口なしに熱風

大田ネクロマンサー

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第28話 ニョキニョキ伸びる

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「私はニョキニョキ髭が生えて若返ってもいないし、なにより生きている。多分この魂は私が死ななければどうにもならないのだろう」

「陛下、そんな補償はありませんぞ。ただでさえこんな冒涜的な封印など前代未聞なんじゃ」

「無責任なことを言うと、私が死んだ後、どうなろうと構わない。仮に私の魂が放り出されて魔物になったら、リディアの唇でどこかの枯れ木にでも……」

「陛下! いい加減、そんな風に自分を貶めるのはやめなされ! 陛下はこの国の立派な国王であり、この国に尽くした男の一人! 陛下の体は陛下のものじゃ!」


じいやが急に大きな声を出すから、さっきまでの雰囲気が一気に深刻になってしまった。


「陛下……。どうせその魂に体を明け渡してもいいと考えているのじゃろうて。小さい頃から、自分ばかりを責めて」

「な、なにを言い出すんだ! そんな子どもの頃の話!」

「この国に勝利をもたらし、再建を果たしても、それでも自分に自信が持てないかえ? 陛下が死んでいった男の代わりになればよかったと嘆くたび、じいやが悲しんでいることを忘れないでおくれ。陛下がそう思うように、じいやがそう思っていることを……」

「やめろやめろやめろっ! なにを言ってるのだ! 私が大往生すればいいだけの話であろう! 年寄りはすぐ悲観的になって!」


なぜ空気を読めんのだ! じいやと二人きりではないんだぞ!
私の女々しき本心を全員に暴露され、恥ずかしさから大声を張り上げてしまう。

そんな大声にも怯むことなく、じいやは私に抱きつき、今生の別れさながらに続けた。


「そんな前向きな言葉にワシは騙されんぞ。たとえここで陛下に恥をかかせても、じいやは陛下に生きてもらうことを選ぶ。約束するんじゃ。体も魂も決して手放さないと。自分自身の物語を生きると約束するんじゃ!」


じいやは、震えていた。息もできないほど私をきつく抱きしめて、震えていたのだ。深刻さから目を逸らすことを決して許さないと、全身全霊で訴えている。

それは今日、ランダが私に突きつけた真実に似ている。鏡の前で、貧相な自分を突きつけられたあの時と、似ていたのだ。


「わかったよ、じいや。善処する。しかしじいやもどうしたらいいのかわからないのだろう? 結果的に死なないように生きる以外ないではないか」


やけに力強いじいやの腕をほどき、長い静寂の気配が迫った時、ダグラスが言いにくそうに口を開いた。


「このナイフは我が国で生産された物ではないかと存じます」


その言葉にランダが歩み寄り、柄だけのナイフを掴んだ。


「とても一般的なナイフの……柄だと思うが……?」

「長い戦争により、剣の材料である鉄鉱石は厳重に管理されております。原料価格も高騰し、パンを切るナイフですらなかなか手に入る物ではございません。一般で流通する刃物も中古の年代物ばかりです」

「このナイフは新しすぎると?」

「ええ。それに柄に鉄の装飾を施すなど考えられないですし、意匠が独特です」


確かにダグラスの所感のとおり、独特な紋様が施された柄ではある。しかし──。

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