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第5話 魔法使いと従者のスクールカースト
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あれから1ヶ月。
放課後の教室、俺のクラスは3階である。女子生徒が窓のそばでキャッキャ言ってる。女子の視線の先にいるのは、玲音だ。玲音は部活の助っ人として時々放課後スポーツに参加している。
玲音はモテた。
俺の腕を噛みちぎるくらいは身体能力が高い。スクールカーストの上位はいつの時代もスポーツマンだ。
そして勉強もできた。
高校の編入というのは試験がある。冷静に考えれば玲音だって試験を受けていたのだ。
童顔の甘いルックスも相まって転校初日一気に女子生徒の話題の中心となった。
女子達がスクールカーストジョック枠の玲音に熱い眼差しを向けている後ろから、ギーグ枠の俺がチベットスナギツネのような眼差しで女子達を見ている。
こういう光景に出くわすたびに、学校初日の朝を思い出して変な汗が滲む。あの日、玲音は連日の拘束で磨耗し、普通に休みたかっただけなのかもしれない。そんなことにも考えが至らず、したり顔で玲音に説教した自分を思い出すと、恥ずかしさで枕に顔を埋めて手足バタバタしたくなる。
廊下からバタバタ駆け寄ってくる音がして、女子達が色めきたつ。
「おい、冬馬! 帰るぞ!」
あ……はい。小さく返事してギーグ枠の俺は静かに席を立つ。
玲音と下駄箱まで来たところで、1人の女子生徒がもじもじしながら玲音を呼び止めた。俺は法縄を握りしめる。それを見て玲音は止まった。
「あ……あの……!」
女子生徒が意を決して口を開いたそばから、玲音が被せて言う。
「ボクニハ、ホカにスきなヒト、イマす」
「まだ女子が何も言ってないだろうがぁぁあああああっ!」
心の声がナチュラルにはみ出してしまった。
「ゴメンナサイ」
玲音が、女子と俺にカタコトの言葉で謝った。女子は涙目で走り去っていった。
玲音が溜め息をつく。俺は法縄をしまった。
ま、まあ上出来だったと思う。
初めて俺が見かけた告白は、凄惨な事件だった。告白してきた女の子が粘り強いアプローチで、無視する玲音に食らいついていた。痺れを切らした玲音が女の子に歯茎を見せて汚く罵ったところを俺が法縄で制し、玲音は吐いた。カオスである。
別に玲音がイカれた野郎だと噂されるのは一向に構わないが、女の子があまりにもかわいそうなので俺が教育を施した。その結果がアレである。
「もういいだろ、冬馬」
玲音が靴に履き替え歩き出す。俺は玲音に続いて歩き出した。
玲音と俺は同じクラスになった。学校では親戚の子だということで通している。クラスで玲音は誰とも話さない。別に俺とも話すことは無いのだが、昼休みは俺の席で一緒に母の作った弁当を食い、帰りはこうやって毎日迎えにくる。
体育の授業で発揮する玲音の身体能力に着眼した運動部員から部活の助っ人が舞い込むと、玲音は必ず、冬馬がいいって言うならやる、と言う。そのため、俺は玲音の部活助っ人窓口になっていた。窓口を担当している手前、俺も玲音を置いて帰れないのである。一度置いて帰ったら、もう2度と部活を手伝わないと本気で怒られたからだ。殺されるかと思った。
玲音が振り返って言う。
「今日、かーちゃんパート遅番だから、冬馬が米といどけよ!」
玲音も俺にならい母をかーちゃんと呼ぶようになった。そして母がそう呼ぶから、お互いも名前で呼びあう。
「わかってるって」
玲音は口は悪いが、いい子だった。従順というのだろうか。部活の助っ人の件も俺の顔を立ててくれてるんだろう。家でも気を使ってか家事をテキパキこなし、母から感謝をされている。ただその結果、学校でスクールカースト上位に君臨し、家でも存在感が大きい。別に俺の居場所がなくなるわけではないけど……なんか、主人とはなんなのだろう、と時々虚しくなる……。
しかし、これは贅沢な悩みだ。玲音がきた時の絶望感から比べると、心はだいぶ平穏になった。
勝手に帰って怒られたり、女の子の扱いで怒ったり、家事を分担したり、こうやって歩み寄って日常を取り戻していくんだな、そういう幸福な納得が、俺の心を平穏にしていた。
「玲音! お腹すいただろ、肉まん買ってく?」
後ろから玲音に言うと、玲音が笑顔で振り向く。
「食べる食べる食べる食べる!!!」
ピュアホワイト! 眩しい!
「1個だけだからな」
俺は少し照れて顔を反らした。
肉まんを食べながら歩く2人の影が、夕焼けで長くのびている。それを辿って俺たちは家に帰った。
放課後の教室、俺のクラスは3階である。女子生徒が窓のそばでキャッキャ言ってる。女子の視線の先にいるのは、玲音だ。玲音は部活の助っ人として時々放課後スポーツに参加している。
玲音はモテた。
俺の腕を噛みちぎるくらいは身体能力が高い。スクールカーストの上位はいつの時代もスポーツマンだ。
そして勉強もできた。
高校の編入というのは試験がある。冷静に考えれば玲音だって試験を受けていたのだ。
童顔の甘いルックスも相まって転校初日一気に女子生徒の話題の中心となった。
女子達がスクールカーストジョック枠の玲音に熱い眼差しを向けている後ろから、ギーグ枠の俺がチベットスナギツネのような眼差しで女子達を見ている。
こういう光景に出くわすたびに、学校初日の朝を思い出して変な汗が滲む。あの日、玲音は連日の拘束で磨耗し、普通に休みたかっただけなのかもしれない。そんなことにも考えが至らず、したり顔で玲音に説教した自分を思い出すと、恥ずかしさで枕に顔を埋めて手足バタバタしたくなる。
廊下からバタバタ駆け寄ってくる音がして、女子達が色めきたつ。
「おい、冬馬! 帰るぞ!」
あ……はい。小さく返事してギーグ枠の俺は静かに席を立つ。
玲音と下駄箱まで来たところで、1人の女子生徒がもじもじしながら玲音を呼び止めた。俺は法縄を握りしめる。それを見て玲音は止まった。
「あ……あの……!」
女子生徒が意を決して口を開いたそばから、玲音が被せて言う。
「ボクニハ、ホカにスきなヒト、イマす」
「まだ女子が何も言ってないだろうがぁぁあああああっ!」
心の声がナチュラルにはみ出してしまった。
「ゴメンナサイ」
玲音が、女子と俺にカタコトの言葉で謝った。女子は涙目で走り去っていった。
玲音が溜め息をつく。俺は法縄をしまった。
ま、まあ上出来だったと思う。
初めて俺が見かけた告白は、凄惨な事件だった。告白してきた女の子が粘り強いアプローチで、無視する玲音に食らいついていた。痺れを切らした玲音が女の子に歯茎を見せて汚く罵ったところを俺が法縄で制し、玲音は吐いた。カオスである。
別に玲音がイカれた野郎だと噂されるのは一向に構わないが、女の子があまりにもかわいそうなので俺が教育を施した。その結果がアレである。
「もういいだろ、冬馬」
玲音が靴に履き替え歩き出す。俺は玲音に続いて歩き出した。
玲音と俺は同じクラスになった。学校では親戚の子だということで通している。クラスで玲音は誰とも話さない。別に俺とも話すことは無いのだが、昼休みは俺の席で一緒に母の作った弁当を食い、帰りはこうやって毎日迎えにくる。
体育の授業で発揮する玲音の身体能力に着眼した運動部員から部活の助っ人が舞い込むと、玲音は必ず、冬馬がいいって言うならやる、と言う。そのため、俺は玲音の部活助っ人窓口になっていた。窓口を担当している手前、俺も玲音を置いて帰れないのである。一度置いて帰ったら、もう2度と部活を手伝わないと本気で怒られたからだ。殺されるかと思った。
玲音が振り返って言う。
「今日、かーちゃんパート遅番だから、冬馬が米といどけよ!」
玲音も俺にならい母をかーちゃんと呼ぶようになった。そして母がそう呼ぶから、お互いも名前で呼びあう。
「わかってるって」
玲音は口は悪いが、いい子だった。従順というのだろうか。部活の助っ人の件も俺の顔を立ててくれてるんだろう。家でも気を使ってか家事をテキパキこなし、母から感謝をされている。ただその結果、学校でスクールカースト上位に君臨し、家でも存在感が大きい。別に俺の居場所がなくなるわけではないけど……なんか、主人とはなんなのだろう、と時々虚しくなる……。
しかし、これは贅沢な悩みだ。玲音がきた時の絶望感から比べると、心はだいぶ平穏になった。
勝手に帰って怒られたり、女の子の扱いで怒ったり、家事を分担したり、こうやって歩み寄って日常を取り戻していくんだな、そういう幸福な納得が、俺の心を平穏にしていた。
「玲音! お腹すいただろ、肉まん買ってく?」
後ろから玲音に言うと、玲音が笑顔で振り向く。
「食べる食べる食べる食べる!!!」
ピュアホワイト! 眩しい!
「1個だけだからな」
俺は少し照れて顔を反らした。
肉まんを食べながら歩く2人の影が、夕焼けで長くのびている。それを辿って俺たちは家に帰った。
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