妖精王の双剣-愛する兄弟のために身売りした呪われは妖精王に溺愛される

大田ネクロマンサー

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第6章 シュトラウス家の紋章

第3話 国営試合開幕

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国営試合は宮廷の出島のようになっている駐屯地の特別会場で行われる。開催期間中にだけエルフ以外の種族が入場できるとあって、出場者はもちろん、観戦者の数も桁外れだった。

今日はてっきり王族全員が観戦に来るのだと思ったが、厄災の冬の準備期間は、次期国王であるシーバルに一任されており、観戦のためのスペースは、前回と同じ顔ぶれだった。シーバルにエスコートされて、2つのうちの1つに着席する。しかしどうしても気になることがあって振り返った。


「サーガ……今日の会話はシーバルのお父様に報告するのですか……?」


今日はエルフ以外にも入場できるとあって厳戒態勢なのか、襟元5名は兜を被ったまま後ろに立っていた。


「いいえ、リノ様。しかし開会式が終わるまでは辛抱ください。開会式の時にだけ、前の帳が外され、ここが会場から見えるようになります」

「帳……?」


俺はもう一度前を見るが、そんなものはない。今日から日をまたいで数日間試合が行われていくが、今日は全日程の参加者すべてが集まる開会式があるとのことだった。外からは熱気が伝わるほど臨場感があり、てっきり以前と同じように外気に晒されているのかと思い込んでいたのだ。


「外からは見えない特殊な結界が、二重に張られています。襟元は人前で顔を出さないというしきたりがございまして……」

「リノ。アンドリューがリノを見られるのは開会式と、毎日の勝者になった時だけだよ」


サーガのことなどどうでもいいと言わんばかりにシーバルは遮った。


「アンドリューは……隣にいるのがシーバルだって気づくかな?」

「リノに夢中できっとそれどころじゃないよ。リノの前に立ちはだかって邪魔しよっと」

「シルヴァル皇、それではリノ様の……」


サーガが言い淀んだ意味は肌で感じた。今日の開会式こそが、俺の呪いが役に立つ恰好の舞台なのだ。


「そろそろ開会式がはじまるから。リノも昨日の練習どおりできたら、あとはまたサーガたちとゆっくりできるから。頑張ろうね」


俺は大きく頷き、胸を叩く。

そして外の熱気が最高潮に達した時、シーバルが俺の手をとり立ち上がった。


「本日よりこの国唯一の脅威に対抗すべく、国軍選抜のための試合を開催する!」


シーバルの声が外の会場に響き渡ると、まるで地鳴りのような歓声が駆け上がってくる。

その音に頬が引き攣り、さっきまでの余裕が押し流されていく。そしてピンと張った緊張の糸だけが残った。シーバルが俺の背中をそっと押す。それは俺への合図だった。


「約束の大地を踏みしめ、その麦で生かされた同胞たちよ! 百年に一度の厄災の冬は目前にまで迫った! 今ともに、種族を超え、世代を超え結束せよ! さらば御神の約束は果たされん!」


言い終わるや否や、あまりの緊張に一瞬、外界の音が消えた。しかしその無音を突き破って大歓声が押し寄せた。ホッとしてシーバルを見ると、彼は優しく微笑んでから顔を外に向けた。

俺も練習どおり、外に向かって手を振る。しばらく外気の熱狂に晒されていたら、潮が引くように熱がなくなっていった。


「リノ、ありがとう。もう大丈夫だよ」

「は……ぁ……緊張した……。でも本当にこんなに少ない時間で大丈夫なの?」


魅了の呪いというが、こんな短時間で影響力があるとは思えなかった。


「形骸的な部分もあるけど……一瞬しか見えないのがいいんだよ、きっと。アンドリューもきっとそうでしょ?」


俺が頷くと、シーバルは笑った。前のような困った笑顔ではない。それが心の底から嬉しい。


「リノ様の……ご兄弟も参戦されるので?」


サーガは兜を脱ぎ去りながら、控えめに質問をする。前に俺が大泣きしたから、またホームシックになるのではないかと心配しているのだろう。


「はい。でももう前回のような失態を演じるようなことはありません。シーバルが俺たち兄弟を見守ってくれています」


サーガは目を細めて笑い、そして他の襟元たちに兜を脱ぐように指示をした。

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