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第11話 王の仕事
しおりを挟む王の仕事とは意思決定だけではない。
官吏が集まる宮廷には言い争いが絶えない。さらに、ここでは王という肩書きに疑問を感じることが常だ。
「陛下。戦災孤児の福祉の前に財源確保をお約束いただかなければ、絵に描いた餅です。先日ご命令どおり税率の見直しをしましたが、貴族からの反発は目に見えております」
絵に描いた餅ではなく、鶏が先か卵が先かのような話だ。これを皮切りに、周りの官吏は、現状を打破できない根拠を並べはじめた。戦時中には起こり得なかった、主義主張が飛び交う議会。それだけ平和になったということなのだろうが……。
「できない理由を述べなくてもよい。どうしたらできるのかを持ち寄れと命令したはずだ」
さほど大きな声でもなかったが、議会の円卓ががシンと静まり返る。そこに微かな怒りの棘が私に向いていることを見逃さなかった。
「ああ、すまん。今日は帳の向こうにローズ姫がいてな。少し格好をつけてしまったよ」
肩をすくめると、円卓の空気がやわらぐのを感じる。それを見計らって本題を差し込んだ。
「例えば……どうだろうか。税率引き上げで貴族の反感を買うというのなら、逆になにかを売ればいいのではないか。ちょうどローズ姫のおかげで国交も回復の兆しだ。輸出のための権利などを売って労働力を集めさせてはどうだろう……いや、素人考えだがな。どうだムッソル卿?」
「確かに戦地帰りの騎士が子づくり以外の仕事がないと嘆いてはおります。国から程度の大きい事業の枠組みを保証すれば、貴族は権利欲しさに投資を行うかもしれません」
「陛下。そういった意味では、橋の補修工事も寄付金に応じて、橋の名の権利を売ることができる。貴族は相続できる名誉を嬉々として欲しがる傾向にある」
「いや、もっと大きなところで申し上げると……」
「ああ、その方向性で明日持ち寄ってくれないか。すまない、私は戦地に赴いていないから、ローズ姫との子づくりの時間がなくてね」
円卓一同がガタガタと立ち上がる。それに片手で応えて不毛な会議を離脱した。
帳の向こうのランダに合図を送り、王族しか通れない通用口で落ち合う。
「ローズ姫さまさまだな。いつもはあの不毛な会議が夜まで続く」
「我が国では年中あのまま、なにひとつ決まらない。陛下は緩急のつけどころが……いや。政治の手腕が秀でている」
「それはどうも。ああやって官吏各々が自ら思いついた風を演出しなければ、なかなか合意に至らない。みんな自分が大好きなだけだ」
「しかしあの中で前向きなのは陛下だけだ」
「前向きか。だが、ランダの国とは規模が違う。大きな議会がどれほど混迷しているか目に浮かぶよ」
想像するだけで面倒だ。私のその顔を覗き込んだランダは不意に笑う。
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