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第26話 私は死んでいるのか?
しおりを挟む「私は死んでいるのか?」
封印師が口を縫うのは、術者の魂を道連れにさせないためだ。死者の魂を封印する時以外に、魔糸で口を縫う理由がない。
「ほっほ、そうかもしれんの。こんなに可愛い魔物なら封印するのも躊躇ってしまうのぉ」
じいやは呑気に冗談を飛ばすが、目が笑っていない。リディアは手慣れた手つきで、私の服をめくって口を寄せた。普段見ることのないリディアの真剣な眼差し。それが私の恐怖心を煽る。
「ぁ……」
口が肌に触れたその時、感じたこともない触覚に思わず声を溢した。不思議な感覚だった。リディアの口から頭の先を触られているような感覚。正確にいうと頭ではない。どこを触られているのかわからないのだ。
ただ明確な意志を持った、針のような、それでいて柔らかい糸のようなものが、体中の神経を刺激する。
「なん……なんだか……おかしい……!」
私は次第に焦りが募る。それはリディアの行いではなく、自分の理性のなさにだ。まるで魂を撫でられるような感覚に、興奮を感じ、腰の奥から兆しが見え隠れする。ここで不覚を取れば、確実にダグラスに殺される!
「じいや! やめさせてくれ! ダグラスに……あ……ぁっ……!」
体がビクッと跳ねたら、リディアは急に口を離した。私は全力で前屈みになり、平静を装う。しかし、荒ぶる呼吸音がすべてを露呈させていた。
「ほっほ、若い男なのだから仕方がない。なにも恥ずかしがることはないじゃろ。リディア、どうだったかの? 魔糸を解いてじいやに教えてくれい」
封印ってこんなに気持ちがいいのか。死ぬのも悪くないなどと不謹慎なことを考えてしまう。荒ぶる下半身を隠しながらもチラッと前を見ると、リディアは慌てて魔糸を解いていた。
「あ……あの……誰かが……」
リディアは義父である先代封印師に捨てられてからダグラスと結ばれるまで、たった一人で神殿に住まい、この国の魂を守ることだけに徹し生きてきた。だから社会経験が乏しく、時々自分の言いたいことがうまく言葉にできない。
「アンネの中に誰かが封印されてます!」
リディアがようやく口にできたのであろう言葉は、意味はわかれど到底理解できるものではなかった。
ここにいる全員──リディアですら、理解できなかったのだろう。巨大な謎の出現に、神殿が静寂に包まれた。
「じいやが耄碌していた方がまだよかったの……。こういうことだけは間違いではないなんて……」
「大魔道士様、一体なんの騒ぎですか。ミカの中に誰かが封印されているとは、どういう状態なのです?」
この場で一番、理解できていない隣国の王子が、痺れを切らしてじいやに詰め寄る。
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