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第60話 謝るべきこと
しおりを挟む宿の部屋に案内された時、今日は珍しく一人で通された。当然のようにランダと同室だと思っていたから、寂しさを抱く。
──さっきのは愛の言葉ではなかったのか。
私はアレンの弔いに立ち会っていない。あの後ランダの心境に変化があったのかもしれない。いや、もしかしたらダグラスが私の体を気遣って、ランダと別室にしたのかもしれない。いや、宿の部屋がたまたま──。
考えが四方八方に飛び散ったところで、持ち前の適当さが顔を出した。風呂に入ろう。そしてどうせ一人なら久しぶりに自分を労ってやろう。
ランダもこの旅で随分我慢を強いられただろうが、私だって男だ。命が助かった後にすることがこれか、と虚しさも抱いたが、今までランダに生殺しにされてきた性欲が限界を迎えていた。
ところが、浮き足立って風呂から上がった時、ちょうどランダと鉢合わせた。なんだかランダのために風呂に入り、万全の用意していたようで気まずい。だから誤魔化すように、軽口を叩いてしまう。
「当然のようにランダと同室なのだな」
「今日はもう横になるか? 少し……話したいことがあるのだが……」
言いにくそうなランダを見て、私の思考から、期待していた展開ではないと警告が鳴る。
「ああ。さっき気を失ったおかげで体力は回復したから大丈夫だ」
ランダの様子がおかしい。機会を窺うように眼球をあっちこっちに動かして、言葉を選んでいるようだった。当然のように用意された二人の部屋で、風呂上がりの私を見て言いづらいこと。それにはいくつか思い当たることがあった。
「アレンとともにここに残るか?」
それか、兄のシアンに復讐しにいくか。復讐には賛同できない部分もあったから、口には出さなかった。
「なぜ……そうなるんだ? ミカ、俺の気持ちがまだ伝わらないか?」
「ランダ。謝るべきは私の方だ。言わなければならないことがある」
ランダは持っていた荷物を落とした。勘違いして慌てているようだったので手短に述べる。
「あの小屋で倒れて、アレンの記憶を見るまで、私はすべてランダが仕組んだものだと思っていた。ランダの愛する者の魂を、私の体に封印させたのだと……思っていた」
「な……ぜ……?」
「一度、夜中に目が覚め、ランダが外で人と会っているところを見た。たったそれだけのことで私は……すべてランダが仕組んだことなのだと確信していた……」
こんなに私に尽くしてくれたランダを、ある時期からずっと疑っていたのだ。軽蔑されてもおかしくないひどい仕打ちだった。
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