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第2話 身持ちが堅い
しおりを挟む「さあ、こちらへ。随分と大きいので着替えは別に用意させますよ。私の服は多分入らないでしょう」
謁見の間の奥に専用の通路があり、そこに国王専用の私室兼寝室がある。廊下の左右にいくつか部屋があるのを見かねてか、巨漢は私に連れられている間中、キョロキョロとしていた。
「王族は私を残して全員、先立ちました。かつては国王や母がそれぞれに部屋を使っていましたが、今は私が一人、この部屋を使っているのみです」
奥から二番目の部屋の扉を開け、巨漢を招き入れる前に忠告した。
「さっきの側近は、よく上枠に頭をぶつけるので、気をつけて」
巨漢は「どうも」と頭を下げて入室する。そして振り返りざま言い放った。
「あの側近も、この部屋によく入るのですか?」
なるほど、そのふざけた女装には見合わぬほど、身持ちが堅い。つまり私が側近を手籠にしているとでもいうのか。
「さっき明確に言ってませんでしたね。あなたの名誉を傷つけるような趣味はございません。心配でしたら、後で来る側近に聞いてみてください」
男色の趣味も、女装の趣味もない。そう明言できないのが苦しいところではあるが、今のところ、この趣味で他人を傷つけたことはない。
「勘繰るような真似を……大変失礼いたしました」
「いえいえ……。ええと、なんとお呼びしたらよいですか」
「ランダ・グレンドローズと申します。ランダとお呼びください、陛下」
ああ、略してローズ姫……。うまいこと略したものだな。
「ミカだ。この国でそうと呼ばれたことはないが……」
手を差し出せば、ランダは碧い瞳をまっすぐ向けて握り返す。節くれだった指、手のひらに感じる皮膚の硬さは剣士そのものだ。
「いい手だ。国では剣を振るっていたのか?」
「ええ。王族とはいえ六男坊など国の手駒。こんな格好で追い出されるほどに」
「六男坊! 羨ましい。知ってのとおり、我が国では魔族との長い戦争により、男が減ってしまってな」
「だから後宮なんてあるのか。政略結婚にしては、なかなかふざけた条件だと思った」
「ははっ、それでそんなふざけた格好でランダを寄越したのか? この国も舐められたものだ」
政略結婚を目論み姫を差し出すともすれば、後宮が存在すること自体、不敬にあたる。隣国から国交の打診があった時に、包み隠さず伝え断ったつもりが、交渉決裂を言い渡されたのは我が国だったようだ。笑う自分とは裏腹に、ランダの顔から笑みが消えた。
「気を悪くしないでほしい。この格好は国の指示ではない。後宮があっても子を成さないのであれば、男色家なのだろうと……我が父はそれで俺を差し出し、国交を取り戻そうとした」
今度は私の顔から笑みが消えた。
「そうか……。それで、つまり……お父上はよかれと思ってランダを献上したが……」
ランダ自身は男と寝るなど言語道断、死んでも嫌だからそんなふざけた女装をしてでも回避しようとした。
私が仮に、異性を愛せる人間だった場合、このふざけた女装は「気を悪くしない」のだろうか。
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