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第35話 奔放なふたり
しおりを挟む夏の日は長い。
リディアの親友であり馬車馬のジンバルとミニアは粘り強さを見せ、今日の午後だけでかなり距離を走った。
ダグラスの嫉妬心によりリディアは運転席に移動したが、馬車の中が窮屈なことには変わりなく、今日の宿泊先が決まる頃には疲労困ぱい。馬車を降りる頃には尻が痛むほどだった。
「俺の膝の上に乗ればいいものを、なにを恥ずかしがっているんだ」
道中何度も問われた質問を、馬車を降りても繰り返すランダ。当然のように述べる屈託のない顔に、喉元に迫るモヤモヤが爆発しそうになる。
運転席から馬車の中が丸見えなんだぞ! 男らしいのも大概にしろ!
「陛下、今日の宿ですが、三部屋はあいていないようで。ランダと同室でも構いませんか?」
なぜこいつらは、こんなに奔放なのだ。仮にも私は王なのだぞ。お前ら三人が一部屋という手段だってあるだろうに。ランダとの二人きりの夜に期待はしていたが、他人から当然のように言われるとなんだかモヤモヤする。
「ダグラス、ジンバルとミニアに餌をあげたいです!」
可愛らしいリディアの声が響く。
「ああ、まだ市場があいているから明日の分も買いに行こう。大きな荷物になるぞ」
「大きくっても投げ出さない!」
「いい子だ」
ダグラスは私への質問を投げ出して、リディアの背に手を添え歩き出す。夕闇が迫り活気付く街の明かりが二人の隙間を埋めるように輝きだした。リディアを慈しむダグラスの視線を見たら、騒がしい自分の心がちっぽけなものに思えてくる。
「俺たちの夕飯も買ってきてくれるのだろうか」
「ランダは飯のことばかりだな。そういえばダグラスも自分で料理をするほど飯にはこだわりがある」
「ほう? 俺も料理くらいできるぞ。野営の飯だから大雑把だが、ダグラスもそれで料理を学んだに違いない。ミカに振る舞えば少しは俺の株が上がるか?」
「なにを張り合ってるんだ……」
「ミカは俺にちっとも興味がないみたいだからな」
思わぬ言葉に驚き、ランダの腕を掴んでしまった。けれど続く言葉が出てこず、ランダの顔をじっと見つめてしまう。
ふざけた女装でも伝わる強い意志と眼差し。朝日に照らされる美しい体。私の冗談で笑う愛らしい笑顔。そして唇に吹き荒れる熱風。
こんな理由で人を好きになるのは浅はかすぎるのだろうか。
「先に、宿泊先の部屋に入らないか?」
馬車のトランクを軽々持ち上げ、ランダは今日の宿に向かう。ランダの腕を掴んだままの私は、引きずられるように歩いた。
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