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第6章 シュトラウス家の紋章
第10話 選択
しおりを挟む「アンドリュー、俺。今日までにいろいろ考えたんだ。どうしたらリノを諦められるか。でもアンドリューもそれを考えながら生きていくんでしょ?」
「大丈夫だ。諦めはついているし、これからもリノをずっと愛していく」
「それを諦められないって言うんだよ!」
しがみついていた胸が笑いで揺れる。その笑顔を見たくて俺は顔を上げた。
「リノ。泣き顔もかわいいな」
「え!? なんで、俺には見せてくれなかったのに!」
視界の端にシーバルの顔が入ってくる。
「リノは優しいから、アンドリューと帰ったら帰ったで、苦悩を抱えると思うんだ。自惚れすぎかな? リノ」
シーバルは、俺の頬に伝う涙をそっと指で拭ってくれた。
「だから2人でリノを愛さない? みんなで……あの丘で遊んだ時みたいにさ」
「そんなことができたなら夢のようだな。また毎日シーバルに挑戦できるし、リノに俺のいいところを見せられる」
「アンドリューは俺に勝ったことないだろ!」
アンドリューは最後だからか、澄んだ目で嬉しそうに語る。そのアンドリューの額に、シーバルが唇を押し当てた。
「じゃあ、決まり」
そのあっさりとした決意に、俺もアンドリューも顔を見上げる。
「形式上は、シュトラウス家の鞘だけではなく剣も献上させる。アンドリューは国の宝剣になる逸材だから、父上も喜ぶよ」
「どういうことだ?」
「2人と婚姻を結ぶ。そうしたら、3人で暮らせるよ。アンドリューだってリノをひとりじめしたいだろうけどさ。俺だってそうなんだから少しは我慢してよ」
無邪気すぎる提案に、困惑を隠しきれない。そんな俺の表情を見たアンドリューは悲しみに似た困惑を向けた。
「リノは……」
「リノは恥ずかしがり屋なんだから、聞いたって無駄だよ! どうせアンドリューをこのまま帰したら、一生、俺の見えないところで泣き続けるんだ」
「一度、領地の整理をしに帰ってもいいか? 後継人に適任者がいるんだ。詳細はまだ言えないが、きっとリノも賛成してくれる」
「もちろんだよ。迎えに馬車を出すから、日取りは後日決めよう。国の医療者も同行させるから、その怪我もちゃんと治してね。じゃあ、ほら。リノ」
俺が、ただの一言も発せないままに、話がまとまっていく。そしてアンドリューはシーバルにヒョイと取り上げられてしまった。
「本当は俺もアンドリューとまた遊びたいと思ってたんだ。あの頃は必死だったけどさ」
アンドリューはシーバルの頭を抱き寄せ、その額に祝福を落とした。
「ア……アンドリュー……」
「ああ、やっと呼んでくれた。リノ……」
アンドリューが目を細める光景に、俺はなぜかカルロの書簡を思い出していた。
──最近は憑き物が取れたように、明るく前向きになりました。リノをまっすぐに愛したい。リノに選んでもらえるような男になりたい──
「シーバルと、一緒に……ひっ……待ってる! アンドリュー! アンドリュー!」
「ああ、ああ! はやく片付けて戻ってくる。そうしたら、またそうやって呼んでくれ!」
俺は膝から崩れ落ちて、大泣きしてしまう。
「あぁ、あぁ、リノ。そんなに泣いたらまた明日、目が開かなくなっちゃうよ。アンドリュー、この部屋から先は襟元のサーガに任せるから……」
こうして、アンドリューはサーガに、俺はシーバルに抱えられて、生涯忘れ得ぬこの日に幕を下ろした。
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