妖精王の双剣-愛する兄弟のために身売りした呪われは妖精王に溺愛される

大田ネクロマンサー

文字の大きさ
上 下
61 / 80
第6章 シュトラウス家の紋章

第1話 変わらぬ日常 ※

しおりを挟む
 結局、辺りをウロウロしてるうちにすっかり夜が明けてきたようだった。
 自販機は鵜の森交差点の上州屋の前に見つけたので、そこでコーヒーやら買って、しばし雑談。
 
 そこからでも、相模外科は嫌でも視界に入る……。
 遠目から見ても、やっぱりそこだけ切り取ったように暗い……。
 
 でも、視界に入れないようにしてなんとなくダベる。
 
「100円玉で買える温もりって……今は、110円って言いなおさないとなー」

「自販機100円って、それいつの話だよ!」

「尾崎豊って、知らね? 今度カラオケで歌ってやるよ……俺、結構上手いよ」

「へぇ、見延君……声、良いしね! 今度、聞かせてよ」
 
 しょうもない雑談が続く。

「この建物って、なんで斜めってるの?」

「ここの上州屋って、元々アルペンだったからね……森野の方にも上州屋あるけど、そっちも元アルペン」

 灰峰さん、妙なことに詳しい。

「どんだけ、アルペン好きなんだよ……上州屋」

 スキー用品のアルペンから釣具屋と華麗なる転身を遂げたこの上州屋。
 このパターンって、意外と多くて、知ってるだけでも3-4件はこのパターンだった。
 
 店の前の自販機前で、若造共がだべってて、さぞ近所迷惑に思えるけど。
 ご近所っても、目の前にあるのは畑……ぶっちゃけ、何もない。
 
 この数年後、灰峰姉さんの影響で、立派な釣り人となった俺は、ここの常連になるのだけど、それは暫く先のお話。
 まぁ、釣りに関しては、この灰峰姉さんが師匠的な感じになって、あっちこっち行くことになるのだけど、その行く先々で割と心霊現象を体験するハメになる。
 
 それはともかく、時刻は午前4時……すっかり空が明るくなっていた。

 待望の夜明けである。
 
 待ってましたとばかりに、俺達は、朝日を浴びながら、相模外科の前に再び立っていた。

 今度は、フルメンバー……そのまま帰るのも何だからと、とりあえず目の前まで来てみた。
 
 さすがに、灰峰ねーさんに色々吹き込まれたので俺も、ややビビり。
 
「……で、どうよ? つか、先陣は任せたよ……ねーさん」

「いや、何があったのか知らないけど、なんか……嘘みたいに雰囲気が変わってる……なにこれ? 何が起きたの?」

「ホントだ……夜が明けたら、いきなり雰囲気変わったな……」

 相変わらずだったら、今日は撤退と言ってた灰峰ねーさんもさっきと様子が違うと言って、今度は乗り気。

 徳重も同じようなこと言ってる。
 
 ホントかよ? でもなんとなく、前に来た時に感じてた圧迫感が和らいだような気がする。
 
「なんかもう俺達だけみたいだし、すっかり明るくなってるから、中見て回ってみる? ここで解散っても消化不良っしょ」

 と言うか、コンビニ探すと言っときながら、単に辺りをウロウロして自販機囲んでただけだった俺達。
 ぶっちゃけ皆、何も言わなかっただけで、思いは一つ!
 
『明るくなってから、こよーぜ!』
 
 要は、モノの見事に揃いも揃って、ヘタれてたってのが実情。
 もっとも、明るくなったら、無駄に強気化……そんなもんなんである。
 
「……なんだこれ。……ホントに同じ場所なのかな?」
 
 確かに明るくなったのもあるだろうけど、もう入った時の雰囲気が全然違う。
 
 夜明け間際の冷たい空気は相変わらずなんだけど、ただの廃墟……そんな感じだった。
 
 ちなみに、地下室はスルー! 
 だって、そこだけは常闇なんだもん。
 
「なんか、ちょっと目を放した隙に建物自体がごっそり入れ替わったんじゃないかって、気もするね……それくらい、雰囲気が違う……さすがに、これは君達でも解るんじゃないかな?」

「そこまでかよ……確かに、雰囲気がぜんぜん違うけど……」

「そこまでだよ……まぁ、これなら、多分大丈夫だから、物理的に気をつければ、何の問題もないと思うよ」
 
 そして、何となく皆バラけて、あちこち好き勝手に歩き回る。
 須磨さんは、灰峰ねーさんに付いてったらしく、俺ソロ状態!
 
 俺は二階を散策する。 
 なんとなく上には行きたくなかったもんで、階段付近をうろついて、部屋の中を覗いてみたり、背後を気にしながら、いつでも撤退できるように……この辺、俺ヘタレ。

 須磨さんと灰峰ねーさんがキャイキャイ言いながら、下に降りてったのを見送り、俺も帰ろうかなと思ってたら、反対側の階段から高藤がぬっと姿を見せる。
 
 ちょっとビビったのは内緒。
 
「高藤ちゃん、ちゃーっす! どうよーっ! なんか面白い事あった?」

 二階の廊下を、もう三回目くらい往復して、何も居ないって確認済み。
 もう怖くもなんとも無くなってたから、高藤への挨拶も軽いもの。
 
「おーうっ! 見延っ! なんだ上にいないと思ったら、こんなとこで一人でウロウロしてたのかい? てか、怖くなったんだろ? ベイビー! 何なら、俺様が熱い抱擁でも……」

 高藤はたまにこの手のホモネタを振ってくる。
 まぁ、俺はいつも華麗にスルーなんだけどな!

「いらねぇよ……さっき、灰峰ねーさんと須磨さんがもう帰らね? って言って下に降りてったよ。……他は上? なんか飽きたし、そろそろ俺らも撤収しねぇか?」

「そうだな……まぁ、夜中に比べて明るいし、全然怖くないし……ちょっと拍子抜けしたな。全くつまらん……俺はここに刺激を求めてきたんだぜ……」

「俺は、そんなスリリングな展開とか、御免こうむるよ」

 お互い歩み寄りながら、そんな話をする。
 この時点で、俺達は……油断しきってた。
 
 お互い、ソロで動いてて仲間と会って、安心したってのもあったのかもしれない。

 けど、その時の俺は文字通り無防備だった……。
 
 
 ――それは、突然の事だった。

 
 背後に人の気配を感じて、思わず立ち止まった……。
しおりを挟む
口なしに熱風| ふざけた女装の隣国王子が我が国の後宮で無双をはじめるそうです

幽閉塔の早贄 | 巨体の魔人と小さな生贄のファンタジーBL

皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

口なしの封緘
感想 0

あなたにおすすめの小説

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~

ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...