妖精王の双剣-愛する兄弟のために身売りした呪われは妖精王に溺愛される

大田ネクロマンサー

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第6章 シュトラウス家の紋章

第15話 灯される篝火 ※

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ベッドのある部屋から洗い場までそんなに近いわけでもないのに、2人の笑い声が響いてくる。自分でやると言った手前、ひとりで薬草を練るのに文句があるわけではないが、なんだか寂しい。

それに、アンドリューがあんな笑顔をシーバルにだけ見せるのが少しだけ羨ましかった。ろくに話しかけられないくせにこんなことを思うのはどうかしている。

薬草を練っていた手が止まる。
本当にずっと、俺はどうかしていたのだ。

昔のアンドリューに戻ってもらいたい。あの丘で遊んだ時に戻りたい。そう望むばかりで、今度は自分だけがその風景に溶け込んでいない気がしたのだ。

ドタバタと音が響いてきたから、咄嗟に薬草を練る手を動かしはじめる。


「リノ、アンドリューもこれ、似合うよね? 脱ぎやすくて便利なのにさ。なんか嫌がってるんだ」


視線を向けると、独特な意匠の服を纏うアンドリューが、嫌そうに連れられてきた。俺と同じ服のはずなのに、肩幅や胸板の厚さが違いすぎて別物のようだった。


「似合ってるよ、アンドリュー」


自然と出た自分自身の言葉にも驚いたが、それに照れて俯くアンドリューにも驚かされた。


「ほらぁ! リノ、もっと言ってやってよ。服を着せるのに毎回こんなに駄々をこねられたらたまらないよ!」


相当嫌がったのが窺えるシーバルの困惑顔に、笑ってしまう。


「アンドリューはなにを着ても似合うよ。甲冑もすごく似合ってた。でも甲冑はシーバルのやつの方がかっこよかったな」

「え!? 本当に!? アンドリューよりかっこよかった?」


シーバルは半ばアンドリューを引きずりながら俺の方に向かってくる。


「うん、アンドリューも今度見せてもらいなよ。国王! って感じで、すごくかっこよかったよ」

「リノ大好き! 明日またサーガ呼びつけてみんなで稽古しよう! サーガはそんなことくらいにしか役に立たないんだから気にしないでね!」


シーバルは乳棒と乳鉢を持つ俺ごと抱えて、ベッドに飛び込む。


「あぁ、リノ。上手に薬草を練れたね。本当はこのままリノのかわいいところを見たいんだけど、順番だから仕方がないよね」


俺から薬草を取り上げて、たちまちに服をむしりとられていく。言っていることとやっていることの乖離に混乱していると、シーバルは俺を抱える形で座って言い放った。


「アンドリューは自分で脱げる?」


アンドリューはさっきいた場所から微動だにしなかった。さっき裸を見られたとはいえ、俺だけが裸でシーバルにガッチリ羽交い締めされているのに納得がいかない。


「シ、シーバル?」

「アンドリューも練習してたんだって。リノからも言ってやってよ。リノが練習の成果を見たいって言ったら、素直になるよ」


まったくもって要領を得ない。


「練習ってなに?」


俺の疑問符を踏むように、アンドリューがベッドに向かってくる。その雰囲気が物々しくて、俺はシーバルに嵌められたのではないかと疑った。

アンドリューは無言のままベッドに上がって、左膝、右膝と俺を跨いで、腿に軽く座った。


「ア……アンドリュー?」


その疑問の声に、彼は一度顔を背けた。しかし再び俺の瞳を覗き込んだ時には、耳まで赤くして、追い詰められた顔に変わる。

驚く俺の顔を撫でる左手。触れる前から熱を感じるほど茹だる手。その感触に魂を吸い取られている間に、アンドリューの唇が瞼に近づく。

瞼を閉じると世界は暗闇に飲み込まれ、そっと触れた熱だけが唯一になる。アンドリューは震えながらも、俺の瞼を何度も啄んで、鼻の付け根に、頬に、触れていく。

そしてその熱が唇に灯された時、見つめ続けた篝火が心を焼いて、息を漏らしてしまった。

しかしその俺の息で、熱が遠ざかっていく。


それに驚き目を開けると、アンドリューは真っ赤な両耳だけを晒して俯いてた。
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