妖精王の双剣-愛する兄弟のために身売りした呪われは妖精王に溺愛される

大田ネクロマンサー

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第6章 シュトラウス家の紋章

第12話 夕映え

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アンドリューの到着は遅かった。怪我はまだ治っていないと言うが、来たら早々に馬上槍試合ごっこをしようとはりきっていた。だから馬車が到着した時には2人ともクタクタになってしまった。

西日に照らされた馬車は、俺がここに来た時とまったく同じ場所で停まり、そして、ニールさんは扉を開くなり、その場に膝をつく。


「ニールさーん!」


俺の呼びかけに、ニールさんはこっちを見て少し笑った気がした。

馬車から伸びる人影に、懐かしい面影。俺はこの風景に既視感を覚えた。


「アンドリュー!」

「リノ! シーバル!」


隣の巨体は突然俺を片手で拾い上げて、走りだす。アンドリューの目の前まで3歩くらいなのも、俺が来た時と同じだった。


「アンドリュー! 遅いよ! 朝からずっと待ってたのに!」

「そんな物騒なものを持って、袋叩きにでもするつもりだったのか?」

「みんなで馬上槍試合ごっこしようって、リノがずっと楽しみに待ってたんだよ!」

「そうか……リノ。遅くなってすまなかったな。いつも待たせてばかりで」


その言葉で胸が絞り上げられ、楽園の夕映えに無音が広がる。するとシーバルとアンドリューは顔を見合わせ、なぜか俺の顔を覗き見た。


「な、なに?」

「また泣いちゃうかと思って。でもリノ今日はやること盛り沢山なんだから、泣いてるヒマはないよ!」


シーバルは鼻息を吹き出し、俺を地面に下ろした。


「やること?」


今度はアンドリューと俺がシーバルの顔を見上げる。


「厄災の冬は目前なんだ。だから、アンドリューはここでの暮らしにはやく慣れなきゃ」

「そういえばシーバル。厄災の冬はいつなんだ? 大規模な国営試合が百年に一度ということも最近知ったのだ。厄災の冬も人族は世代が変わるのであまり詳しいことはわからない」

「そうか、リノも同じことを言ってたね。じゃあ教えてあげるからとりあえず宮殿に入ろう。誰かのせいでクタクタだよ」

「シーバルがアンドリュー来るまでやるって言ったんだろ!」


シーバルがくすぐろうと俺の脇腹に手を伸ばしたから、俺は模擬刀でそれを払った。それにシーバルが笑ったから俺も笑う。

今日はそこに違う笑い声が混ざった。


「本当に……変わっていないんだな……」


笑いを堪えて肩を震わせるアンドリューに、俺は今度こそ込み上げるものがあって、俯く。その頭にシーバルの大きな手が乗っかった。


「ニール、食事ははやめに手配してくれ」

「承知いたしました」


そうして宮殿に向かう中で、シーバルは厄災の冬について話をはじめた。




アンドリューが来るともあって、宮殿には少し花が増えた。ニールさんは寝室を別にした方がと食い下がったが、シーバルは3人で寝ると言い張って、結局ベッドを大きくすることで折り合いがついた。


「す……すごいな……シーバルがリノのために用意させたのか?」


部屋に入るなり、アンドリューは咲き誇る花々に感嘆する。しかし俺はそうとは気づけなかった経験からなんだか気まずい空気を出してしまった。


「よかったな、リノ。ちゃんとお礼はできたのか?」

「う、うん。シーバル?」


あまりに自然なアンドリューの言動に、俺は気が動転してシーバルに助けを求めてしまう。


「リノはちゃんとお礼してくれたよ。アンドリューにもちゃんとお礼してもらわなきゃな」

「そうだな。本当に感謝している」


その言葉に、シーバルは片眉を上げていたずらに笑った。

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