妖精王の双剣-愛する兄弟のために身売りした呪われは妖精王に溺愛される

大田ネクロマンサー

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第6章 シュトラウス家の紋章

第8話 一期一会

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会期中毎日執り行われるこの儀式は、その日同時に開催される12の試合の最終決戦者に名誉を与えるために執り行われる。

いつもは24名の勝者を讃える毎日の授与式も、今日は2名欠けている。最後の決戦の勝者も敗者もいない授与式は、その戸惑いを払拭できずにいた。

それでも俺は並べられた勲章を今日の決戦者たちに授与していく。受け取った者は俺の手をとり、忠誠の証しとして唇を寄せる。触れられるのは手だけで、決して唇をつけられない。そのことを1日目で学んだ。

シーバルは落ち着かない様子ではあったが、黙ってそれを見守ってくれていた。だから急に立ち上がった時、その物音にビックリして、全員が彼の視線の先に振り返る。


「サーガ。なぜ……」


全員の視線の先に、サーガの肩を借りたアンドリューが立っていた。


「エルフには一生に5度でも、人族は一生に1度だと。彼の言葉に胸を打たれ、私の判断で連れて参りました。応急処置は済ませております。彼にも名誉を賜りたく」


兜で顔を覆わぬ襟元の登場で、決戦者たちが色めきたったのがわかる。そして席を立ち、サーガの元へ駆け下りた時期国王の行動に、会場中が熱を取り戻した。

シーバルはサーガの肩からアンドリューの腕を外す。


「会場中がアンドリューを讃えているよ。少し持ち上げてもいい?」

「シーバル!?」

「そうだよ! シーバルだよ! よくわかったね!」


応急処置のためか、アンドリューの甲冑は上半身だけ脱がされていた。シーバルはアンドリューの腕に触れないよう、慎重に左側から抱え、会場に振り返る。一斉に歓声と熱気が戻った会場に、アンドリューは折れていない方の手を振った。

シーバルはアンドリューを抱えたまま歩いてきて、2人で俺の前にかしずいた。

アンドリューは痛みからだろう、顔中を汗で濡らしていた。俺が差し出した勲章を震える左手で受け取ることはできず、そのままポロッと落としてしまう。それを拾おうとした俺の手をアンドリューに掴まれた。

勲章に目もくれず、必死に俺の手を求めるアンドリューの表情に、胸を揺さぶられる。固く瞑った目に、眉間に寄せた皺。アンドリューはガクガクと震えながら、ひたすらに俺の手だけを求めていた。

シーバルがアンドリューになにかを耳打ちする。しかし、その内容は聞かなくてもわかった。アンドリューは俺の手に唇をつけたのだ。

俺がその感触に囚われている間に、儀式は淡々と進行し、大歓声の中で今日の試合は幕を下ろした。





「サーガ。アンドリューの怪我の処置は時間がかかりそうか?」


シーバルの深刻な声に答えたのは、サーガではなくアンドリューだった。


「この怪我では明日以降の試合は無理だ。リノに会うのもこれが最後だから、無理を言って連れてきてもらった」


今日、アンドリューが勝ち抜いたら、特別に用意した部屋で面会することを予定していた。その部屋に向かう途中で放たれた言葉に、アンドリューを担いでいたシーバルは立ち止まる。


「シーバルはエルフの王だったのだな。相変わらずの図体で、すぐにわかったぞ」

「リノは気づいてくれなかったのに、アンドリューはすごいよ」

「本当のところを言うと、今日の最終決戦の相手がシーバルなんじゃないかと思っていた。彼に勝てたのはシーバルのおかげだな。でもそれで油断してしまった」


シーバルはそれには答えず、また歩きだした。背後を歩いている俺からは2人の表情は見えないが、シーバルはきっと困った笑顔だったに違いない。

部屋の前に来ると、サーガが扉を開けて3人を通した。そのまま彼は扉を閉めて、部屋には入らなかった。部屋は贅を尽くされた応接室ではあったが、安全のためか家具が極端に少ない。


「座るところもない部屋で……ちょっとサーガに椅子を用意させる」

「シーバル、大丈夫だ。降ろしてくれ。そもそも、本当にリノを幸せにできる王なのかを確かめに来たんだ。もう十分だ」


ゆっくりと床に降ろされたアンドリューは苦痛の汗で濡れていた。しかし歪ませた表情の中にあっても、瞳は驚くほど透き通っていた。それがまるで後悔がないということを証明しているように。

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