5 / 43
第4話 魔法使い稼業は越境EC
しおりを挟む
朝から意味がわからなかった。
まずベッドで寝ていること。いや、もはやそんなことはどうでもいい。
問題なのは身動きがとれないほど、来栖君が俺に絡まっていることだ。
昨日の大惨劇からどうしてこうなった……。
しばらく硬直していたが、流石にトイレに行きたくなって、少し上半身を起こしたら、来栖君は絡めてた手や足を引き寄せて言う。
「まだ……足りない……」
ちょっと待って来栖君、え? なんなの!? っていうか昨日の記憶無いんだけど!!!
「あらあら、すっかり仲良くなって! 朝ごはんよー!」
母の声で急に恥ずかしくなって、来栖君を引き剥がし、リビングに向かった。急に動いたからか、腕がジンジン痛んだ。母は朝っぱらから宅配便の受け取りをしていた。ぼんやり玄関を見るとゴツめの段ボールが2箱届いている。ダンボールの中から俺の学校の制服を取り出し、母はそれを持ってルンルンと俺の部屋に向かう。それを横目に俺はトイレに向かった。
俺はトイレの中で昨日、母と台車を引いて帰った時のことを思い出した。
母は来栖君の身の上は知らなかったが、従者については簡単に教えてくれた。
そもそも魔法使いは血統でなるものではない。
どちらかといえば後天的な鍛錬で魔力が増幅し、魔力がある一定を超えると魔法を使えるようになる。
ただ、魔力の下限と上限は先天的な要因の方が大きい。アレルギーに似ている、そう母は言った。アレルギーは上限が低いと発動するが、魔力は下限の方が問題で、あまりに下限が低い人は、短命になりやすいのだ。
普通の人は下限も上限も中央に近いところにあるので、魔力とは無縁で生きられる。
しかし時々、生命を維持できないほど下限が低い人がいる。こういう人たちを従者として迎え入れるらしい。
従者は主人との排他的な契約により、下限を底上げする。その代わりに主人に仕える。契約で上がった下限は契約を解除しても戻らない、本当の意味での底上げだ。
ただの人助けなのかと思ったら、そう簡単な話では無いらしい。下限の低い人は上限が高いことが多く、魔法使いはこの器に魔力を注いで発動できることから、従者を従えるそうだ。
そして法縄は魔力を従者に送るパイプとのことだった。契約で主人から従者への一方通行になる。これが主人を殺さないための契約だ。俺と玲音は契約をしていないため、今は相互互換らしい。
来栖君は契約が残った状態で放り出された。以前の契約をもってしても、下限は著しく低く、そして身寄りのない未成年だった。身元を引き受ける代わりに、仲介料をディスカウントしてもらったのだ。
俺がトイレから出ると、俺の部屋から母と来栖君の押し問答が聞こえた。学校に行く行かないで揉めてるらしい。どんどんヒートアップしている。
昨日噛まれた腕がジンジン痛んだ。
父が死んで、母はパートに出ている。この平屋の一軒家は父の死亡により団信保険でローンを完済した。しかし家をローンで買っている時点で遺産なんてたかが知れてる。潤沢に資産があるならば、母はパートに出ないし、越境ECで法具を売ったりしない。
「行かねーって言ってんだろ!!」
俺が部屋に戻った時、来栖君が母に制服を投げつけていた。俺は例えようもない怒りが腹の底から湧き上がるのを噛み殺しながら、母の後ろで冷静に言った。
「学校行かないでどうするの?」
俺はベッドに座ってる来栖君に向かって歩いて行く。来栖君は少し後ずさりした。
「その投げつけた制服買うために、かーちゃんがパートでどれだけの人に頭下げてると思ってるの?」
「冬馬、それはお母さんが買ったわけじゃ……」
「かーちゃんは黙ってて!」
だんまりを決め込んでる来栖君の前まで来たが、法縄は出さなかった。
「自立もしてない、学校も行かない、これからどうするつもりなの?」
「ちょっと……冬馬……」
母が心配そうに俺を諭そうとするが、関係なかった。
「自分が特別だとでも思ってるの? 1人の人間として聞いてるんだよ! 黙ってないで納得できるように言ってみろよ!」
これは魔法とか、主従とか関係がないんだ。
「引きずってでも学校連れていくからな! 早く着替えろ!」
甘ったれるな、みんな生きるのに必死なのに。
「冬馬……お父さんみたいなこと言って……」
そう呟く母を押しのけて、自分の制服を持って足早に風呂場に向かった。
父はこんなこと言う人じゃない。
父が死んで、いろんな手続きや会計をして、生きるって本当に大変なことなんだと知った。そして、そんなことなどおくびにも見せず、優しく俺を育ててくれた父を心の底から尊敬した。
父はこんなこと絶対言わない。
俺は少し涙ぐんで、自分の情けなさを隠すかのように、素早く制服に着替えた。
その時、来栖君が素っ裸で乱入してきた。
いやいやいやいや、自由すぎるだろ……。
ちょっとくらいセンチメンタルに浸らせてもらってもよくないですか? そんな嫌がらせを受けるほど理不尽なこと言いました?
困惑する俺の横を通り過ぎて来栖君は風呂に入っていった。そうか、拘束着でしばらく拘束されてたんだもんな。まあ、君が暴れたからだと思うけど。昨日のこと思い出して少し、ふふってなった。
「下着ここ置いとくから!」
引き出しから新しい下着を出して風呂に向かって叫ぶ。来栖君の返事はなかったが、きっと大丈夫。
きっと大丈夫だ。
まずベッドで寝ていること。いや、もはやそんなことはどうでもいい。
問題なのは身動きがとれないほど、来栖君が俺に絡まっていることだ。
昨日の大惨劇からどうしてこうなった……。
しばらく硬直していたが、流石にトイレに行きたくなって、少し上半身を起こしたら、来栖君は絡めてた手や足を引き寄せて言う。
「まだ……足りない……」
ちょっと待って来栖君、え? なんなの!? っていうか昨日の記憶無いんだけど!!!
「あらあら、すっかり仲良くなって! 朝ごはんよー!」
母の声で急に恥ずかしくなって、来栖君を引き剥がし、リビングに向かった。急に動いたからか、腕がジンジン痛んだ。母は朝っぱらから宅配便の受け取りをしていた。ぼんやり玄関を見るとゴツめの段ボールが2箱届いている。ダンボールの中から俺の学校の制服を取り出し、母はそれを持ってルンルンと俺の部屋に向かう。それを横目に俺はトイレに向かった。
俺はトイレの中で昨日、母と台車を引いて帰った時のことを思い出した。
母は来栖君の身の上は知らなかったが、従者については簡単に教えてくれた。
そもそも魔法使いは血統でなるものではない。
どちらかといえば後天的な鍛錬で魔力が増幅し、魔力がある一定を超えると魔法を使えるようになる。
ただ、魔力の下限と上限は先天的な要因の方が大きい。アレルギーに似ている、そう母は言った。アレルギーは上限が低いと発動するが、魔力は下限の方が問題で、あまりに下限が低い人は、短命になりやすいのだ。
普通の人は下限も上限も中央に近いところにあるので、魔力とは無縁で生きられる。
しかし時々、生命を維持できないほど下限が低い人がいる。こういう人たちを従者として迎え入れるらしい。
従者は主人との排他的な契約により、下限を底上げする。その代わりに主人に仕える。契約で上がった下限は契約を解除しても戻らない、本当の意味での底上げだ。
ただの人助けなのかと思ったら、そう簡単な話では無いらしい。下限の低い人は上限が高いことが多く、魔法使いはこの器に魔力を注いで発動できることから、従者を従えるそうだ。
そして法縄は魔力を従者に送るパイプとのことだった。契約で主人から従者への一方通行になる。これが主人を殺さないための契約だ。俺と玲音は契約をしていないため、今は相互互換らしい。
来栖君は契約が残った状態で放り出された。以前の契約をもってしても、下限は著しく低く、そして身寄りのない未成年だった。身元を引き受ける代わりに、仲介料をディスカウントしてもらったのだ。
俺がトイレから出ると、俺の部屋から母と来栖君の押し問答が聞こえた。学校に行く行かないで揉めてるらしい。どんどんヒートアップしている。
昨日噛まれた腕がジンジン痛んだ。
父が死んで、母はパートに出ている。この平屋の一軒家は父の死亡により団信保険でローンを完済した。しかし家をローンで買っている時点で遺産なんてたかが知れてる。潤沢に資産があるならば、母はパートに出ないし、越境ECで法具を売ったりしない。
「行かねーって言ってんだろ!!」
俺が部屋に戻った時、来栖君が母に制服を投げつけていた。俺は例えようもない怒りが腹の底から湧き上がるのを噛み殺しながら、母の後ろで冷静に言った。
「学校行かないでどうするの?」
俺はベッドに座ってる来栖君に向かって歩いて行く。来栖君は少し後ずさりした。
「その投げつけた制服買うために、かーちゃんがパートでどれだけの人に頭下げてると思ってるの?」
「冬馬、それはお母さんが買ったわけじゃ……」
「かーちゃんは黙ってて!」
だんまりを決め込んでる来栖君の前まで来たが、法縄は出さなかった。
「自立もしてない、学校も行かない、これからどうするつもりなの?」
「ちょっと……冬馬……」
母が心配そうに俺を諭そうとするが、関係なかった。
「自分が特別だとでも思ってるの? 1人の人間として聞いてるんだよ! 黙ってないで納得できるように言ってみろよ!」
これは魔法とか、主従とか関係がないんだ。
「引きずってでも学校連れていくからな! 早く着替えろ!」
甘ったれるな、みんな生きるのに必死なのに。
「冬馬……お父さんみたいなこと言って……」
そう呟く母を押しのけて、自分の制服を持って足早に風呂場に向かった。
父はこんなこと言う人じゃない。
父が死んで、いろんな手続きや会計をして、生きるって本当に大変なことなんだと知った。そして、そんなことなどおくびにも見せず、優しく俺を育ててくれた父を心の底から尊敬した。
父はこんなこと絶対言わない。
俺は少し涙ぐんで、自分の情けなさを隠すかのように、素早く制服に着替えた。
その時、来栖君が素っ裸で乱入してきた。
いやいやいやいや、自由すぎるだろ……。
ちょっとくらいセンチメンタルに浸らせてもらってもよくないですか? そんな嫌がらせを受けるほど理不尽なこと言いました?
困惑する俺の横を通り過ぎて来栖君は風呂に入っていった。そうか、拘束着でしばらく拘束されてたんだもんな。まあ、君が暴れたからだと思うけど。昨日のこと思い出して少し、ふふってなった。
「下着ここ置いとくから!」
引き出しから新しい下着を出して風呂に向かって叫ぶ。来栖君の返事はなかったが、きっと大丈夫。
きっと大丈夫だ。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる