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第50話 お前ではない
しおりを挟む「貴様等っ! なにをやってるんだ!」
聞き間違えるはずもない。私の愛するランダの怒声。
走り寄るランダから逃れようと、男たちは下半身を露出させたまま反対側の扉に向かっていく。
「アレン! 大丈夫か……?」
ランダに抱き起こされた拍子に、口から男たちの白濁が溢れる。それから目を背けたランダは、自分のマントを剥ぎ取り、アレンを抱いて立ち上がった。
「私を……殺してください……父を置いて……国外追放など……」
「殺してくれなんて、軽々しく言うんじゃない」
ランダは熱い体でアレンを包む。するとアレンは嗚咽を堪えきれずにランダにしがみついた。ランダがどういう胸中でそうしたのかは不明だが、熱い唇をアレンの額に押しつけ、いつまでも背中をさすっていた。
ランダはアレンを抱えたままある部屋に向かっていく。行き着いた部屋は、さっきまでの牢屋のような印象と打って変わって、貴族然とした豪華な内装だった。ランダは大将とも呼ばれていたが、そもそも王族だ。兵卒たちがひしめき合う宿舎とは差があって然るべきか。
ランダは無言のまま部屋の奥の扉を開け放つ。眼下には湯気を立てた風呂。アレンはそれに驚いた様子で、ランダの服を掴んだ。
「大丈夫だ。ゆっくり入れるぞ。熱かったら言ってくれ」
アレンに巻かれていたマントを剥ぎ取られ、そのままじわじわとお湯に沈められていく。
「ぁ……グレンドローズ……大将……袖が……」
「熱くはなさそうだな。口をゆすぐ器を持ってくる。この布で体を洗って……」
布を差し出した格好で、ランダは動きを止めた。
その視線の意味を私は理解していた。心臓もないのにソワソワと心が落ち着かない。他の男に犯されているところは見られても、ランダに抱かれるアレンを見たくない。そう思う醜い自分の心を認めたくなかったのだ。
いつもの癖だ。はやく物事が過ぎ去ればいいと願う、悪い癖。
しかし私の期待とは裏腹に、ここから胸焼けするほど甘い蜜月を目撃することとなる。
ほどなくしてアレンとランダは結ばれた。アレンを褒めそやし、稽古をつけてやるランダ。それに報いようと腕を上げるアレン。
ランダに愛する男がいたことなど既知の事実だ。私が目を背けたかったのは、ランダの笑顔だった。私の冗談で笑うあの笑顔。稽古中にそれをアレンに向けられるたびに、責め立てられる。
お前ではない。アレンの魂が欲しいのだ、と。
そして繰り返される濃厚な体の関係。私はこんな形で、ランダがどんな風に男を抱くのかを知った。
一度でも思い出が欲しかったと願った私に、これ以上にない形で制裁を加えてくれた。至れり尽くせりだった。
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