妖精王の双剣-愛する兄弟のために身売りした呪われは妖精王に溺愛される

大田ネクロマンサー

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第6章 シュトラウス家の紋章

最終話 叙任の儀式

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呪いの家から、剣と鞘を持ち出した。
それ自体が前例のない一大事。
だからこそこんな婚姻の儀が許されるのだと、この計画を話してくれた時、シーバルは笑った。

今日、アンドリューと俺は、婚姻の儀式のため、朝から大忙しだった。
あらかじめ採寸していた衣装も、纏うには袖下の手が必要で、俺もアンドリューも手を水平に掲げて立ち尽くしている。一足先に支度を終えた煌びやかなシーバルが、そんな俺たちを嬉しそうに眺めていた。


「ねぇ、アンドリュー。やっぱり今見せちゃダメ?」

「ダメだ。リノのことだ。それを着ていくってきかなくなるぞ」

「あ! また俺に隠れて2人でコソコソして!」


シーバルは、俺とアンドリューが2人でコソコソすることを許さないくせに、こうやっていつも俺を除け者にする。昔、アンドリューに挑戦しようとする俺をシーバルが邪魔していた風景と同じだ。こんなことまであの日の再現をしたくはないと言ってるのに、シーバルもアンドリューも取り合ってくれない。


「いつも2人でずるいよ……」


あれから国の行事がある時以外は、3人で稽古をするようになったが、2人は俺と模擬刀を合わせる時にだけ、なんだか物足りなそうな顔をしていた。実力差がすぐに埋まるなんて自惚れていない。しかし寂しいものは寂しい。


「リノ。わかった。シーバル、持ってきてやってくれ」


シーバルは嬉々として立ち上がり、部屋を後にする。それを見送った視線を戻す拍子にアンドリューと目が合った。


「リノ。その衣装もなかなか似合っている」

「アンドリューの方が……似合っているよ」


アンドリューは視線を落として微笑んだ。


「やっぱりシーバルの言うとおりかもな」


アンドリューの呟きがドタバタと乱入してくるシーバルの気配で有耶無耶になった。重量のある音を立ててシーバルは大きな荷物を床にドンと置く。


「リノ、これ。俺とアンドリューが選んだんだ」


言葉とともに、シーバルは被せられた布を引き抜いた。

姿を現したのは、朝日を浴びて眩く光る、甲冑。

呼吸が止まり、声さえ出せなかった。
どうしてこんな欲望があることに気づかなかったのか。言葉にできなかった積年の望みが、今、正体を現して俺の胸を打った。


「今日……それ……着たい……!」


涙がぼたぼたとこぼれ落ちるから、声を出すのもやっとだった。


「ほら、やっぱり言い出したじゃないか」

「リノ……また目が開かなくなっちゃうよ」


シーバルは袖下に押さえつけられ身動きが取れない俺の代わりに、唇で涙を拭ってくれた。


「リノは鞘なんかじゃないよ。今回の厄災の冬には、シュトラウス家から2本の剣が献上されたんだ」

「ううっ、ふっ、うううううぅぅっ……!」

「アンドリューがね、指輪じゃなくてこっちの方がいいって。でも、この甲冑に決まるまで大変だったんだから」

「シーバルの選んだ甲冑は戦場には不向きなんだ! あんな派手な甲冑……」

「リノはまだ強くなるから。俺はそういうことだけには嘘をつかない。そうでしょ?」


シーバルがオロオロと慌てても、涙が溢れて止まらない。俺はずっと家の因縁により疎外感を感じていたのだ。それをアンドリューとシーバルは見抜いていた。


「ありがっ、ひっ、ありがどぉ……!」

「ああ、ああ、アンドリュー……」


見上げた視界に、アンドリューが入ってくる。


「リノ、泣き顔もかわいいな。今夜も2人でリノの足に忠誠を誓ってやるから」


袖下のいる前でそんなことを暴露され、驚きで瞬時に涙が引いた。


「あ、泣き止んだ。アンドリューはすごいよね」

「シーバルは優しすぎるんだ。人の上に立つには少々のスパイスも必要だぞ」


2人はまた俺を置いて談笑をはじめようとする。だから。


「シーバル、アンドリュー、大好き」


しょうがないな、と息を漏らして、アンドリューとシーバルは、交互にキスを落としてくれた。




この日、おおよそ婚姻の儀とは思えない儀式が執り行われた。次期国王、シルヴァル皇の前に、シュトラウス家の2人が騎士のいでたちでかしずく。王家の剣を2人の肩に下ろす様は、まるで叙任の儀式のようだった。

世紀の儀式を一目見ようと集まった民衆は、前例のない婚姻の儀に熱狂した。そして誰もが確信したという。

──妖精王にシュトラウス家から双剣が奉納された。前代未聞の双剣が厄災の冬に終止符を打ち、この国の約束が永遠となる。

<了>
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