妖精王の双剣-愛する兄弟のために身売りした呪われは妖精王に溺愛される

大田ネクロマンサー

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第6章 シュトラウス家の紋章

第14話 男2人(アンドリュー)※

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 結局、辺りをウロウロしてるうちにすっかり夜が明けてきたようだった。
 自販機は鵜の森交差点の上州屋の前に見つけたので、そこでコーヒーやら買って、しばし雑談。
 
 そこからでも、相模外科は嫌でも視界に入る……。
 遠目から見ても、やっぱりそこだけ切り取ったように暗い……。
 
 でも、視界に入れないようにしてなんとなくダベる。
 
「100円玉で買える温もりって……今は、110円って言いなおさないとなー」

「自販機100円って、それいつの話だよ!」

「尾崎豊って、知らね? 今度カラオケで歌ってやるよ……俺、結構上手いよ」

「へぇ、見延君……声、良いしね! 今度、聞かせてよ」
 
 しょうもない雑談が続く。

「この建物って、なんで斜めってるの?」

「ここの上州屋って、元々アルペンだったからね……森野の方にも上州屋あるけど、そっちも元アルペン」

 灰峰さん、妙なことに詳しい。

「どんだけ、アルペン好きなんだよ……上州屋」

 スキー用品のアルペンから釣具屋と華麗なる転身を遂げたこの上州屋。
 このパターンって、意外と多くて、知ってるだけでも3-4件はこのパターンだった。
 
 店の前の自販機前で、若造共がだべってて、さぞ近所迷惑に思えるけど。
 ご近所っても、目の前にあるのは畑……ぶっちゃけ、何もない。
 
 この数年後、灰峰姉さんの影響で、立派な釣り人となった俺は、ここの常連になるのだけど、それは暫く先のお話。
 まぁ、釣りに関しては、この灰峰姉さんが師匠的な感じになって、あっちこっち行くことになるのだけど、その行く先々で割と心霊現象を体験するハメになる。
 
 それはともかく、時刻は午前4時……すっかり空が明るくなっていた。

 待望の夜明けである。
 
 待ってましたとばかりに、俺達は、朝日を浴びながら、相模外科の前に再び立っていた。

 今度は、フルメンバー……そのまま帰るのも何だからと、とりあえず目の前まで来てみた。
 
 さすがに、灰峰ねーさんに色々吹き込まれたので俺も、ややビビり。
 
「……で、どうよ? つか、先陣は任せたよ……ねーさん」

「いや、何があったのか知らないけど、なんか……嘘みたいに雰囲気が変わってる……なにこれ? 何が起きたの?」

「ホントだ……夜が明けたら、いきなり雰囲気変わったな……」

 相変わらずだったら、今日は撤退と言ってた灰峰ねーさんもさっきと様子が違うと言って、今度は乗り気。

 徳重も同じようなこと言ってる。
 
 ホントかよ? でもなんとなく、前に来た時に感じてた圧迫感が和らいだような気がする。
 
「なんかもう俺達だけみたいだし、すっかり明るくなってるから、中見て回ってみる? ここで解散っても消化不良っしょ」

 と言うか、コンビニ探すと言っときながら、単に辺りをウロウロして自販機囲んでただけだった俺達。
 ぶっちゃけ皆、何も言わなかっただけで、思いは一つ!
 
『明るくなってから、こよーぜ!』
 
 要は、モノの見事に揃いも揃って、ヘタれてたってのが実情。
 もっとも、明るくなったら、無駄に強気化……そんなもんなんである。
 
「……なんだこれ。……ホントに同じ場所なのかな?」
 
 確かに明るくなったのもあるだろうけど、もう入った時の雰囲気が全然違う。
 
 夜明け間際の冷たい空気は相変わらずなんだけど、ただの廃墟……そんな感じだった。
 
 ちなみに、地下室はスルー! 
 だって、そこだけは常闇なんだもん。
 
「なんか、ちょっと目を放した隙に建物自体がごっそり入れ替わったんじゃないかって、気もするね……それくらい、雰囲気が違う……さすがに、これは君達でも解るんじゃないかな?」

「そこまでかよ……確かに、雰囲気がぜんぜん違うけど……」

「そこまでだよ……まぁ、これなら、多分大丈夫だから、物理的に気をつければ、何の問題もないと思うよ」
 
 そして、何となく皆バラけて、あちこち好き勝手に歩き回る。
 須磨さんは、灰峰ねーさんに付いてったらしく、俺ソロ状態!
 
 俺は二階を散策する。 
 なんとなく上には行きたくなかったもんで、階段付近をうろついて、部屋の中を覗いてみたり、背後を気にしながら、いつでも撤退できるように……この辺、俺ヘタレ。

 須磨さんと灰峰ねーさんがキャイキャイ言いながら、下に降りてったのを見送り、俺も帰ろうかなと思ってたら、反対側の階段から高藤がぬっと姿を見せる。
 
 ちょっとビビったのは内緒。
 
「高藤ちゃん、ちゃーっす! どうよーっ! なんか面白い事あった?」

 二階の廊下を、もう三回目くらい往復して、何も居ないって確認済み。
 もう怖くもなんとも無くなってたから、高藤への挨拶も軽いもの。
 
「おーうっ! 見延っ! なんだ上にいないと思ったら、こんなとこで一人でウロウロしてたのかい? てか、怖くなったんだろ? ベイビー! 何なら、俺様が熱い抱擁でも……」

 高藤はたまにこの手のホモネタを振ってくる。
 まぁ、俺はいつも華麗にスルーなんだけどな!

「いらねぇよ……さっき、灰峰ねーさんと須磨さんがもう帰らね? って言って下に降りてったよ。……他は上? なんか飽きたし、そろそろ俺らも撤収しねぇか?」

「そうだな……まぁ、夜中に比べて明るいし、全然怖くないし……ちょっと拍子抜けしたな。全くつまらん……俺はここに刺激を求めてきたんだぜ……」

「俺は、そんなスリリングな展開とか、御免こうむるよ」

 お互い歩み寄りながら、そんな話をする。
 この時点で、俺達は……油断しきってた。
 
 お互い、ソロで動いてて仲間と会って、安心したってのもあったのかもしれない。

 けど、その時の俺は文字通り無防備だった……。
 
 
 ――それは、突然の事だった。

 
 背後に人の気配を感じて、思わず立ち止まった……。
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