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第4話 魔法使い稼業は越境EC

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朝から意味がわからなかった。
まずベッドで寝ていること。いや、もはやそんなことはどうでもいい。
問題なのは身動きがとれないほど、来栖君くるすくんが俺に絡まっていることだ。
昨日の大惨劇からどうしてこうなった……。

しばらく硬直していたが、流石にトイレに行きたくなって、少し上半身を起こしたら、来栖君は絡めてた手や足を引き寄せて言う。

「まだ……足りない……」

ちょっと待って来栖君、え? なんなの!? っていうか昨日の記憶無いんだけど!!!

「あらあら、すっかり仲良くなって! 朝ごはんよー!」

母の声で急に恥ずかしくなって、来栖君を引き剥がし、リビングに向かった。急に動いたからか、腕がジンジン痛んだ。母は朝っぱらから宅配便の受け取りをしていた。ぼんやり玄関を見るとゴツめの段ボールが2箱届いている。ダンボールの中から俺の学校の制服を取り出し、母はそれを持ってルンルンと俺の部屋に向かう。それを横目に俺はトイレに向かった。

俺はトイレの中で昨日、母と台車を引いて帰った時のことを思い出した。
母は来栖君の身の上は知らなかったが、従者については簡単に教えてくれた。

そもそも魔法使いは血統けっとうでなるものではない。
どちらかといえば後天的こうてんてき鍛錬たんれんで魔力が増幅し、魔力がある一定を超えると魔法を使えるようになる。

ただ、魔力の下限と上限は先天的せんてんてきな要因の方が大きい。アレルギーに似ている、そう母は言った。アレルギーは上限が低いと発動するが、魔力は下限の方が問題で、あまりに下限が低い人は、短命になりやすいのだ。

普通の人は下限も上限も中央に近いところにあるので、魔力とは無縁で生きられる。
しかし時々、生命を維持できないほど下限が低い人がいる。こういう人たちを従者として迎え入れるらしい。

従者は主人との排他的はいたてきな契約により、下限を底上げする。その代わりに主人に仕える。契約で上がった下限は契約を解除しても戻らない、本当の意味での底上げだ。

ただの人助けなのかと思ったら、そう簡単な話では無いらしい。下限の低い人は上限が高いことが多く、魔法使いはこの器に魔力を注いで発動できることから、従者を従えるそうだ。

そして法縄は魔力を従者に送るパイプとのことだった。契約で主人から従者への一方通行になる。これが主人を殺さないための契約だ。俺と玲音は契約をしていないため、今は相互互換そうごごかんらしい。

来栖君は契約が残った状態で放り出された。以前の契約をもってしても、下限は著しく低く、そして身寄りのない未成年だった。身元を引き受ける代わりに、仲介料をディスカウントしてもらったのだ。

俺がトイレから出ると、俺の部屋から母と来栖君の押し問答が聞こえた。学校に行く行かないで揉めてるらしい。どんどんヒートアップしている。

昨日噛まれた腕がジンジン痛んだ。
父が死んで、母はパートに出ている。この平屋の一軒家は父の死亡により団信保険だんしんほけんでローンを完済した。しかし家をローンで買っている時点で遺産なんてたかが知れてる。潤沢じゅんたくに資産があるならば、母はパートに出ないし、越境えっきょうECで法具を売ったりしない。

「行かねーって言ってんだろ!!」

俺が部屋に戻った時、来栖君が母に制服を投げつけていた。俺は例えようもない怒りが腹の底から湧き上がるのを噛み殺しながら、母の後ろで冷静に言った。

「学校行かないでどうするの?」

俺はベッドに座ってる来栖君に向かって歩いて行く。来栖君は少し後ずさりした。

「その投げつけた制服買うために、かーちゃんがパートでどれだけの人に頭下げてると思ってるの?」

「冬馬、それはお母さんが買ったわけじゃ……」

「かーちゃんは黙ってて!」

だんまりを決め込んでる来栖君の前まで来たが、法縄は出さなかった。

「自立もしてない、学校も行かない、これからどうするつもりなの?」

「ちょっと……冬馬……」

母が心配そうに俺をさとそうとするが、関係なかった。

「自分が特別だとでも思ってるの? 1人の人間として聞いてるんだよ! 黙ってないで納得できるように言ってみろよ!」

これは魔法とか、主従とか関係がないんだ。

「引きずってでも学校連れていくからな! 早く着替えろ!」

甘ったれるな、みんな生きるのに必死なのに。

「冬馬……お父さんみたいなこと言って……」

そう呟く母を押しのけて、自分の制服を持って足早に風呂場に向かった。

父はこんなこと言う人じゃない。
父が死んで、いろんな手続きや会計をして、生きるって本当に大変なことなんだと知った。そして、そんなことなどおくびにも見せず、優しく俺を育ててくれた父を心の底から尊敬した。

父はこんなこと絶対言わない。

俺は少し涙ぐんで、自分の情けなさを隠すかのように、素早く制服に着替えた。

その時、来栖君が素っ裸で乱入してきた。

いやいやいやいや、自由すぎるだろ……。
ちょっとくらいセンチメンタルに浸らせてもらってもよくないですか? そんな嫌がらせを受けるほど理不尽なこと言いました?

困惑する俺の横を通り過ぎて来栖君は風呂に入っていった。そうか、拘束着でしばらく拘束されてたんだもんな。まあ、君が暴れたからだと思うけど。昨日のこと思い出して少し、ふふってなった。

「下着ここ置いとくから!」

引き出しから新しい下着を出して風呂に向かって叫ぶ。来栖君の返事はなかったが、きっと大丈夫。


きっと大丈夫だ。


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