まれてこのかた魔法なんてまともに使ったことない俺にとって、母と玲音の戦い方は異常だった。
あんな火力の魔法使うパートのおばちゃんいるか!? 3階から躊躇なく飛び降りてバールで化け物に立ち向かう奴いるか!?

母が歩いてきて、俺と玲音の前に立った。俺は思わず叫んだ。

「かーちゃんも! さっきの玲音に当たったらどうするつもりだったんだよ!」

「そんなことよりあんたたち、教室にバレないように戻って、早退してきなさい」

そんなことなの!? 君ら本当に未来に生きてるな!

「お母さん、パート戻って早退してくるから、必ずまっすぐ家に帰りなさい。2人で、必ず」

そう言って母が俺に法具を手渡した。俺が作ったものではない法具だった。俺は、本当に緊急事態なんだなと感じた。

「玲音、立てるか?」

玲音は頷いて立ち上がった。

「そういえばさっきのバール的なものは?」

玲音と母が、はぁ? って顔で見ている。
いやいやいや、こんなに主人公置いてけぼりの話ってある? っていうかこれって君らが主役なの?

「あれは使い捨てだ。冬馬、行くぞ」

いや、俺が聞きたいのはバールの行方ではない。なんであんなものが俺から出てきたか、なんだが!! 俺はお前のロッカーじゃないんだぞ! 質問を受け付けない速度で玲音が歩き出したので、俺も玲音と教室に戻った。

教室に戻ったら、思った以上に大混乱で、俺たちがいなくなったことも、俺たちが戻ったことも、誰も気にしていなかった。それに、誰もあの化け物の話をしていなかった。見たところで理解ができるわけがなかった。魔法使いの俺ですら理解ができてないんだから。

俺の服がビリビリになっていたので、早退の件は難なく受け入れられた。というか全員帰宅を推奨していた。教室の割れた窓を見て、さっきそこから飛び出していったんだと思うと少し身震いした。そしてそれが呼び水になって、さっきまでの現実離れした光景と恐怖が湧き出してきた。

玲音はそれに気づいたのか、俺の腕を掴んで、帰宅を促した。

玲音と家に帰ったら、母は既に帰宅していた。

「2人とも着替えたらちょっとそこに座りなさい」

母が静かに言った。
俺たちは着替える途中、無言だった。玲音に心当たりはあるのか何度も聞こうとしたが、今朝の件もあって、何も聞けなかった。

リビングに家族が集まった。そして母が言う。

「冬馬、学校で午前中なにかやってたの」

おおおおおおお俺!?
内職してたのバレてる!?
っていうか外で法具作るのダメなの!?

「法具作ってただけだよ、みんなにバレないようにやってたよ!」

質問の真意がわからないので、ついつい言い訳してしまう。
母はため息をつく。

「なんで今まで家でしかやらなかったのに、今日は学校でやったの」

それは……そう言おうとして言葉を飲んだ。それは、母にも、玲音にも伝わったんだと思う。

「2人ともお母さんに隠してることあるんじゃない?」

俺だけではなく、2人とも、と母は言った。

家には陣が引いてあり、そして今日母が駆けつけた時真っ先に陣を引いた。陣地外で魔法を使うことがこんな大ごとになるとは思ってなかった。そして法具を作ることも魔法の一種だという認識がなかった。長い沈黙が部屋の空気をどんどん重くしていた。この重さに耐えきれず口を開いた。

「かーちゃん、ごめん、俺の認識不足だった。お小遣い欲しさに……」

「冬馬は黙ってなさい。玲音、今日の冬馬見てわかったでしょ。魔法で戦ったこともないのよ。そういう訓練をしてないの。そんな冬馬を危険に晒しているのよ」

この時なぜだか俺の胸がきゅうっと締め付けられた。なんでだか本当にわからなかった。
玲音は答えなかった。答えない理由は十分に理解していたので、俺はなんとか切り抜ける方法を考えた。でも浮かんでくるのはいろんな疑問だけで、この疑問をぶつけてもお茶を濁すことしかできないと思った。打つ手が無くて再び長い沈黙が続いた。

「もうわかったわ。年頃だし、全部をお母さんに言ってもらえないのもわかる。でもこれから言うことはちゃんと理解して、そしてちゃんと守って」

俺と玲音は母の妥協にびっくりして顔を上げた。

「まず、お母さんは心配してるの。冬馬だけじゃなく、玲音、あなたのことも。どっちかだけじゃない、どっちも心配なの」

ここでなんか本当に息苦しくなるほど胸が痛くなった。なんか本当に病気なんじゃないだろうか。そう思えるくらい意味不明な現象だった。

「なにを隠してるのかわからないけど、必ず冬馬と一緒に行動しなさい。冬馬をほっぽり出して1人で行動した時、今日みたいなことになったら、確実に冬馬は死ぬ。それは今日のことでよくわかったでしょ」

え……お、俺死んじゃうの!? 俺もう1人だと生きられないの? 思わず玲音を見たが、玲音は母から目を背けなかった。

「どっちかが1人でこの家に帰ってくることは絶対に許さない。必ず2人で帰ってくること、これだけは絶対に守りなさい。あなたの忠義にかけて」

さっきからじわじわ痛んでる胸がマックスで痛くなってきた。ちょっとこりゃあかんかもわからん。ついでに母の言ってることもよくわからなかった。

「はい」

玲音がまっすぐ母に返事をした。ここで胸の痛みがすっと無くなった。なんなんだこれ、マジで死ぬのか、俺。

「それと冬馬、ちょっとお母さん甘やかし過ぎてた。いくらなんでもあれはないわ」

突然の母のディスりにビビる。いや、なんか今まで魔法使うな雰囲気出してたじゃないですか! 俺がへっぽこみたいな言い方おかしくないですか!?

「これから、冬馬に特別短期講習をするからそれまで2人とも外出禁止よ」

な……なんだよそのキャッチーなネーミング……。

「はい」

玲音が返事する。いや、なんで玲音が返事するの? おかしいでしょ、みんなで外堀固めて、元はといえば玲音のせいでしょ? 全部俺のせいなの?

おかしいでしょ、何度も心で叫びながら大家族会議は終了した。

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