口なしに熱風

大田ネクロマンサー

文字の大きさ
上 下
12 / 66

第11話 王の仕事

しおりを挟む

王の仕事とは意思決定だけではない。

官吏が集まる宮廷には言い争いが絶えない。さらに、ここでは王という肩書きに疑問を感じることが常だ。


「陛下。戦災孤児の福祉の前に財源確保をお約束いただかなければ、絵に描いた餅です。先日ご命令どおり税率の見直しをしましたが、貴族からの反発は目に見えております」


絵に描いた餅ではなく、鶏が先か卵が先かのような話だ。これを皮切りに、周りの官吏は、現状を打破できない根拠を並べはじめた。戦時中には起こり得なかった、主義主張が飛び交う議会。それだけ平和になったということなのだろうが……。


「できない理由を述べなくてもよい。どうしたらできるのかを持ち寄れと命令したはずだ」


さほど大きな声でもなかったが、議会の円卓ががシンと静まり返る。そこに微かな怒りの棘が私に向いていることを見逃さなかった。


「ああ、すまん。今日は帳の向こうにローズ姫がいてな。少し格好をつけてしまったよ」


肩をすくめると、円卓の空気がやわらぐのを感じる。それを見計らって本題を差し込んだ。


「例えば……どうだろうか。税率引き上げで貴族の反感を買うというのなら、逆になにかを売ればいいのではないか。ちょうどローズ姫のおかげで国交も回復の兆しだ。輸出のための権利などを売って労働力を集めさせてはどうだろう……いや、素人考えだがな。どうだムッソル卿?」

「確かに戦地帰りの騎士が子づくり以外の仕事がないと嘆いてはおります。国から程度の大きい事業の枠組みを保証すれば、貴族は権利欲しさに投資を行うかもしれません」

「陛下。そういった意味では、橋の補修工事も寄付金に応じて、橋の名の権利を売ることができる。貴族は相続できる名誉を嬉々として欲しがる傾向にある」

「いや、もっと大きなところで申し上げると……」

「ああ、その方向性で明日持ち寄ってくれないか。すまない、私は戦地に赴いていないから、ローズ姫との子づくりの時間がなくてね」


円卓一同がガタガタと立ち上がる。それに片手で応えて不毛な会議を離脱した。

帳の向こうのランダに合図を送り、王族しか通れない通用口で落ち合う。


「ローズ姫さまさまだな。いつもはあの不毛な会議が夜まで続く」

「我が国では年中あのまま、なにひとつ決まらない。陛下は緩急のつけどころが……いや。政治の手腕が秀でている」

「それはどうも。ああやって官吏各々が自ら思いついた風を演出しなければ、なかなか合意に至らない。みんな自分が大好きなだけだ」

「しかしあの中で前向きなのは陛下だけだ」

「前向きか。だが、ランダの国とは規模が違う。大きな議会がどれほど混迷しているか目に浮かぶよ」


想像するだけで面倒だ。私のその顔を覗き込んだランダは不意に笑う。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

一夜限りで終わらない

ジャム
BL
ある会社員が会社の飲み会で酔っ払った帰りに行きずりでホテルに行ってしまった相手は温厚で優しい白熊獣人 でも、その正体は・・・

すきなひとの すきなひと と

迷空哀路
BL
僕は恐らく三上くんのことが好きなのだろう。 その三上くんには最近彼女ができた。 キラキラしている彼だけど、内に秘めているものは、そんなものばかりではないと思う。 僕はそんな彼の中身が見たくて、迷惑メールを送ってみた。 彼と彼と僕と彼女の間で絡まる三角()関係の物語

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

処理中です...